*第48回*  (H28.7.14UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は高知大学での取り組みについてご紹介します。

高知大学医学部の地域に貢献する人材育成について
文責 : 高知大学医学部 家庭医療学講座 教授  阿波谷 敏英 先生

 平成16年度の初期臨床研修必修化に端を発したいわゆる地域医療崩壊への対応は、本学のような地方大学にとっては喫緊の課題です。四国は、帰学率が28.2%と全国で最も低く、また自大学卒業者の割合が87.5%と全国で最も高い地域です(平成23年度全国医学部長病院長会議調査結果)。すなわち、自大学出身者の県外流失が多く、かつ、他大学出身者の流入が少ないという大変厳しい状況におかれているということです。
 ご承知のように、平成20年度の緊急医師確保対策以来、医学部入学定員増の状況が続いており、その多くが地域枠として奨学金を与えるなどの地域定着策が図られています。現在、その対象者は医師として勤務し始めたばかりであり、期待通り地域医療が再生されるかどうかは、まだまだ予断を許さない状況であると考えられます。
 高知大学医学部では、平成21年度より入学定員増をおこない、推薦入試
(四国・瀬戸内枠)として15名、前期試験地域枠として10名、計25名を選抜しています。全学生704名のうち150名の地域枠学生が在籍しています(平成28年4月1日現在)。この学生は、高知県医師養成奨学貸付金(以下、奨学貸付金)を受給していますが、それ以外にも希望して受給している学生も20名あまりおります。平成26年度には、初めて定員増後に入学した学生が卒業し、現在、奨学貸付金を受けた40名の研修医が県内で臨床研修をおこなっています。今後、地域での活躍を大いに期待しているところです。一部には、地域枠推薦入試により成績を懸念する意見もあるようですが、本学において地域枠学生の成績は決して他の学生と見劣りすることはなく、留年率も高くありません。現役での国家試験合格率も100%を達成しています。
 さて、地域枠学生には「奨学貸付金で自由が制限されている」という意識ではなく、「高知県の地域医療を牽引するリーダーになる」という自覚を持っていただきたいと願っています。そのために高知大学では、平成21年度より地域枠学生等アドバイザーワーキンググループ(以下、地域枠WG)を組織し、積極的に活動をおこなっています。具体的には、知事や医学部長との面談の機会をつくったり、夏期休暇を利用した地域医療実習(幡多地域医療道場)を実施したり、5、6年生にキャリア支援のための面談をおこなったり、年2回の懇親会をおこなったりしています。学生たちには、将来ともに働く仲間であることを意識してもらい、奨学貸付金を受給している学生のグループ名を自ら「SEED」と名付けてもらいました。これには、①自分たちは未来の高知県の医療の種である、②自ら種を蒔く人になろう、③高知の医療に優先的に関わるシード権を持っている、の意味が込められています。「SEED」という名前は、高知大学の中では教職員、学生の誰もが認知しており、その込められた想いをともに実現していきたいと思っております。
 地域に貢献する人材の育成には、1)入学試験において地域志向性のある人材の選抜、2)地域医療教育の充実、3)卒業後のキャリアデザインの支援、の3つの要素が欠かせないと考えています。地域枠入試は1)の一環ではありますが、それだけでは十分と言えません。地域に密着した大学として、地域医療機関、行政等と連携し、すべての学生に充実した地域医療教育をおこなうこと、学部教育から初期臨床研修、専門研修へとシームレスに繋がる生涯教育の視点が重要です。初期臨床研修においては、高知県内の基幹型臨床研修病院すべてが他の協力型臨床研修病院となり、柔軟かつ充実した研修をおこなうことができるようになりました。また、地域医療研修は、平成16年度当初より、高知県の共通プログラムをおこなっております。こうした取り組みにより、高知県全体で研修医を育てる雰囲気が醸成されてきております。この成果は、ここ数年、卒業生の県内定着割合の改善(図)、3年目医師の入局者数の増加として表れてきております。県外で臨床研修をおこない、3年目に本学に戻って来てくれる卒業生も増加してきております。

 

 さらに、平成29年度から開始される新しい専門研修においても、高知大学医学部附属病院は、19の基本診療領域のすべてにおいて基幹施設としてプログラム申請をおこないました。これらのプログラムには、連携病院として県内医療機関が多く参加しており、地域全体で良き医療人を育成する体制が整いつつあります。県内医療機関の指導体制の充実は、人材育成のためだけではなく、地域医療機関の診療機能が充実することでもあり、地域医療の確保という点からも大変重要であると考えております。
 平成27年度には、高知県によりSEED卒業生の奨学貸付金の償還免除要件の見直しがおこなわれ、条例改正により専門研修プログラムの連携施設も指定医療機関に含まれることとなりました(ただし、県中心部での勤務は3.5年を限度とする)。この改正によりSEED卒業生も他の卒業生同様に専門研修を受けることが可能となりました。これには高知県知事をはじめ関係者の理解があったことはもちろんですが、地域枠に関わらず地域に貢献する人材を輩出してきた本学の取組みについての評価をいただいた結果ではないかと自負しているところです。

 高知大学医学部は、その教育目的の一つとして「地域医療に密着した学風をつくり、高知県の地域医療に貢献する強い意欲をもつ医療人を育成する」と掲げています。高度医療の提供、先端医療の研究推進とともに、地域に貢献する医療人を輩出し、またその生涯教育の役割も担う、地域に密着した大学として責を果たしていきたいと考えております。
  国立大学医学部長会議の関係の皆様におかれましては、今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。