これから研究医を目指す学生が自分を語ります。 | |||||
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金沢大学医薬保健学域医学類6年 毛塚 大 |
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配属から現在まで 「夏休み、ちょっとだけ実験してみないか」。部活動にも入らず暇を持て余していた二年生の私は、この声掛けに「そそのかされ」神経解剖学教室へ通い始めました。「夏休み」「ちょっとだけ」という口約束を教授も私もすっかり忘れて早4年、抄読会に出れば「なにがわからないかわからない」という名言を残し、実験をすれば数々のミスを繰り返し、そのあげく先輩の院生に「爆発起こさないだけましだよ」と言わせてしまった日々が懐かしく思えます。初めの一年間は実験手技を教えていただきつつ指導教官の先生の実験をお手伝いし、幸いにも論文に名前を載せていただくことができました(J Neurochem. 2014 ; 130(3):374-87)。3年生の冬には自分のテーマを頂戴し、以来「グルタミン酸誘導性海馬神経細胞死に対する小胞体関連転写因子の重要性」について研究を行っております。グルタミン酸は最も主要な興奮性神経伝達物質でありながら、てんかんや脳梗塞などの病的状態においては過剰に分泌されることで神経細胞死を誘導することが知られております。本研究室では、小胞体内の分子シャペロン「ORP150」を過剰発現させた遺伝子改変マウスは、野生型や同遺伝子の欠損マウスに比べてグルタミン酸投与後の神経細胞死が抑制されるということを報告しました(J Clin Invest. 2001; 108(10): 1439–1450.)。私の実験テーマはいわばこの報告の続編であり、ORP150の発現を制御する転写因子「ATF6α」のグルタミン酸毒性に対する神経保護効果を検討することが目的です。シャペロンで成立した事象を上流の転写因子でも確認するという非常にreasonableな発想で、初めて研究を行う私に結果が予想しやすそうなテーマを、という教授の「親心」を感じます。予想以上に長い時間がかかってしまっておりますが、現在までのところ、同遺伝子の欠損マウスでは野生型マウスに比べてグルタミン酸(類似物質)投与後の神経障害が増強することが確認されており、その幾序として、ATF6α欠損マウスは細胞内カルシウム恒常性に異常をきたしており、神経細胞がより過剰に興奮しているという可能性が示唆されました。これらの結果は、解剖学会中部地方大会、解剖学会全国大会および学内外のリトリートにて発表いたしました。また、卒業までの出版を目指して現在論文を執筆中です。 本学の医学研究者養成の取り組み 本学には「MRTプログラム」と呼ばれる研究医養成コースが存在しています。「Medical Research Program」の略で、開始が2012年度という非常に新しいプログラムです。初めこそ横のつながりが少なかったものの、現在では初期からの参加者が上級生となり学生自身でプログラムを盛り上げようという気運が高まっています。ラボを超えた勉強会や抄読会が開催されるようになり、学内リトリートでは発表のみならず運営も学生が行うようになりました。先日は、臨床医学も含む多数の教室にご協力をいただき、プログラム未参加者を対象とした「ラボツアー」を開催したところ、多くの学生が参加してくれました。 「とりあえず」やってみる リトリートやラボツアーへの参加者を見ていると、プログラム未参加者の中にも研究に興味を持っている学生は大勢いるのだと感じさせられます。私の学年が上がったせいでしょうか、そういった人たちから相談を受けることがしばしばあります。内容は様々なのですが「自分は研究に向いているのか」「ちゃんとやっていけるのか」といった思いはみんな少なからずもっているようです。私自身にとっても二年生の夏以来、いまだに(今後も?) 答えが出ない問いで「こっちが聞きたいわ!! 」とでも言いたいところなのですが、ぐっとこらえて「とりあえずやってみればいいよ」と答えています。別に無責任に言っているつもりはありません。むしろ、先生方や他の先輩学生の方々も同じように答えられるのではないでしょうか。部活動やアルバイトとは違い、研究室に所属するということは学部生にとって敷居が高いことなのかもしれません。しかし、悩んでいるくらいなら「とりあえず」やってみるということはあながち的外れでもないのでは、と思います。楽しいなと思えれば思う存分実験をしましょう。自分の望んだ一流のラボで研究できるということは、きっとこの上なく幸せなことです。逆にもし合わないと思えば、すぐ辞めてしまってもいいと思います (挨拶だけはしっかりしましょう。Fade out は良くないです) 。将来、臨床一筋で生きるという覚悟ができるでしょうし、何より大阪大学の仲野徹先生がおっしゃるように (※) 学生時代にすべきことはほかにいくらでもあります。まずはその「やる」か「やらない」かを決めるため「とりあえず」研究室へ行ってみる、というのはいかがでしょうか。 将来の希望 この4年間を通して、通常の学生生活では決して経験しえない研究の面白さを感じる数々の機会を得ることができましたが、寝食を忘れるほど研究に没頭し、喧々諤々たるdiscussionに喜びを見出すというレベルにはほど遠く、今後も引き続き研究に取り組むことでその楽しさや奥深さをさらに知りたいと思っています。不確定な部分こそ大きいですが、将来的にはぜひ大学院へ進学し、能力やその他事情が許すならば基礎研究の世界へ進みたいと考えています。 終わりに 本稿を執筆するにあたり、日々さまざま方々からの御支援をいただいていることを再確認いたしました。 その中でも特にお世話になっております、堀修先生をはじめとする第三解剖教室の皆様、本稿執筆の御推薦をいただきました山本靖彦先生、和田隆志先生、また他教室でありながら日頃よりご指導をいただいております河﨑洋志先生、赤木紀之先生に心より御礼申し上げます。 (※)なかのとおるのつぶやき「君は考えたことがあるのだろうか-MD研究者の育成について-」http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/nakano/essay_028.html |