*第4回*  (H24.6.15UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は新潟大学での取り組みについてご紹介します。

新潟大学医学部の地域医療への取り組み
(文責:新潟大学医学部長 髙橋 姿 先生)

 新潟県では人口10万人当たりの医師数が191.2人(平成20年末)であり、全国ワースト6位と、その広大な面積も考慮すると著しい医師不足の地域の一つです。従って、人口235万人の新潟県にあって唯一の医育機関である新潟大学医学部に課せられた役割、期待は大きなものがあります。そこで、新潟大学医学部における地域医療の人材養成の取り組みを紹介します。

1)医療人育成支援プログラムの活用
 新潟大学医学部では平成17年度に文部科学省から募集された特色GP「地域医療等社会的ニーズに対応した医療人育成支援プログラム」に「赤ひげチーム医療人の育成」プログラムで応募し採択されました。このプログラムでは地域をシステムとして支える医療チームのリーダーとなれるような医師を養成することを目指しました。このプログラムはその後も独自に続けられていて、多くの医療系学生が参加しています。また、このプログラムにより多職種連携教育の素地が作られたことからも、その意義は大きいと思われます。


2)地域医療教育の実践
 上記の実績をもとに、新潟県の寄附講座として総合地域医療学講座が平成21年6月より新潟大学大学院医歯学総合研究科に設置されました。この講座の目的は新潟大学医学部において地域医療教育を実施し、これまで医学生に対して系統立てて行われていなかったプライマリケアや総合医療を中心とした臨床実習の場を提供することです。
 総合地域医療講座では、平成22年度より全ての医学科5年次生を対象とし、山間部の新潟県魚沼地区において地域医療臨床実習を開始しました。この実習では、魚沼地区の地域中核病院である県立小出病院を中心としたエリアにおいて訪問診療や訪問看護などの在宅医療や、地域包括ケアなどを学ぶ機会を設けています。また、地域医療再生基金をもとに設立された住民教育などを目的とした地域医療魚沼学校とも連動し、例えば小中学生に対して行う禁煙授業の一部を医学生が担当するなどしています(図1)。寄附講座の教員は地域医療教育を実践しつつ、県立小出病院を中心とした地域の診療にも従事しています。
 なお、平成24年度からは6年次生の希望者に対して、より高度な地域医療学の診療参加型臨床実習を開始しました。

   
   図1 地域医療臨床実習の様子


3)地域枠医学生や県費修学生への対応
 新潟大学医学部では平成21年度より奨学金の貸与を義務づけられた地域枠医学生の募集を開始し、平成24年度では4年次生以下35名の医学生を擁するまでになっています。そこで、新潟県主催による新潟大学の地域枠医学生、他大学の医学部在籍の県費修学生、自治医科大学の学生を一堂に集めて行う夏季実習にも新潟大学医学部として積極的に関与しています(図2)。またこの夏季実習には新潟大学医学部長を始め新潟県の医療関係者が出席するなどし(図3)、他大学を卒業する医学生にも在学中から新潟大学医学部関係者の顔が見える関係を構築して、彼らが一層Uターンしやすくなるよう努めています。つまり本学の地域枠医学生だけでなく、他大学の県費修学生や自治医科大学も含めて、卒業後に新潟県内に勤務する全ての医師の一体感を醸成するため、新潟大学医学部が中心的な役割を果たすようにしています。また、新潟県では県内の基幹型研修病院の集まりである良医育成新潟県コンソーシアムが結成されていますが、ここでも新潟大学医学部が中心となって積極的に関わっています。

   
   図2 夏季実習の様子
   
   図3 夏季実習全体写真


4)今後の展開
 魚沼地域では、新潟県の主導により新たな地域中核病院としての魚沼基幹病院(仮称)の建設計画が、平成27年6月の開院に向けて進められています。そこに新潟大学医学部における地域医療の実習・研修・研究の拠点を併設する予定です。総合地域医療学講座との連動はもちろん、平成23年度より新設された県の寄附講座である健康増進医学講座も加わります。健康増進医学講座では、地域でのコホート研究を行い、研究成果を地域住民に還元することで地域の健康増進に寄与することを目指しています。すなわち、新潟大学医学部は、魚沼基幹病院(仮称)が地域医療学の教育・研修・研究の総合的新拠点として大きく発展することを、期待していますし、そのための努力をしています。

5)まとめ
 新潟大学医学部は、新潟県や、関係する諸機関と良好な関係を維持しつつ連携し、新潟県における唯一無二の医育機関として、地域医療を実践できる人を総合的に育成・発展させていくための重要な役割を担います。