これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第62回*  (2021.2.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は近畿大学医学部医学科3年 西郊 穣(にしおか みのる)さんです。


                        近畿大学医学部医学科3年 西郊 穣
   

【自己紹介】
①略歴
平成15年 Katoh Gakuen Kindergarten English Immersion 卒業

平成21年 聖マリア小学校 卒業

平成24年 逗子開成中学校 卒業

平成27年 逗子開成高等学校 卒業

平成30年 近畿大学医学部医学科 入学

           現在に至る

②所属している部活動
・華道部       部長

・生薬研究会    副部長

③趣味など
 中学・高校と吹奏楽部に所属していた影響で今でも偶にユーフォニアムやサックスを弾いたりして
います。
 上記の通り大学では華道部に所属しておりますが、外部の茶道教室にも通っております。
 アニメや漫画に費やす時間も多く、俗に言うところのヲタクです。
④所属している教室

・再生機能医学教室

・免疫学教室


〔近畿大学における研究者育成〕
(ⅰ)1学年の「医学概論」(私の時は「医学総論」)の演習コース

(ⅱ)2学年の2月の3週間「基礎配属」(今年度より)

 それ以外でもやりたい事があれば、授業とは別に自分の好きなどこの教室・医局に行って交渉するのも自由で、基礎・臨床に関係なく多くの教室が見学などの対応をしてくださります。
 私が2つの講座を掛け持ちするというある種ワガママができている理由も、学生という免罪符に加えてこの自由度にあります。
 因みに所属はしていませんが、ごく偶に病理学教室に行って組織切片の見方を学んだりもしています。


〔研究室への所属契機〕

 母親が研究論文を書いているのを見て育った影響で、特に臨床研究に興味があり『お医者さんは臨床の傍ら研究をするもの』という偏見の元育ってきました。

 実のところ、ピペットやフラスコなどの実験道具は学校の理科の実験の時間以外触れることは滅多にありませんでした。どちらかと言うと解剖道具で魚や虫を解剖してみたりといったことが好きで、親に買い与えられた顕微鏡などは滅多に使われないため埃をかぶっている時間の方が長かったほどです。中学校になると研究内容も若干成長し、様々な種類の調味料の粘度を調べることで嚥下機能の評価を行うという内容の論文を書いたりしておりました。

 大学に入学すると「医用化学」という講義があり、そこでビタミンの定量実験を行うことになったのですが、先に述べた様にピペットなど片手で数えるほどしか持って来なかったため失敗に終わりました。しかし元々負けず嫌いの性格であったことと、考察を書くことには慣れていたため失敗した原因も含めて考察を書いたところ、それが講義を担当されていた医学基盤教育部門の岡田清孝教授(当時准教授)の目にとまり、研究室(岡田先生の前所属研究室:梶博史教授の再生機能医学講座)の見学に誘って頂いたのが最初のきっかけでした。

 正直、最初は仮入部の様な感覚で何となく考えなしに実験操作などを教わっていたのですが、徐々に基礎医学の重要性、臨床への応用力の高さや将来自分の強力な武器になるであろうことがわかってくるとより力を入れるようになりました。さらに、できることが増えてくると実験自体を楽しめる様になり、結果的に夏休みの大半を研究室で過ごしている程でした。


 二年生の夏休みには岡田先生に誘われ日本病態生理学会に参加しました。そこで一際私の興味を惹いたのが東京大学大学院医学系研究科の井上剛先生が講演された「神経・免疫系を介した抗炎症・腎保護メカニズム」というシンポジウムでした。元々、私は自己免疫疾患や自律神経系にも興味があったのでもっと具体的なことを知りたいと思い、当時のカリキュラムでは免疫学の講義は夏休み明けだったにも関わらず、夏休みのまだ講義が始まらない内に当近畿大学の免疫学教室の宮澤教授を訪ねました。

 宮澤先生からは「私(宮澤教授)の講義を受けた後でも同じ考えであれば研究室に来なさい」とおっしゃって頂いたため、免疫学の講義と試験を終了した後に再度研究室を訪れて現在に至ります。これまでに宮澤先生をはじめ免疫学教室の講師である博多先生、かつて医学部生だったころに免疫学教室に在籍し現在では研修医である清水先生と一緒に研究を続けております。


