自己紹介
京都府立医科大学医学部医学科5年生の中西光歩です。2019年6月から、まだ1年ばかりの短い時間ですが樽野教授の細胞生理学教室にて研究に参加させていただいています。もともとは、病弱であった幼少期によく面倒を見てくださった、かかりつけの小児科の先生に憧れて臨床医を目指し、医学部に入学しました。入学したばかりの無知蒙昧な大学生は、これから疾患のことを勉強するとばかり思い込んでいましたが、まず初めに勉強したのは基礎医学でした。そして医療、医学を根本から支える生理学に出会ってその素晴らしさを知り、また4年次の研究配属期間を通じて研究の面白さに魅せられ、現在は基礎医学研究者を夢見て研究を続けています。
基礎研究配属について
京都府立医科大学には4年次に6週間という短い期間ではありますが、基礎・社会医学研究の一端を体験できる「研究配属」というプログラムがあります。配属先を決定する前には、各研究室が独自に少人数での説明会を開催してくださるため、実際に先生方と直接お話ししたり研究室の様子を見学したりしたうえで、配属希望する研究室を決定することができます。私は化学感覚の中でも味覚を中心に研究をされている細胞生理学教室の説明会に参加して、この研究室の先生方の熱意とプロジェクトの面白さに惹かれ参加を決めました。
研究配属期間
この研究室で最も魅力的だったのは、研究配属期間中、学生のために用意されたプログラムを体験するのではなく、この研究室が現在進行形で取り組んでいる研究課題に、私たち学生も一緒になって取り組むという、そのスタンスでした。私が研究室に参加した当時、進行中だったプロジェクトのゴールは塩味トランスダクションの分子機構の解明でした。私は、舌上皮にある味覚センサーである味蕾細胞の中に、塩味すなわちNa+イオンの存在を検知するものを同定すべく、候補分子の遺伝子改変マウスを用いた免疫組織化学染色や味覚行動実験などを行いました。
最初は右も左もわからない状態だったので、分からないことは質問して、なるべく早く研究室という環境に慣れようと努めました。先生方は私の質問攻撃や休日の実験にも付き合ってくださり、手厚く指導していただきました。また、実験技術や解析に関する書籍や雑誌が豊富にあり、自由に閲覧できる環境があるので、自学自習に大変役立ちました。
先生を含め誰も結果を知らない実験を進めるわけですから、もちろん上手くいかないことも多々ありました。その時には、その結果をどのように捉えるべきか、またどのように解決していくのか、私たち学生も議論の輪に入って沢山の学びを得ました。そのような労苦の末に得られた、おそらくまだ世界中の誰もが見たことのないであろう事実を目の当たりにした時の高揚感は、何にも代え難いものです。そう感じたとき、この先も研究を続けたいと思い樽野教授にお願いをしたところ、歓迎してくださって配属期間終了後も研究を続行することになりました。
配属期間後
もともとこの研究室には分子、細胞から個体に至るまで様々な生体電気現象を計測する電気生理学に関する実験装置が充実しています。研究配属期間ではこれらには触れなかったのですが、私はパッチクランプ法という電気生理学的手法に興味があったので、技術の習得は容易ではないと分かりつつも挑戦したいと思い、夏休みの期間を利用して根気強く指導していただきました。
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素敵なアートで発表論文がNeuron誌の表紙を飾りました |
パッチクランプ法と同時並行で、進行中の塩味に関するプロジェクトでも一部を任せていただき、チームの一員として舌で塩味を感じる細胞・分子のメカニズムの解明に貢献することができ、論文発表までを体験することができました(Nomura K, Nakanishi M, Ishidate F, Iwata K, Taruno A. All‑electrical Ca2+‑independent transduction mediates attractive sodium taste in taste buds.
Neuron 106; 816‑829, 2020)。そしてこの成果をもって、第97 回日本生理学会大会にてポスター発表をする予定でしたが、無念にもCOVID‑19
の感染拡大により集会が中止となってしまいました。
現在とこれから
現在は、数か月かけて習得したパッチクランプ法を用いて、自分自身の新たなプロジェクトに取り組んでいます。まだ予備実験の段階ですが、定期的に先生方とディスカッションを重ねて進めています。
放課後や休日を利用して自分の研究に没頭していますが、やはり医学生として病棟に行き、様々な疾患、治療に耐えておられる患者さんと接すると、ふと「人間らしさとは何だろうか」と思うこともあります。人類に共通して私たちは体の中と外の環境を感じることによって幸せ、あるいは苦しみを感じます。また、健康な感覚を保つことはこれからの超高齢社会にとっても重要な課題だと思います。将来は味覚を含めた生体感覚について広い視野を持った基礎医学研究者になれればと夢見ています。
指導教員から
医学生の基礎研究に対する興味は百人百様で、研究室に訪れてくる学生でもその熱量には大きな幅があります。当研究室では、それぞれの熱量に合わせた基礎医学の研究指導を提供するように心がけています。実験はせずとも勉強会や論文抄読会には毎週参加する者から中西さんのように大学院生と同じように主体的な研究者としてチームに参画する者まで、どのような形にせよ基礎研究リテラシーの底上げ、ひいては優れた医学者の育成につながると信じて指導しています。(生理学教室細胞生理学部門
樽野 陽幸)
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