*第45回*  (H28.3.4 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は長崎大学での取り組みについてご紹介します。

長崎大学医学部の地域医療人育成の取組について
文責 : 長崎大学医学部・大学院医歯薬学総合研究科 地域医療学分野教授  前田 隆浩 先生
  長崎大学医学部長 下川  功 先生 

 長崎県の医師数は、人口10万人当たり288.7人(厚生労働省大臣官房統計情報部「平成24年医師・歯科医師・薬剤師調査」)で、全国平均237.8人を上回っているものの、地域偏在が著しく、県南地区172.2人、県北地区126.8人、五島地区183.5人、上五島地区150.5人、壱岐地区130.6人、対馬地区169.4人と、離島と県北・県南地区における医師不足が深刻な医療課題となっている。こうした中、長崎大学医学部では、長崎県が昭和45年に創設した医学修学資金貸与制度とも連携しながら、長年にわたって地域医療を担う人材を輩出し、地域医療の向上に貢献してきた。
 こうした県内の医師不足に対応するため、まず平成20年度入学者からAO入試枠に地域枠を設け、定員5名を割り当てた。そして、平成21年度以降、「緊急医師確保対策(H19.5)」、「経済財政改革の基本方針2009(H21.6 閣議決定)」、「新成長戦略(H22.6 閣議決定)」に沿って主に地域枠定員を段階的に増員してきたが、平成28年度入学者選抜では地域医療特別枠をさらに2名増員し、下記の通り地域枠入学制度を拡充した。推薦入試BとCでは医学修学資金の貸与を入学条件としている。

●推薦入試A(地域医療枠):定員15名
●推薦入試B(地域医療特別枠):定員8名
●推薦入試C(佐賀県枠):定員2名、(宮崎県枠):定員2名
 医学教育モデル・コア・カリキュラムにも明示されている通り、地域ニーズに応えることのできる医療人育成のためには、入学後早期から段階的・体系的に地域医療教育を進めていくことが重要である。長崎大学では、平成16年5月に長崎県と五島市による寄附講座「離島・へき地医療学講座」(教授1名(兼務)、助教2名)を開講したが、開講と同時に離島での活動拠点として長崎県五島中央病院内に離島医療研究所を設置し、地域の保健・医療・福祉施設と連携しながら本格的な地域医療教育をスタートさせた。臨床実習の一環として1週間滞在型の地域医療実習を開始したが、徐々にその規模とフィールドを拡大し、今ではほぼ長崎県の離島全域へと展開している。本実習では、歯学部生、薬学部生、保健学科生との共修に加えて他大学の医学生を受け入れており、既に受け入れた学生数は2,500名を超えた。

 平成24年7月には正規分野として地域医療学分野(教授1名、講師1名、助教1名)を大学院医歯薬学総合研究科に開講し、離島・へき地医療学講座と連携しながら、長崎県本土の地域中核病院において1週間の地域病院実習を開始した。学外の医療現場における実践教育を充実させるとともに、県内全域の臨床研修病院で実習することで、卒前の地域医療教育と卒後臨床研修との連結効果が期待されている。

 平成26年6月に医療介護総合確保推進法が成立したことに伴い、地域医療構想の策定と地域包括ケアシステムの構築が進められているが、地域包括ケアシステムを理解するためには、これまでの医療モデルに加え生活モデルの視点に立った教育が欠かせない。長崎大学では、平成24年度文部科学省企画の未来医療研究人材養成拠点形成事業テーマB「研究マインドを持った総合診療医の育成」に採択されたことを受け、大学院医歯薬学総合研究科に地域包括ケア教育センター(教授1、助教6)を設置した。地域包括ケアとチーム医療に関する教育の充実を目的として、長崎純心大学現代福祉学科との共修を推進するとともに、長崎市役所と長崎市医師会に連携調整員(保健師1名、介護福祉士1名)を配置し、主に長崎市内の多施設と連携して地域包括ケアに関する教育をスタートさせた。さらに、長崎市の中核病院(ながさきみなとメディカルセンター市民病院)に連携大学院(地域包括ケア学)を設置し、地域包括ケアに関わる研究体制を整備した(図1)。

   

 これまで約12年にわたる地域と連携した取組によって、離島・へき地医療学講座、地域医療学分野、地域包括ケア教育センターが中心となって、図2に示す通り、1年生から6年生に至るまで一貫した卒前地域医療教育が構築され、さらに、医療系他学部や福祉系大学との共修を基盤としたチーム医療・ケア教育が実現した。こうした地域医療教育を履修した学生が核となって、学部と大学を超えた活動サークル「たまごの会」と地域枠学生による「地域枠同窓会」が発足し、学生レベルの多職種連携と学生間ネットワークが進んでいる。

   

 卒後臨床研修における地域医療人育成の取組としては、長崎大学病院と県北地区で特色ある取組を続けている。長崎大学病院の卒後臨床研修プログラムでは、県内15カ所の協力病院で1年間の研修を受けることが可能であり、研修医全体の8割以上がこの研修を受けている。また、離島を含む48施設で必修(1ヶ月〜3ヶ月)の地域医療研修を受けることができ、さらに特別コースとして家庭医・総合医コースが用意されている。
 長崎県の県北地区は、人口10万人あたりの医師数が126.8人と、長崎県内でも最も医師不足が深刻な地域である。県北地区の医療向上を目的とした取組が、平成17年に文部科学省の地域医療人育成GPに採択されたことを受けて、長崎大学病院にへき地病院再生支援・教育機構が設置された。県北の平戸市民病院に教育拠点を開設し、教員(准教授)を常駐させて主に初期臨床研修における地域医療研修の拠点として総合医育成に取り組んでいる。GP終了後は、長崎県の支援を受けながら平戸市の委託事業として事業を継続しており、平成26年度からは近郊の医療機関と連携してコンソーシアムを構築し、全国から毎年訪れる70〜90名の初期臨床研修の指導にあたっている。
 また、平成28年度には地域医療支援センター(ながさき地域医療人材支援センター)が長崎大学病院内に設置されることになっており、本センターとの連携のもと、地域枠学生の指導・支援はもちろん、卒前から卒後へと連動する地域医療人育成の取組をさらに活性化していく予定である。