 以上の様な経緯で私は2つの教室を掛け持つこととなりました。


〔主な実験内容/感想〕
①再生機能医学
 再生機能医学講座では、1学年の時から岡田先生の骨組織損傷後の修復過程に関する研究に参加し、基本的な実験手技と考え方について学んでいます。

 骨組織の障害後の修復・再生には様々な細胞や因子が関与しているそうですが、その中でも骨髄幹細胞と血液線溶系因子に注目して研究が進められています。骨髄幹細胞は骨損傷後の修復過程で目的の細胞へ分化、遊走していると思われます。また、血液線溶系因子は血管内での血栓の溶解に関わる因子として生理学で習いましたが、組織の損傷、修復、再生過程にも様々な機能を発揮するようです。骨損傷後の修復過程で線溶系因子が骨髄幹細胞にどの様な作用を及ぼしているかを解明するために、その遺伝子欠損マウスを用いた実験の経過観察などを経験しました。また、実験に使用するマウスの遺伝子確認の為のPCR検査や、実際に骨髄でどの様な修復過程が起こっているかを可視化する為の骨髄標本の免疫染色なども行っています。

 講義における実習でも学んだことを目で見て実際に確認することができますが、カリキュラムとの兼ね合いでどうしても全てを網羅できません。しかし研究室で先生方の数多くの実験を見学したり実際に一緒に行ってみることで経験的にわかる事が増え、教科書での知識同士の横の繋がりも見えて来るので参考書や教科書を読んでいるだけではわからない事がわかる様になってきていると感じました。

 例えば講義の実習では、同級生の血液を採取して全血凝固時間、APTT、PTを計測するという血液凝固系の実験は行った一方で、線溶系は講義で知識として習ったのみでしたが、岡田先生との実験により実際にどのようなカスケードが起こるのか細胞レベルで確認したり、応用として万が一正常の流れが途絶えてしまったら身体にどの様な不都合が起きて、病気に繋がるのかといったことを学ぶ事ができました。

 これにより、CBTや国試の問題で知らない問題にあった時の応用力が鍛えられたと感じますし、ひいては将来前例の無い症例を目の当たりにした際の応用力にも結びつくのではないかと思います。


 また岡田先生の研究室には、何人かの医学部の先輩が同じように授業の合間に研究に来られていました。学年が異なり、時間割等の違いで全ての先輩と頻繁に会えるわけではありませんでしたが、私と同じ華道部の先輩も2名いらして、部活の合間に研究の話をするなど一年生の時は先輩と話すきっかけにもなりました。それ以外の先輩とも、現在は新型コロナウイルスの関係で行えていませんが、岡田先生が開かれる年1、2度の食事会でも繋がりをもつことができ、実験で一緒になった先輩には勉強の仕方やおすすめの教科書を教えて頂いたこともありました。

 このような同じ分野で実験・研究している先輩との出会いや繋がりは研究室に行かないと持つ機会の無い大変貴重なものだと思いますし、これからも大事にしていきたいと思います。そして自分が先輩方からして頂いた様に、自分にも後輩ができたらこちらから積極的に声をかけてさらに繋がりを広げていきたいとも思います。


②免疫学教室

 免疫学教室では、免疫学の基礎的な手技・知識を学ぶ為にモノクローナル抗体を作成しています。
モノクローナル抗体とはある特定の抗原にのみ反応し、基礎・臨床研究のみならず癌や自己免疫疾患等の治療にも用いられていることで有名です。現在私が作成に挑んでいるモノクローナル抗体はAPOBEC3と呼ばれるシチジン脱アミノ化酵素に対する抗体です。
 まず、APOBEC3遺伝子を欠損しているマウスにAPOBEC3タンパク質を投与しました。APOBEC3遺伝子欠損マウスにとってAPOBEC3タンパク質は外来抗原であり、投与されたマウスの体内ではAPOBEC3タンパク質に対する抗体および抗体産生B細胞が作成されます。

 次に抗体産生B細胞をマウス脾臓から回収するのですが、このままだとこのB細胞は短期間の培養で死滅してしまうので、増殖能を持ったミエローマ(マウス骨髄腫由来の細胞)との融合細胞(ハイブリドーマ)を作りました。

 また、回収した抗体産生B細胞は単一の細胞ではなく、種々の抗原特異性や親和性を持った数多くの抗体産生B細胞群の集合です。すなわち、できたハイブリドーマも複数の細胞群の集合状態であり、この中から目的とするAPOBEC3に対する高い特異性と親和性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択(スクリーニング)しなければなりません。

