これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第50回*  (H31.2.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は日本医科大学5年 中島菜々さんです。

                            日本医科大学5年 中島 菜々
  2018年10月に開催された第80回日本血液学会学術集会で口演終了後に撮影したものです。
中央が筆者で、両隣が血液内科学山口先生グループ研究配属の1学年後輩の学生です。
 
自己紹介
 日本医科大学5年中島菜々と申します。
 第3学年の6月から7月にかけて本学では研究配属というカリキュラムがあり、私の学年が記念すべき初年度となりました。基礎科学、基礎医学、臨床医学あわせて約90の課題から学生が自主的に1つを選択するのですが、私は血液内科学山口博樹先生の研究課題を選択し、以来血液内科学山口先生グループにてご指導いただいております。

 部活は卓球部、趣味は舞台・映画鑑賞、愛犬と遊ぶことです。

研究配属で血液内科学を選んだきっかけ
 第3学年の研究配属が終わると臨床医学の授業が始まるので、このカリキュラムで臨床医学を学ぶなにかの足掛かりになればと考え、ひとまず臨床医学の分野から選ぶことは決めていました。研究課題の概要が書いてある冊子が研究配属全体の説明会前に配られるのですが、目を通す中で内科学のいくつかの課題が候補に残り、説明会にて山口先生のお話を伺い、先生の熱いご指導を受けたいと思い、最終的に選択しました。

研究配属での実績
 研究配属では『急性骨髄性白血病(AML)における遺伝子異常と臨床予後の関係』という課題で一貫して研究をして参りました。AMLでは寛解を得ることだけではなく、寛解後療法が長期寛解の鍵を握ります。寛解後療法として最も強力な治療が造血幹細胞移植であり再発のリスクを減少させることが可能です。しかしながらその強力さゆえに移植関連死の頻度も高く、強力な前処置や移植後のさまざまな合併症のため生殖機能はじめQOLに重大な影響を及ぼします。そのため、移植の適応を考える際に年齢、染色体異常、遺伝子異常を用いて層別化が必須とされています。
 これまでの研究ではAMLにおいてFlt3 ITDは独立した予後不良因子で第一寛解期に同種造血幹細胞移植の適応があると考えられていました。しかし2017年にEuropean  Leukemia Net (ELN)のガイドラインにてFlt3 ITD陽性AML症例であってもFlt3 ITDのアレル比が低くNPM1変異が陽性の場合は予後良好とし第一寛解期での移植適応はないと発表されました。欧州の権威のあるガイドラインではありますが、この提唱には臨床的に大きな疑問がもたれていることを知り、AMLにおいてFlt3 ITDアレル比と予後や造血幹細胞移植の適応に関して明らかにすることを目標に研究を開始しました。初めは実験ノートの書き方、論文の読み方のご指導から始まり、PCR法やキャピラリーシークエンサーによるフラグメント解析などの実験手技の習得、得られたデータの統計解析など、研究成果をあげるにはやらなくてはならないことが山のようにあり、研究配属のカリキュラム期間だけでは足りなかったので、その後5年生の秋まで研究配属を延長し研究を継続しました。
 そしてAMLにおいてFlt3 ITDが低アレル比でNPM1変異が陽性であっても予後不良であり第一寛解で造血幹細胞移植の適応があることを明らかにしELNのガイドラインに対して反証を示すことができました。この研究成果を2017年第79回日本血液学会学術集会にて『急性骨髄性白血病におけるFlt3 ITDアレル比の予後因子としての重要性』という題名にて発表を、翌年第80回の血液学会ではさらに踏み込み、『急性骨髄性白血病におけるFlt3 ITD低アレル比とNPM1の予後因子としての重要性』という題名で発表をさせて頂きました。また"Prognostic impact of low allelic ratio FLT3-ITD and NPM1 mutation in acute myeloid leukemia"という論文をBlood Adv. 2018 Oct 23;2(20):2744-2754.に論文発表いたしました。

研究配属での学び
 初めは英語論文を読むこと1つとっても、何からどう読んでいいのかわからないところから始まりました。そのような中で、山口先生には検索の仕方、論文には原著論文や総説論文といった種類があること、まずは論文のどこに目を通すべきか、読む順番など懇切丁寧にご指導いただきました。またいくつも論文を読んだ場合にはその情報をいかに整理するかも教えていただき、これらのことはクリニカルクラークシップで論文を読む際や抄読会に参加した際に役立ちました。
 また自分の伝えたいことをいかに分かりやすく伝えるかというスキルは研究配属で学んだといっても過言ではありません。パワーポイント作成時にはフォント、画像の鮮明さ、題目、文字の大きさや文章量、レイアウトに至るまで山口先生には学会発表前には何度も何度もご指摘いただき、その度に訂正する前後を比べると違いは一目瞭然で、こんなに変わるものなのかと驚きの連続でした。同じ内容を伝えるにも、言葉の順番を入れ替えることで聞く側からすると断然分かりやすく、強調したい時にどう言葉を選ぶかなど、プレゼン力というのも、研究配属の機会がなければ学べなかったと思います。
 実験や解析についてはスケジュールを自分で組んだり、失敗したら原因を分析したり、解析内容も自分で考えて色々な視点から切り込んでみたりと、学生でありながら、ある程度自由に、自分で考えながら研究させていただけたのは、本当に幸せな環境でした。血液内科の研究配属は、カリキュラムとして設置される前から10年ほど学生研究を指導してきた歴史があります。勉強や部活と両立できるか不安だったのですが、先生方や研究室の技師の皆さんのサポートがあり、長期休暇や授業の合間を利用するなどして研究をすすめることができました。さらに研究配属の先輩方が各学年にいらっしゃるので、部活動にもう1つ所属できたような感覚で、先輩方にもご指導いただき心強かったです。勉強や部活があっても両立することができ、実験や解析が上手くいくと純粋に楽しい!と思いながらここまで続けてくることができました。そのような環境を整えてくださった先生方はじめ、研究配属に携わってくださった方々に感謝の気持ちでいっぱいです。
 私は学生でありながら、Flt3 ITDのアレル比と治療選択という今最も議論が盛んで、新薬も登場し、注目されている最先端の研究をさせて頂きました。研究グループの一員として先生方やスタッフの皆さんも接してくださり、また発表の機会を用意してくださっているというのも、なかなか無い贅沢な環境だったと思います。本当に有難うございました。

将来の抱負
 研究配属を始めるまでは「研究をする」ということが漠然としか分かっていませんでした。この研究配属を通して、私達が普段授業で習う「この病気は〇〇の数値が〇〇以上だったらこの治療法で…」という表記1つとっても膨大な研究成果の積み重ねなのだな、と意識するのと同時に、本当に医学医療はまだまだ発展途上であり、臨床医として働くにしても研究者の視点というのは必要不可欠だと思うようになりました。

 将来は臨床医として現場で働きながら、機会が得られれば大学院に進みたいですし、将来選択した診療科の臨床のベッドサイドで見つけた疑問を研究し、それをまた臨床に還元できる臨床と研究を行き来できる医師になりたいです。