自己紹介
川崎医科大学医学部4年の森瑞樹です。私は愛知県出身で、幼い頃から臨床医をこころざし本学に進学しました。大学では、子供に病気や健康を伝える“ぬいぐるみ病院”という活動をしています。
『医学研究への扉』(Door to Medical Research):研究マインドの涵養
私たちの大学では第2学年に、研究マインド涵養を目的とした必修科目『医学研究への扉』があり、私も2019年度に受講しました。
この科目は系統講義と実践演習により構成されます。講義では、動物実験、遺伝子組み換え、安全性、研究倫理など、研究のルール、マナー、そしてモラルについて、関連委員会や研究センターの責任者の先生が授業され、学年全員で受講しました。演習は選択性で、学内64教室から103課題(教員246名)と学外9教室11課題(教員41名)が年度始めに提示されます。課題は生物学や医療現場の研究に加え、統計学、医学史、また外科手技体験など非常に幅広く、先生の意気込みを感じ、学生の興味を惹き付ける内容ばかりで、学生の満足度が最も高い科目となっています。
課題をもとに希望先を提示してマッチングを行い配属先が決まり、指導教員の指導のもと実施研究の計画を立て事前準備をします。11月から各研究室で研究を行い、成果を抄録とポスターにまとめ、学生と教員が一緒に審査を行う12月の学生学術発表会で終わります。
今年はオックスフォード大学の2教室2課題が含まれていました。このうち川崎学園が2002年から学術提携している Green Templeton College (GTC)のFellowの Prof. Mark Harrisonの提示課題を希望し、幸い配属が決まりました。
研究内容
私は医学教育に臨床実習を導入したWilliam Oslerを以前より尊敬していました。Oslerの旧宅がWilliam Osler Centreとして、GTCが所有していること、そのGTC Fellowの医史学者Prof. Harrisonがこの科目に参画されることは、千載一遇の出会いと思い感激しました。
Prof. Harrisonとは事前にメールで自己紹介や私の希望などを伝えました。また日野原重明氏のOsler関連著作などを参考に自分なりの考察を行い研究に備え、演習期間に渡航し、学生寮に約2週間滞在して研究活動を行いました。
まずProf. HarrisonにWilliam Osler Centreを案内して頂き、貴重な資料や遺品を見ることができました。William
OslerからHumanityを学びたいとの希望に対し、“The Practice of Medicine; How did Sir William
Osler keep his composure in difficult circumstances?” という課題をProf. Harrisonから提示されました。そして「Oslerの学生時代」をscenario(課題)として提示され、これに対してessay(レポート)を論述し、これを基に討論が行われます。それをもとに次のscenario提示、調査・考察、essay論述、討論という過程を繰り返しました。
私はOslerの学生時代の経験がその後の人生への影響に注目し、その観点からOslerの「人生の浮き沈み」を分析し、我々は何を学ぶべきかを考察しました。波乱万丈の
Oslerの人生には不遇な時、苦しい時の後に必ず成功の事績があり、これを図示化したところ、Prof. Harrisonに“unique and
original!”と褒めていただきました。充実した約2週間の滞在を終え帰国し、引き続きメールで討論と指導を受け、ポスターにまとめました。
Oslerの教養の高さとHumanityの豊かさは医師になる前に培われています。学生時代から研究マインドを持ち、生涯学び続ける理想の医師像をOslerから学ぶことができ、今後に活かしたいと感じました。留学して自力で研究することはとても刺激的・挑戦的で、貴重な体験でした。
今後の抱負:研究マインドの重要性
新しいAI技術の導入や、肺炎のような疾患の予後の改善により心疾患や悪性新生物への新たな課題が生まれるなど、医学は常に変化しています。口腔ケアと肺炎予防など、意外な可能性など医療の選択肢が広がる中で医師も常に変化を求められます。あらゆる可能性に対して広い視野を持ち、難しい判断を経て、適切な行動をすることが必要となります。
「なぜ研究マインドを育む必要があるか?」を『医学研究への扉』で学びました。新型コロナウイルスにおいても、問題点をまず明らかにして乗り越えていくかが、どの立場でも重要であり、医師は常に研究マインドを持ち続けることが大切だと感じています。将来、病院の臨床現場にあっても研究室にあっても、私は生涯学び続ける医師になりたいと思います。
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