これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第32回*  (H27.11.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
研究医養成情報コーナートップページへ戻る 
今回は鳥取大学医学部医学科4年 吉田つばささんです。
 「研究室配属を終えて」
                       鳥取大学医学部医学科4年 吉田 つばさ
   

鳥取大学医学部医学科の研究室配属には、基礎と臨床の両方があります。私は、ある基礎の先生から「いずれ臨床実習で臨床を見るのだから、今しか見られない基礎を選んではどうか」と助言をいただいたことがきっかけで基礎医学の研究室に決めました。また、やるからにはしっかり実験をしてみたいと思い、縁あって「統合分子医化学講座」にて3年次前期に約1か月間お世話になることになりました(現在はカリキュラム変更により2年次後期に移動)。
 統合分子医化学講座は生化学の教室です。生化学の講義は1年次に修了していました。しかし、分子レベルのとても小さな世界の話をしているのにその内容は分け入るほど壮大で、覚えることも多く自分の頭では処理しきれない、というのが学生の生化学に対する率直な印象だと思います。私自身も100%理解しているわけではなく、今でも後輩から生化学に関する質問を受けるたびに戸惑います。その生化学を取り扱う統合分子医化学講座に配属されることが決まり、あわてて参考書を手に取りましたが、分厚くてどこから読めばよいか分からず焦った記憶があります。

 ところで、その当時の私の医学研究に対する印象は『よく分からない』でした。研究して何をするのかピンと来ない、というのが正直なところだと思います。医学部に入るまでは基礎医学の存在を知らなかったため、講義が終わった後も印象が薄かったのかもしれません。

 私が行った研究は『Nrf2とパーキンソン病』です。Nrf2は転写因子であり、通常keap1によりプロテアソーム系で分解されます。しかし、親電子性物質や活性酸素によりkeap1が酸化されると、Nrf2は分解されず活性化され、酸化ストレス防御にはたらく遺伝子(HO-1など)の転写を増強します。また、パーキンソン病では、原因のひとつに酸化ストレスが関わっていると言われています。パーキンソン病の治療薬であるL-DOPAをはじめとしたカテコール基をもつ物質は親電子性であるため、「L-DOPAを投与すれば、ドーパミンを補充するだけではなくNrf2を活性化することで酸化ストレスからの防御にもはたらくのではないか。」という仮説を先生と立て検証することにしました。他にも、パーキンソン病の惹起物質やプロテアソーム阻害剤などを用いてNrf2の活性化について実験を行いました。この研究を通して、細胞の継代培養、ピペットやクリーンベンチなどの器具の扱い方、電気泳動、ウェスタンブロット法、マウスなど、実験に関わる基本的なことも学びました。私は、使う薬剤や物質の予習はしていましたが、手技やデータの見方がグループの中では一番苦手で、ミスによる失敗もあり、班員や先生に迷惑をかけたことを鮮明に覚えています。

 実験の結果は予想外のものでした。カテコール基をもつ物質と、カテコールの異性体、それぞれをメチル化した物質を用いての実験では、カテコール基をもつ物質のみがNrf2が活性化し、標識したHO-1が発現する、という結果を得るはずでした。しかし結果は、カテコールやドーパミンではHO-1が発現したのに対し、L-DOPAやL-DOPAをメチル化した物質であるα-メチルドパなどではHO-1は発現しなかったのです。理論上は発現するはずなのに、なぜL-DOPAや関連物質では発現しないのか。溶媒に物質が溶けきっていないと考えて2回追加実験を行いましたが、結果は変わりませんでした。

 1か月という短い期間でしたが、多くのことを学べました。例えば、自分でよく考えることが重要、ということが挙げられます。研究の根拠、予想、結果の理解。特に思うように結果が出なかったときにどう考えるかがいかに重要かを知りました。振り返ると、よく考えずに作業し失敗しかけた経験もあり、様々な場面で常に緊張の糸を張っておくべきだったと思います。他にも学んだことは山ほどありますが、やはり一番は、基礎医学が臨床医学とどうつながるかが分かったことでした。担当の先生が臨床医でもあるということもあり、今回はパーキンソン病という実際の疾患をテーマに実験をしたため特に感じられたのかもしれません。医学は未解明な部分がまだ多くあり、これからも発展していく分野でしょう。研究により疾患の機序がより詳しく分かり、治療薬が作られる。その積み重ねで、現在は治療が困難な疾患も将来は治る病気になっているかもしれません。基礎医学や研究があるからこそ現代の医療はここまで発展したのだと、改めて実感しました。

 現時点での私の将来像は臨床医で、明確なビジョンはまだありませんが、地域医療に興味を持っています。将来的には市街地より田舎で医療をしたいと思っているため、大学に残ることはあまり考えていませんでした。しかし、今回の研究室配属で、下手ながらも研究の楽しさを垣間見ることができました。研究をするなら何かの形で大学に残ることが基本だと思います。将来像の基本軸は変わりませんが、将来を考える視野を広く持つことができ、その意味でも有意義な1か月でした。

 1か月が短く感じ、もう少し長くてもいいと思えるほど充実していました。新しい知識を得ることが好きな私にとっては刺激的で様々なことが面白かったです。これから研究室配属がある後輩たちにも、有意義な時間を過ごしてもらいたいと思います。

 最後に、松浦教授、指導をしてくださった中曽准教授をはじめ、統合分子医化学講座の先生方、本当にありがとうございました。