*第61回*  (H29.8.21 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は九州大学での取り組みについてご紹介します。

九州大学医学部における地域医療人育成の取り組み
文責 :  九州大学大学院医学研究院地域医療教育ユニット准教授 貝沼 茂三郎 先生
   
 九州大学医学部では2010年度改訂の医学教育モデル・コア・カリキュラムを受けて、2012年に地域医療教育ユニットを設置し、卒前の地域医療実習の充実を図ってきた。本ユニットが設置され、今年ではや6年目を迎えたが、この6年間試行錯誤を繰り返し、他大学の実習などを参考にしながら、実習の充実を図ってきたが、その具体的な内容について紹介する。
 地域医療に関する学部教育としては2年次に全員が地域の医療福祉施設(重度心身障がい児施設、回復期リハビリテーション施設、ホスピス等)で見学・体験実習を行い、将来へのモチベーションを高めてきた。本年度改訂された医学教育モデル・コア・カリキュラムの中にも、地域医療実習に関する項目で、早期臨床体験実習を拡充し、低学年から継続的に地域医療の現場に接する機会を設けることが方略として挙げられている。そこで継続的に地域医療の現場に接するということから、今年度は従来の施設での早期体験実習に加え、一部の学生を対象として少人数の班を作成し、高学年次での地域医療実習受け入れ施設にて地域医療に携わる多職種の業務体験を中心とした早期体験実習をパイロット的に行った。それらの学生に実習前後での地域医療に対する意識の変化を検討したところ、実習前後で他職種との連携や地域医療を担う意欲・使命感などについて意識の変化が認められた。また「地域医療の現場を体験しよう」では選択型の参加型早期体験実習として6年次での実習施設である郊外の公立病院、緩和ケア病院の見学、訪問看護の同行を含むプログラムを1回実施し、2年生3名が参加した。
 高学年次では、5年次(全員必須)は2日間の学外での地域医療実習を行ってきたが、2015年度からは地域医療実習を1週間に拡大した。現在は初日にオリエンテーションを行い、火曜日:診療所・クリニック、水曜日~金曜日:地域病院での実習を行い、全員が診療所・クリニックもしくは地域病院いずれかの実習で訪問診療の現場を体験することができるようにプログラムを作成している。具体的には11の地域病院と10の診療所・クリニックで医療面接ならびに身体診察、訪問診療・看護・リハビリ、ケアマネージャー業務同行、老健施設やデイケアなどで参加型の実習を行っている。さらに6年次の選択臨床実習では、5月~9月にかけて16週間の臨床実習期間を設け、4週間ずつ4クールの実習を行っている。特に地域医療実習に関しては2013年から福岡県郊外の6つの地域病院で4週間の地域医療実習を行っている。6年次における実習では、5年次での実習プログラムの中で同じ患者さんを繰り返し担当することとし、それ以外には保健所実習、地域住民への健康講話、地域診断、病棟主治医(入院から退院支援まで担当)を行いながら、その地域をより理解できるような実習プログラムを行っている。これまでに計18人の学生が実習を行ったが、その中から家庭医・総合医を目指す医師も育ってきている。また卒業生に行ったアンケート結果では、6年次の地域医療実習によって、研修医時代に病診連携が非常にスムースにできるようになったとの回答が多かった。
 また5~6年次の地域医療実習に地域医療教育ユニットの教員も同行したり、年1回の指導医講習会を行いながら、それぞれの施設での実習内容をより診療参加型にできるように各病院やクリニックの指導医の先生方との良好なコミュニケーションを図っているが、昨年度の5年次の地域医療実習後におけるアンケート結果から、実際の現場では施設毎で参加型プログラムの実施にばらつきがあることがわかった。また同アンケート結果で “地域医療を担う意欲や使命感を獲得する”は有意な意識の変化が認められたが、“地域医療を担う医師に魅力を感じる”や“地域医療に従事したい”に関しては実習前後で意識の変化は見られなかった。そこで今年2月に初めて多施設・多職種参加による指導医講習会を行った。16施設36名の関係者が参加し、問題点ならびに解決策についてワークショップを開催した。その結果、これまで指導医を中心とした講習会では抽出されなかったさまざまな問題や考える体験といった改善策が提案された。そこでその内容を各施設にフィードバックし、実習に携わる多職種の方々と情報共有した。さらに2014年度から科学研究費助成事業基盤Cとして「ヘルスサービス基盤型地域医療リーダー養成プログラムの開発研究」が採択されたが、その研究の中で地域医療のリーダーにとって必要なコンピテンシーとして①長期的視点②チームビルディング③交渉力④診療能力⑤経営能力⑥自分が地域医療を楽しんでいることの6つを抽出できた。現在は5年次のオリエンテーションで地域医療のリーダー像についても議論を行い、地域のリーダー的役割を動機付けした上で実習を行っている。今後はさらに地域医療の魅力をより伝えることができるプログラムに改訂し、地域医療の現場でリーダー的役割を果たすことができる医師を増やすことができるように取り組んで行きたい。


   地域医療実習で保健所実習を行う6年次学生
地域医療実習で患者の処置を行う5年次学生(左から2人目)と
早期体験実習で5年生の実習を見学する2年次学生(右の2名)
 
多施設・多職種参加による指導医講習会