これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第2回*  (H23.12.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は北海道大学大学院医学系研究科 MD-PhDコースの中村 静香さんです。


      
北海道大学大学院医学系研究科MD-PhDコース(博士1年)分子病理学分野 中村 静香

 私は北海道大学大学院医学研究科のMD-PhDコースという課程に所属する学生です。この課程では、医学部6年生から大学院授業科目を履修することが可能で、初期臨床研修を経ずに、学部卒業後3年で博士課程を終了することを目標としています。私は2010年4月、学部6年生で本コースに進学し、2011年3月に医学部を卒業、医師免許を取得し、現在は博士1年生として研究活動を行っています。
 私は、免疫学・病理学への強い興味から、学部4年生より病理解剖や病理学会学生発表※に参加するなどの活動を行ってきましたが、病理学をさらに深く学びたいという思いが強くなり、5年生の夏にMD-PhDコースへの進学を決めました。その後、6年生の1年間は、学部生としての学業・国家試験受験と併せ、分子病理学分野の大学院生としても研究活動を行いました。MD-PhDコースへ進学するにあたっては、学部と大学院の生活を両立することへの不安もありましたが、実際には学部の講義や実習日程を考慮したうえで研究予定を組むことができました。私の場合は、人体組織の顕微鏡的観察に対する興味が非常に強かったため、学部の授業が終わった後、または授業が休みの日に、主に顕微鏡観察を行い、それに加えて病理解剖・剖検報告会へ積極的に参加することで病理診断学の基礎を学習しました。また、実験病理の面では、5年生で行った病理学会学生発表の内容を継続して追加研究したほか、教室内で行われる研究検討会に参加し、実験モデルの構築法についても学びました。
 学部卒業後は、新たな研究テーマで実験を開始したため、技術の習得に励み、実験法や研究テーマへの理解を深めるため文献や学会発表からの情報収集に努めています。また、私は研究医ではありますが、大学院進学の決め手となった病理診断学への興味も、実験病理と同様に大切にしたいと考えています。現在は、学部時代に学んだ顕微鏡的観察の手法を基盤とし、病理解剖や組織診断など、可能な限り多くの症例を経験することを心がけており、忙しくも充実した日々を過ごしています。
 このように楽しみながら大学院生活を送っている私ですが、学部卒業後は大多数が臨床研修に進むという現状の中、研究を続けるという選択に最初から迷いがなかったわけではありません。しかし、迷い以上に、今やりたいと強く思っている学問を優先させる時期があってもいいのでは、という考えが私にはありました。興味ある学問への強い思いを持ちながら診断の修練に励み、実験的手法によって疾患の病態解明を目指すことは、臨床医学と基礎医学の橋渡しとなるはずと考え、最終的には自信を持って研究に励むことを決めました。実際に大学院生活を始めた現在でもその思いは変わらず、好きな病理学に没頭しながら、臨床と基礎の橋渡しとなる夢を持てることは、とても幸せなことだと実感しています。
 博士課程終了後は、研究生活で身に着けた考察力や病理診断の技能をもとに、幅広い視野を持って臨床研修を行いたいと考えています。学部での病院実習から数年のブランクを経ての研修には不安もありますが、病理を学んだ後だからこそ経験できることもあるのでは、と楽しみにする気持ちもあります。
 また、将来的には、自分の経験を生かして病理学の面白さや重要性を多くの人々に伝えられる人材になりたいと考えています。教育者として医学に貢献するという希望を持って、教える側と教わる側両方の視点を意識しながら学んでいきたいと思います。
 最後に、興味ある研究ができるということはもちろん重要ですが、共に助けあうことのできる仲間に恵まれたということもまた、私にとって大学院進学の決め手であり、実際に大学院生活を始めた現在でも、研究を続ける原動力のひとつであると実感しています。

※病理学会学生発表について
分子標的薬Sunitinibを治療に用いたGastrointestinal stromal tumor(GIST)や腎癌を含む十数例の症例に関して、病理解剖報告や症例解析を行った。解析により、Sunitinib投与症例において、副作用として甲状腺萎縮が認められることを明らかにした上で、結果を日本病理学会 学生発表の部でポスター発表した(タイトル:「分子標的薬Sunitinib投与症例における甲状腺萎縮の病理学的解析」)。Sunitinibはfms様チロシンキナーゼ3、Kit、血管内皮増殖因子(VEGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)受容体に対する経口キナーゼ阻害剤であり、抗血管新生作用のほか、癌細胞の直接殺細胞作用を含む機序を標的とすることによって抗癌作用を発揮することが知られている。Sunitinib投与症例の病理解剖症例5例について、治療内容や臨床データと合わせて病理組織学的解析を行った結果、甲状腺機能低下と甲状腺萎縮の程度はSunitinibの投薬量・期間に依存していることを明らかにした。また、Sunitinibによる甲状腺萎縮の原因については血管障害が仮説として挙げられているが、免疫組織化学的手法を用いた組織学的解析の結果、Sunitinibの甲状腺濾胞上皮に対する直接的な細胞障害が病態として存在している可能性を新たに示した。