現在、病理学第二講座でMD-PhDコースの学生として日々研究をさせていただいている医学部6年の小野佑輔です。どのように私が研究をすることになったのかを振り返ってみました。
最初に研究について考えるきっかけは、今でも共に学び、医学について語り合う友人の次のような言葉でした。「せっかく時間があるのだから、臨床実習が始まる前に僕は研究をしてみたい」。2年生のときにこの友人と話をしたことで、それまで考えもしなかった研究をしてみるということが気になり始めました。部活の先輩が病理学第二講座に所属し日本学生支援機構の学術部門奨励賞を頂いていたこともあり、MD-PhDコースの存在を知っていましたが、私とは無縁であると思っていました。基礎医学の講義が始まりTHE
CELL等を読み、細胞生物学が面白いと感じていた私は、友人と話したことでコースに入ることを考え始めました。いくつかの講座に伺い、どこで研究をするのかを日々悩みました。医学を学び始めたばかりであった当時の私には、どの講座の研究にも興味を惹かれ、どのようなテーマで学びたいのかを決めることは大変困難なことでした。そこで私は、以前から学生抄読会でお世話になっていたこと、細胞接着装置がテーマであり私が興味をもっていた分子生物学的な研究ができそうに思えた病理学第二講座で学ばせていただくことを決めました。半ば勢いで決めたような部分もありましたが、実験台と机をいただき予想以上に居心地がよく、現在大変充実した学生生活を送らせていただいており、人の縁の大切さを感じました。第二病理と私の波長があったのかもしれません。
MD-PhDコースに入り、日々実験室に通うようになってからはピペットの扱い方に始まり、PCR、細胞培養、ウェスタンブロッティング、免疫染色など様々な実験手技を一から丁寧に指導していただきました。何も知らずに飛び込んだ私でしたが、戸惑うことなく実験を始めることができました。半期に一度ある教室員全員参加のリサーチカンファレンスでは丸一日かけて活発な議論がされていて、まだ分からないことも当然多くありましたが、その熱気と自由度によって楽しく参加することができました。また、病理学会に行きたいという私の我儘を聞いていただいたこともありました。初めて参加する専門の学会はさらに難しいことも多くありましたが、次は自分で発表するのだという志を持ち帰りました。毎日の講義の合間を縫って少しずつ実験を重ねました。ネガティブデータばかりで研究が進まず落ち込む時期や、次の結果が楽しみで早く実験をしたい気持ちを抑えきれない経験をし、少しずつ良い結果も出るようになりました。また、リサーチカンファレンスでの発表もさせていただきました。札幌医大のMD-PhDコースでは学会で筆頭発表者になると、旅費、参加費の補助がいただけることになっています。これは国内外を問わずです。そこで次は学会で発表してみたいと思い始めました。そのようなとき、研究室のテーマであるタイトジャンクションについて、ベルリンで開催されるミーティングに小島准教授
(現、札幌医大フロンティア研究所教授) がスピーカーとして招待されました。招待演者以外にもポスター発表に応募できることが分かり、ここで私は発表したいというアピールを聞いていただきました。初めての学会発表がいきなり海外という少々無謀な挑戦をさせていただきました。講座の先生方の指導によって何とかデータをまとめ、無事に発表をし、海外の研究者とディスカッションをすることもできました。このような挑戦をさせていただき、実験の結果をまとめて発表をすることの難しさ、楽しさ、誰とでも同じテーマで話をすることができる喜びを体験することができました。
研究の楽しさとは何か、どのようなことが苦しいのかについて、語ることはまだできません。ただ、MD-PhDコースに入り研究することで、その体験を自分の将来の選択に活かすことができるということは貴重な財産だと感じます。経験してみて思うのは、知っていることと経験したことがあることの大きな違いです。「医学部に入り、臨床医になる」、この一般的な道の他に、研究をして毎日を過ごす道もあるということはほとんどの学生が知っていると思います。しかしそれはどこか遠い場所の話であり、自分とは関係がないことであると考えがちです。私は、このコースがあることで研究の一面に触れることができ、また講座の先輩方と過ごすことで研究者としての道を選んだ後の具体像を想像しやすくもなりました。このことはとても得難いことであったと思います。
私は将来、今入り口に立っているこの研究の道を進んでみようと考えています。また、病理医として診断もしていきたいと思っています。どちらも求めることは欲張りである、中途半端である、と思われるかもしれません。しかし病理医として病の形態から患者さんに関わり、またそこで得たことを研究に活かすことができるという道に大変魅力を感じています。最終的にどのような仕事をすることになるかはわかりませんが、小さなことでも一つずつ積み上げていき、医学に、患者さんに少しでも貢献したいと思います。
最後に、深く考えずに飛び込んだ私を大変厚くご指導頂いた澤田教授、また講座の先生方にはいくら感謝しても足りません。まだまだ歩みは遅いかもしれませんが、これからも先生方とカンカンガクガクの議論と楽しく苦しい研究をつづけていきたいと思います。
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