これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第56回*  (2020.2.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は東海大学医学部医学科3年 宮木陽輔さんです。


                  東海大学医学部医学科3年 宮木 陽輔
 
坂部教授ほかご指導いただいた先生方と(中央が筆者)
 
 第124回日本解剖学会にて優秀発表賞を受賞
   

<自己紹介>
 東海大学医学部医学科3年の宮木陽輔と申します。
 高校卒業後、化学の力を用いて社会に貢献したいと思い、東京理科大学理工学部に入学しました。
 しかし、化学を学ぶに連れて、もっと直接的に人に関わる仕事がしたいと医師を志望するようになり、理科大3年次に編入学制度を利用して東海大学医学部に入学しました。

<研究を始めた動機・実績>
 私が研究を始めるきっかけは、編入学してすぐ始まった系統解剖学実習です。
 例年、東海大学では、解剖実習中に興味深い破格が見つかったら、それを学生主体で調査し日本解剖学会で発表するという取り組みがありました。解剖学の授業中にそれを知り、自分も解剖実習で何か見つけようと思い、系統解剖実習に臨んだ記憶があります。

 12月頃だったと思います。通常は腹大動脈から独立して分岐するはずの中腹腎動脈と性腺動脈が共通幹を形成していることを系統解剖実習中に発見しました。自分は解剖実習の前には、最低でも当日解剖する範囲のアトラスには目を通していたため、かなりの違和感があり、すぐに担当教官の寺山隼人准教授に報告しました。そこで初めて、この形態については多くの報告があるけれども、具体的に出現率やその発生についてまとめた論文が存在しないことを知りました。もし、これについて調べたいというのであれば一緒に研究してみないか、という言葉を寺山隼人准教授よりかけていただき、喜んでお願いしたことを覚えています。

 1年次のカリキュラムが終了した3月に、解剖学教室 坂部貢教授のもと寺山隼人准教授と一緒に研究のデザインを行いました。大学経験とは名ばかりで、右も左もわからない自分に、論文の検索方法からデータの採取方法、整理の仕方まで手取り足取り教えていただいた記憶があります。解剖学教室に出入りする頻度が増えるにつれ、曲寧講師、梅本佳納榮助教を始め、教室全員の先生から研究に必要な事項について手厚くご指導いただきました。

 本来であればデザインをして、先行研究を評価して具体的な手法や新規となる点などを探し出してゆくのが定石です。しかしご遺体を対象とした研究であるが故、ご遺族の元にお返しする期日がどうしても決まっており、解剖によるデータの回収と先行研究評価を同時に行いました。長期休暇を含め、空いている時間はほとんど解剖実習室に向かい、研究のために供されたご遺体を丁寧に1体ずつ解剖し、性線動脈の走行と副腎動脈の走行を調査しました。

 当初の仮説は、性線動脈は中副腎動脈とのみ共通幹を形成するというものでした。解剖調査で得られた事実と、英文論文の評価に基づくと、この仮説は正しく思われました。しかし、日本語の論文において、下副腎動脈と性腺動脈が共通幹を形成していたという1例報告が、30年ほど前に投稿されていました。

 そこで、性線動脈は、副腎動脈のいずれとも共通幹を形成することを新たな仮説とし、その具体的な出現率を算出することを新規の点として、本格的に研究活動をスタートさせました。仮説を示すためには、やはり先行研究だけではなく、解剖実習調査において、自身の仮説を支持する構造体が出る必要がありました。しかし、数十年で1例のみの報告であるということを考えると、解剖に明け暮れてもその構造に出会えるかどうかとても怪しい状態でした。それでも信じて解剖を続け、自分が出席する第124回日本解剖学会の直前、今年度最後の解剖実習体を解剖していた際、下副腎動脈と性腺動脈の共通幹構造に出会いました。解剖調査でこの構造に出会えたことで、仮説の実証にも近づき、また世界初の点として、性線動脈と副腎動脈の共通幹形成の出現率を算出して学会に発表することができました。そして、その学生セクションにおいて優秀賞を受賞することができました。

 現在は学会で発表した内容を英文の論文にてまとめる作業を行っております。解剖調査も引き続き行っており、出現率の信頼性の向上と、新規構造の探索を論文作業の傍らですが継続しています。

<参加して思ったこと>
 「基礎研究は、100年後役に立つかもしれないことの研究だ。」この言葉は予備校に通っているとき、化学の先生に教えていただきました。自分が行った研究は、明日直ちに誰かの命を救う物でもありませんし、隣にそびえたつ大学病院ですぐさま活かされる物でもありません。しかし1つ胸を張って言えることは、確実に、将来誰かの役に立つ仕事をした、ということです。自分も最も古い物では1912年に発表された論文を参考にしました。1900年代初期にその研究をやっていた研究者は、まさか100年以上経ってから、しかも日本人の学生にその研究成果が参照されるとはきっと考えていなかったでしょう。自分の研究も、どこか遠い地や遙か数十年後、誰かの役に立つことを願ってやみません。基礎研究は成果が出ないからやっても無駄だ。そういう言葉を理科大にいる時代からよく耳にしました。しかし基礎研究は将来への投資なのです。現時点で一見役に立たないと思う研究であっても、100年後世界は変わっているかもしれません。基礎研究の積み重ねがあるから、また新たな基礎研究を行うことができ、基礎研究の成果があるから、応用研究が走るのです。自分の研究も、国内外多くの研究者が、ここ100年の間に積み上げてきてくれた研究成果の上に成立しています。基礎研究の大切さを改めて認識できたことも、自分にとっては大きな糧となりました。

<将来の抱負>
 現在追求しているテーマを生涯のテーマとするかは、正直わかりません。しかし、Basic Scienceを経験した身として、将来どこかで必ず基礎医学研究に関与する人間になります。研究のテーマの巧拙も大事ですが、今は研究するということはどういうことなのかを学び取りたいと考えています。教科書をただ使う側から作る側へ。教科書の作り方を見られる最後の場所が大学であると考えています。基礎研究には時間もかかりますし、時間とお金がかかった割には、すぐさま得られる果が少ないため敬遠されがちです。しかし大学の果たすべき役割は場当たり的な産学連携・医工連携ではなく、基礎研究という名の将来への投資であると強く信じています。失敗も多くあるでしょう。努力が報われないこともきっとあるでしょう。しかし困難を恐れずに、果敢に研究を続けていきたいと思います。