 スクリーニングではまず、複数の細胞集団からなるハイブリドーマを1つの培養容器につき1個のハイブリドーマが分配されるように分離培養しました。その後、それぞれ単一化したハイブリドーマを個別の培養容器内で増殖させ、それから産生された単一の抗体(モノクローナル抗体)を回収しました。元のハイブリドーマが例えば1000個の細胞集団からなっていた場合、培養液による希釈と単一ハイブリドーマとしての培養により、1000種類のモノクローナル抗体が回収できます。

 その後、回収したモノクローナル抗体のAPOBEC3に対する特異性と親和性を調べなければいけません。そのために、APOBEC3を発現する細胞と発現しない細胞を利用しました。これら細胞を固定・透過処理しておき、回収したモノクローナル抗体を反応させ、APOBEC3発現細胞にのみ反応するかを調べることで抗体の特異性を評価し、反応の強さを調べることで親和性の評価を行っています。

 上記したスクリーニング操作は一見簡単そうではありますが、ハイブリドーマの数が膨大であり、そもそも単一化されたハイブリドーマの中には目的とするAPOBEC3に対する抗体を発現しないものも実際には多いため、兎に角沢山のスクリーニング作業を続けなければなりません。

 現在は授業を優先しつつ、実験時間の確保が可能な時にスクリーニング作業を続けています。


 免疫学教室の実験では初めて本格的な無菌操作の手技を体験しました。今回行った無菌操作の実験はクリーンベンチと呼ばれる微生物の混入(コンタミネーション)を避ける為の壁と天井で囲まれた作業机での実験で、無菌操作をやったことが無かった私は慣れるまでに苦労しました。

 また無菌操作の手技を学ぶ過程で、アスピレーターで培地を吸いすぎてアスピレーターを壊しかけたり、ピペットの先端が自分の手に触れて使用する前に破棄する(コンタミネーションの可能性があるため)ことになったりと数多くの失敗もありましたが、実験を行う前に頭の中でシミュレーションしたり、今まで何気なくやってきた実験の操作をより慎重に行うクセを身につけることができました。

 また、免疫学教室では定期的に所属されている先生方の実験の進捗などを報告する会があり、自分には難しくてわからないだろうと思いつつ参加してみましたが、難しいところは私にもわかるよう簡単に解説してくださったので、知識が少ないなりに大まかなことは理解する事ができました。また同時に、講義で習った知識の応用的なことやまだ教科書に載っていない最新の情報も知る事ができました。

 ですがやはり一番嬉しかったことは、まだ一部とはいえ、何度も色々な科目の講義で名前が出てきていた抗体製剤の制作過程を実際にやって体感できているということです。大まかな作り方は知識としてはあったものの実際に行うことで、“マウスへのAPOBEC3を投与する際の尻尾への静脈注射の難しさ”や“抗体産生B細胞とミエローマをフュージョンさせる際にそれぞれの細胞密度が同じになるよう、B細胞を取り出す直前までミエローマの密度を一定に保ち続けられるよう調整しながら継代しなければならない”など教科書には詳しく書かれていないことを学生の間に知り、体験できたことは誇れることだと思います。

 まだスクリーニングの作業中ですが、未確定でもAPOBEC3に対する抗体を有しているかもしれないモノクローナル抗体があった時の嬉しさは今後も忘れることは無いと思います。

 こういった経験は医学部生らしい思い出にも繋がると思いますので、まだ研究室配属などに興味があるけど踏み切れていない人は、是非少しでも興味のある分野の研究室に行ってまず行動することできっと素晴らしい経験を得られることと思います。


〔将来への抱負〕

 双方の講座の先生方からも言われていることですが、現在研究室で学んでいるのは研究内容についての周辺知識や実験手技だけではありません。

 最も重要なことは、将来自分が何か調べるために実験をしなければならなくなった時に、どういう実験をすればどんな結果が出るか予想ができる、謂わば研究者の勘そして自らの力で必要な物や実験がわかり研究計画を立てることのできる力です。いずれも実際にやってみなければわからないし、どこの科に行くにしろ持っておいて損は無いものであると言えます。

 自分は研究医というよりは臨床医を目指しているので、将来臨床現場で問題にぶつかった時に誰かが研究してくれるのを待つのではなく、自らの力で問題解決できる医師を目指しています。