*第53回*  (H28.12.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は鹿児島大学での取り組みについてご紹介します。

地域医療教育への取り組みと今後の課題
文責 : 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 国際島嶼医療学講座
        地域医療学分野   教授 大脇 哲洋 先生 
        国際離島医療学分野 教授 嶽﨑 俊郎 先生 
 鹿児島大学では、平成13年度から離島やへき地での医療実習を開始し、平成14年には学士入学全員に行い、平成19年度からは医学科生全員に行っている。期間は最低1週間とし、4週間までの延長を可能としている。これを夏休み期間には全国の医学生にも拡げ、これまでに当大学以外に55大学120名に対しプログラムを提供してきた。この中から、鹿児島県の離島に興味を持ち、実際に初期臨床研修を行う医学生も現れてきている。実習の内容としては、①離島へき地の住民と触れ合う、②ロールモデルである現地就労医師の話を聞く、③地方での在宅診療の現場を体験する、④地域包括支援センターや保健センターの保健師の話を聞く、⑤引率する医師と医療について語り合う、⑥地域を周り、歴史・地理を感じる、等を掲げて行っている。
 地域医療に関する講義としては、平成14年度から「離島医療学」4コマを開始し、平成17年度からプライマリ・ケアを含む「鹿児島一次医療系」20コマに発展し、平成25年度から地域包括医療などを強化した「地域・総合診療・症候」61コマ中の地域医療20コマを行っている。いずれも、離島医療など地域モデルを生かして、現場の医師にも講義をお願いしている点が特色である。

 当大学の医学生全員に行う離島・地域医療実習は、鹿児島県の有人離島27島のうち、北から獅子島、上甑島、下甑島、種子島、屋久島、奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島、沖永良部島、与論島などで行っている。また、本土での実習地として、薩摩半島の山間部、大隅半島でも行ってきた。離島は交通費が高く、学生の経済的負担も大きいために、宿泊費なども含めた全実習費用320万円あまりのうち、20%を学生負担とし、40%を講座の運営費から、40%を医学教育を目的とした医学部医学科への寄付金から充当している。学生の支出に関しては、自分で費用を負担することで、内容の充実に繋げる意味も持っていると考えている。

 地域枠医学生については、現在1・2年生(各々17名)の夏休みに約4~5日間の離島へき地での実習を行っている。内容は上記の①~⑤と同様である。3年次の夏休みには、一人一つずつ(20名)、地域医療に関する課題を決めて、研究・調査を行っている(表1)。4・5年次には、全国での地域枠医学生関連の学習会や、地域医療教育に関する研究会や学会での発表を希望者には提供している。また、4年次には毎年数名の医学生が、新潟県魚沼地域での、新潟大学の地域医療実習に参加している。これら地域枠医学生の実習費用は、鹿児島県からの資金提供により賄っている。

 また、その他にこれまで、帝京大学、新潟大学、神戸大学、筑波大学などの医学生に、選択臨床実習として、鹿児島の離島地域で学修プログラムを提供している。

 地域医療実習として、まだ不十分な分野が、在宅医療、地域包括ケア、患者教育であり、平成29年3月からは、この3分野の充実を図るために、医学科6年生全員に都市部の在宅専門診療所、地域包括支援センター、保健センターでの実習を計画している。更に、少子高齢化に加え、過疎化が進む地域に於いて、医療は地域貢献にも大きく関わる要素であり、「地域貢献としての医療のあり方」も学ぶ機会を広げていきたいと考えている。

 少子高齢化、老年医療の拡大、過疎化、緊縮財政といった、医療を取り巻く環境に柔軟に対応できる医師の育成をこれからも目指していきたい。

 
  図1 加計呂麻島へ漁船で渡る医学生 図2 ハブ咬傷について保健所で学ぶ