*第40回*  (H27.9.7 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は京都大学での取り組みについてご紹介します。

京都大学医学部の地域医療への取り組み
文責 : 京都大学大学院医学研究科 医学教育推進センター 教授 小西 靖彦 先生
                          助教 宮地 由佳 先生
 京都大学医学部は、医療の第一線で活躍する優秀な臨床医・医療専門職、次世代の医学を担う医学研究者、教育者の養成をその責務としている。既存の知識を応用して医療にあたるだけでなく、医学事象の背後にあるものを見抜き、広く社会と人間行動を理解し病める人の感情を洞察できる人間、社会全体の健康を目指し高い倫理観を持って行動する人間の創出を目的とした教育の実践として、以下のような取り組みを行っている。

A. 早期体験実習I
 「早期体験実習I」は2006 年度から実施されていた 旧「外来患者支援ボランティア実習」を改編し、2013 年度より新しく開始したプログラムである。「自分の目指す医療者への理解」、「医療での多職種連携への理解」、「患者の視点からの医療・病院への理解」の三点を柱とした本実習は、入学したばかりで医療についての知識・経験はほとんどない京都大学医学部医学科・人間健康科学科・薬学部の1回生がチームになり、様々なな地域医療の現場、そこで働く医療プロフェッショナルたちの仕事に触れ、事後のワークショップで経験を深めることを通し、医療系学生としてのキャリア形成やチーム医療を学ぶ機会となっている。自ら関心を見つけ積極的に行動する力、現場での医療者や患者とのコミュニケーション力、実習生としてのマナーや倫理的配慮の醸成が求められる内容となっている。
 
  事後ワークショップでのディスカッション

B. 臨床実習「地域医療・総合診療」
 複数のAcademic GP (General Practitioner)を擁する医学教育推進センターが主体となり、2014年、内科8診療科・外科4診療科・小児科・産婦人科・精神科に並ぶ「必修科」として、2週間の「地域医療/総合診療」の臨床実習が新設された。大学の総合診療医と地域医療機関の総合診療医とがネットワークを構築し、大学での年1回の指導医ミーティング、大学から年1回のサイトビジットなどを通して、必修カリキュラムとして何を学ぶべきか、評価方法や合否判定基準などについて議論を重ねながら実習を構築している。多臓器にわたって複数の疾患を同時に抱える患者に対し、病歴・身体診察を重視し、また心理・社会面にも配慮した診療を行えるようになることが本実習の一つの目標である。加えて本学の研究者育成という使命から、基礎医学・臨床医学に加えて社会医学研究者として種々の問題に対峙する視点、「問い」の萌芽を促すことを第二の目的としている。
 医学部5回生の学生たちは各々の医療機関で実習を行った後、最終日には大学に戻り、それぞれが学んだことを共有し、互いの問いからディスカッションを通して更に学びを深めている。

 

C. 寄附講座「地域医療システム学講座」の開設
 病院機能分化の進む中、京都大学医学部附属病院が地域で担うべき役割を明確に示し、関係病院との連携を強化するとともに、地域各自治体との医療行政上の連携や地域の医療機関との連携の整備・充実、臨床研究・臨床医学教育のハブとしての役割を果たすべく、公立小浜病院組合(福井県小浜市)に寄附講座「地域医療システム学講座」が開設された(2014年4月1日から2017年3月31日まで)。診療科専門医療を遂行し、地域における専門医育成に寄与するため、京都大学医学部附属病院の診療科と、専門医のいない(ないしは不足している)地域の公立病院の常勤医とが最新の医療知識を共有する定期的な機会の創出、ITを利用した遠隔診断・遠隔医療支援システムの構築などを行っている。


D. 関係病院長会議における意見交換
 歴史的に多くの関係病院と協力関係を持つ京都大学医学部は、広く地域における医療を支えている。卒前の実習、卒後研修とともに、専門医の育成にも地域と協働してあたることが、さまざまな地域の医療を守り、質を高めることにつながっている。京都大学医学部は、定期的な関係病院長会議で意見交換を行うことで、緊密な関係を構築している。