これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第29回*  (H27.6.2 UP) 前回までの掲載はこちらから
研究医養成情報コーナートップページへ戻る 
今回は三重大学医学部4年 村上 宗一郎さんです。
 新医学専攻コースに参加して
                 三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス講座
                           医学部4年 村上 宗一郎
  第35回分子生物学会(福岡)にて   
   
1. 私の背景
 私はこつこつと何か1つのことを積み上げることが好きで、高校時代に進学を考えた際、将来の仕事は研究が向いているのではないかと考えました。分野については、工学系のことは疎いため、ならば生物系の研究に携わりたいと思いました。当時、研究とはどんな職業か考えずに漠然となりたいものとしてとらえていました。入学時には既に三重大学に1年次より研究に携わることのできる魅力的なプログラム(新医学専攻コース)があることを知っており、入学後すぐに登録したいと考えていました。研究とはどのようなことをするのかイメージも持てなかった私は、実際に足を運んでみて今の研究室を選びました。初め1年は、疾患モデル動物の作製、メチローム解析と最先端のホットな領域の研究をさせていただき、学会発表を通して自分の研究について理解を深めるとともに、ピペットの握り方、論文検索の仕方等、基本的な技能を身につけることができました。その後もいくつか異なる研究をさせていただきましたが、現在はそのうちの1つのテーマを継続・発展し、第54回日本先天異常学会では優秀ポスター賞を獲得することができました。ご指導いただいている田中先生、西村先生をはじめ、関係各位にこの場をお借りして深謝致します。自分の研究の必要性が再確認でき、さらに研究に没頭するようになりました。将来はphysician scientistとしてこれからも研究に携わり続けたいと思っています。

2. 研究活動の魅力
 研究とは新しい知を生み出す人間の営みとか、unmet medical needsに答える最善の方法とか色々な言葉で語られると思います。研究とは何かに対して自分なりの良い答えは見つかっていませんが、初め漠然としていたものが、実際に携わることによって、はっきりしてきたように思います。今のところ、私にとって研究とは自分を見直すきっかけになり、良い方向に変えてくれるものです。実験が終わってからその実験について顧みる、行為についての省察(reflection on action)や実験中にその行為を顧みて、リアルタイムに改善していく、行為の中の省察(reflection in action)を通して自分の陥りやすい状況に気づき、自らのアイデンティティーを発見することもできるのです。私の場合、自分の好きなことはそうでないものよりも優先し、後者を中断させてさえも、先に進ませてしまう傾向があります。実験で言えば自分のやりなれた手技が前者にあたり、初めての手技や失敗の経験が強く印象に残っている手技が後者にあたります。これは実生活にもあてはまり、例えば掃除など、乗り気にならないものはたいてい重要であることが多いのですが、強制力がないと後回しにしてしまうのです。後輩育成においても支障が出て、自分の気に入った人には多くのことを伝えるが、あまり気に入らない人には関わらないというのはあってはならないことです。柳生宗矩の師であった沢庵宗彭は「千手観音は1つの手に心を止めないからこそ、千本の手が皆役に立つ」と説いたそうで、何事にも平しく事を構えないと上手くいきません。このような自分の傾向は意識して初めて正すことができるのです。
 世界でただ1人真実を知っている時期があるなど、研究には数多くの魅力がありますが、私が一番に考える魅力は、情報の発信源として多くの人の健康に貢献できることです。我々が生み出した情報(薬物、治療法など)を情報の伝達者である多くの医師がより多くの担当患者に伝えることで、世界中の人々の健康福祉に貢献することができます。実験結果を真摯に受け止め、どんなに小さな進歩でもそれを学会発表、ひいては論文という形でコミュニティーに発信していくことも研究活動の一環だと思います。半人前にもなれていない私ですが、これからの研究活動の中で、エビデンスという巨大な海に漕ぎ出す小さな舟の1つになれれば、これほど嬉しいことはありません。

3. 最後に
 三重大学は1学年が125名で、新医学専攻コースに登録するのは1割程度です。研究室の門をたたく敷居を低くしてくれるこのプログラムの存在は非常に大きいと考えており、私もその一員として、新入生に研究の魅力を伝えることで、その発展に尽力したいと思います。