*第42回*  (2021.9.27 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は岡山大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における岡山大学医学部と地域医療機関との連携
文責 :   岡山大学地域医療人材育成講座/卒後臨床研修センター
 岡山大学医学部
小川 弘子 教授
豊岡 伸一 医学部長

【卒前教育】
 岡山大学医学部医学科では6年間の学部教育の中で近隣県を含む多くの地域医療機関と連携し地域医療教育を行っている。2009年度より地域枠1年生を対象に早期地域医療体験実習がスタートし、2010年度からは一般学生の希望者へと対象を拡大した。2020年度から入学直後に先輩学生から新入生に対し地域医療の魅力を伝える「地域医療ガイダンス」が学生の発案により開始され、新入生の約半数にあたる計40-50名が一般枠は1週間、地域枠は2週間の実習に参加している。「門出の春に心を耕す」をモットーに、地域医療の現場での実体験を通して必要とされる医療を見据えて能動的に医学を学ぶ経験を重視している。また、1年生の同実習の成果は学生企画の地域医療シンポジウムとして同学年の生徒に共有している。同シンポジウムには岡山県保健福祉部や実習受け入れ先施設の指導医やスタッフ責任者も参加し、実習の成果の共有を行っている。

 

 2012年度の3年生からは、一般枠学生に1週間、地域枠学生に2週間の地域医療体験実習を必修化している。臨床実習の前に地域医療の現場を経験することで、学生は地域の医療に貢献する医師の姿や地域住民とのふれあいから様々な学びを得ている。地域医療実習は量、質ともに近年で大きく発展し、今年度は医療機関55施設にご協力をいただいている。
 本学の地域医療教育は「らせん型カリキュラム」を特徴としている。地域医療の実習は1年次、3年次、5-6年次と複数回の機会があり、1年次には医療・介護・福祉を中心とした様々な分野を広く経験することを推奨し、3年次にはより医療的な内容を増やし、5-6年次にはクリニカルクラークシップとして医療チームの一員として役割を果たすことを求めている。このように、地域医療の現場でも学ぶ内容や視点を少しずつ変えていくことで、地域医療の様々な側面を学び、自身の成長も実感できるカリキュラムとしている。

 地域医療実習前の事前学習として、実習の心構えやスタンダードプリコーションの講義とともに、模擬患者の協力を得て1年生に対しても医療面接実習を行っている。臨床医学の知識に乏しい低学年ではあるが、まず患者さんの物語を聴き、気持ちに寄り添うことを目標としている。コミュニケーション教育、プロフェッショナリズム教育としても役割を果たしていると考えられる。
 「地域で学ぶ、地域で育つ」を実践するために鍵となっているのが地域との顔が見える連携の構築である。150年の歴史に支えられた大学と地域の医療機関の連携の強さを基盤とし、地域の中小の病院の理事長、院長を中心として組織された地域医療部会での顔が見える連携の場が重要である。ここでは、岡山大学にて教員も参加し、月1回の定例会を開催し、地域医療における課題や人材育成について意見交換を重ねている。さらに、地域医療体験実習の期間には地域医療人材育成講座教員が医療機関を訪問して学生の様子や実習の現場を視察させていただき、学生の日々の振り返りをオンラインで共有している。また、12月には「地域指導医講習会」として地域医療機関の先生方にお集まりいただき、講演やWSを開催し、より良い実習に向けて一緒に考えている。学生実習を行うことがさらに地域の医療機関と大学との連携を一層深めていることが実感できる。現在の新型コロナウイルス流行下においても地域医療体験実習を継続できていることは、本学と連携する学外医療機関の皆様の多大なるご理解とご好意、そして教育に対する熱意に支えられてこそ成り立っており、この場を借りて御礼を申し上げる。


【卒後教育】

 岡山大学病院の初期臨床研修は3つの“Super(特色)” を持っており、1. Super Adaptive(研修の完全オーダーメイド)、2. Super Alliance(多彩な協力型病院)、3. Super Academic(科学の視点をもつ臨床医の育成)である。初期臨床研修においても大学での研修と100以上の協力型病院で「たすき掛け」研修が可能となっている。また、それらを組み合わせることにより、完全オーダーメイドの各人に目標、成長にあわせた研修が可能となっている。「たすき掛け」研修により、common disease から希少疾患まで、1次から3次救急まで、手技から臨床推論まで、多彩な経験と考察力でステップアップできる研修を準備している。また、地域医療研修においても、中四国地方を中心とした53の協力型医療機関にて、診療所でのプライマリケア研修から地域の中核病院としての役割、へき地医療、離島医療など各医療機関の特色を生かした様々な研修の機会を設けている。地域医療研修では外来研修と在宅医療の双方を経験する。研修に先立ち、自身の目標設定の提出と、研修中の症例記録・チーム医療参加の記録を作成し、研修終了後に研修医同士、卒後臨床研修センタースタッフとの振り返りの機会を設けている。

 また地域医療機関の指導医育成にも力を入れており、卒後臨床研修センターでは指導医講習会を毎年開催し、岡山県医師会主催の指導医講習会にも協力を行うことにより、中四国地方の臨床研修指導医育成、その指導力向上に貢献している。評価ではオンライン臨床教育評価システム(EPOC2)も相互で利用し、大学病院と協力型医療機関で密に連携を取りながら、研修医の育成を行っている。

 以上のように、岡山大学医学部は卒前卒後の医学教育において、岡山県だけでなく中四国地方を中心とした近隣県の地域医療機関と密接な連携をとっている。SDGs(持続可能な開発目標)を推進する岡山大学は、今後ますます地域医療の持続可能性を高める活動を活性化し、「地域で学び、地域で育ち、地域を支える医療人育成」を進めていく所存である。