*第3回*  (R3.12.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は山梨大学での取り組みについてご紹介します。

地域医療構想を踏まえたこれからの医学教育
文責 : 山梨大学医学部教育委員長
(医学教育学講座・附属病院臨床実習センター)
鈴木 章司 教授

地域枠の現況と地域医療貢献
 山梨県は医師偏在指標では全国で30位(H28年調査)であり、対人口比医師数が全国平均をやや下回る医師不足の状況にある。山梨大学医学部医学科は県内唯一の医育機関であり、R3年度の入学定員は125人、うち35人が学校推薦型選抜Ⅱ(以下、「地域枠」)である。受験資格として、県内の高校卒業(現役ないし1浪)、本人の地域医療貢献の意思、良好な学習成績、高校長推薦などを条件に、大学入学共通テストの成績と2回の面接試験により合否を決定している。また、山梨県医師修学資金貸与制度の利用が義務づけられており、医師免許取得後15年中9年間の県内での診療義務などが課せられる。なお、在学中のカリキュラムは一般選抜入学者と同様であり、卒後の診療科選択における制限は設けていない。
 地域枠入学者の成績、ストレート進級率は概して良好であり、第115回医師国家試験においては合格率100%であった。直近3年間(H30~R2年度)の卒業生378人の初期臨床研修先をみると、山梨149人、東京56人、神奈川24人、千葉、静岡、愛知が各15人の順となる。山梨149人中の108人は地域枠の卒業生である。さらに、直近3年間の県内の専門(後期研修)プログラム選択者をみると、本学卒業生137人(H28~H30年度卒業生の47.3%)が卒後3年目の時点で山梨県内に残っていた。したがって、現行の地域枠制度が地域医療に寄与していることが伺われる結果となっている。

卒前教育における地域医療に関連した取り組み
 本学医学科1年次においては、早期臨床体験(ECE)の授業・実習に加えて、全員が履修する「教養総合講義」で「地域理解」をテーマとしたグループ学習、また教養発展科目「社会の中の医療・医学」で、地域で活躍する医師、一般の方などによる講演と学生との意見交換を実施している。後者には山梨県知事の医療ビジョンについての講演もある。3年次には1人ずつ県内の消防署に配属される救急用自動車同乗実習があり、地域医療の最前線を実体験できる。4~6年次の臨床実習では、前半に1週間の地域医療学実習、後半に3週間の総合診療実習があり、いずれも学外の病院において実施している。本学に戻ってから各学生が経験した症例を共有し、教員からフィードバックを受ける機会を設けている。他の診療科でも県内の関連病院で実習を行っており、現在の協力病院は22施設ある。6年次の社会医学実習では、山梨県庁、保健所、また同窓会のご協力により地域のクリニックでの実習も組んでいる。
 以上のように、6年間を通じて地域の第一線で活躍する医師等の指導を受ける機会を設けることで、将来どのようなキャリアを歩むかに拘らず、「地域医療」についての理解を深め、様々な形で社会貢献する能力を涵養できるものと考えている。このような学生と地域の医療機関との交流は、研修医の一般外来研修などにも繋がるもので、地域全体で医療人を育て、今後の地域医療体制を構築していくことが期待される。その一助として、本学では医学部独自のステークホルダーミーティングも開催している。

今後に向けた展望と課題
 本学は山梨医科大学として設立され、その後に山梨大学と統合された、いわゆる新設医大である。地域医療への貢献は社会的責務ではあるが、既存の医療機関の中にあって立ち位置が定まるまでには一定の期間を要した。36期生まで卒業した現在、卒業生が指導的立場となり、臨床教育連携、地域医療連携の強化に向けて、多方面から期待されているところである。第一線の指導医が更に学生教育に関わることが可能となるよう、シミュレーションセンターの充実や活用などを含めて検討していきたい。
 現行の地域枠制度の有用性については上述したが、既に指摘されているように、結婚等による地域枠離脱への対応、自治医科大学卒業生との役割り分担など、検討すべき課題がある。また、入試については、臨時定員増見直しに伴う地域枠定員の設定、県内に居住実体がない学生もいる通信制などの多様な高校教育制度への対応も課題である。さらに、18歳時での進路選択の困難さについては十分に認識すべきで、地域枠であるからとの理由で国際的な活躍、研究医への道などが閉ざされるべきではないであろう。今後は、単に修学資金によって県内に縛るのではなく、彼らが自ら積極的に山梨に残ることを選択し、山梨をベースに様々な形で活躍できる場を提供するなど、パラダイムシフトが求められていると考える。そのためには、地域医療ビジョンを見据えた、学内外、卒前卒後が連携した臨床教育体制が不可欠であり、本学もその取り組みを始めたところである(参考図)。