これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第8回*  (H24.6.26UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は名古屋大学医学部6年生の久保田晋平さんと、神経情報薬理学講座研究員の加藤勝洋さんです。

名古屋大学医学部医学科6年 久保田 晋平

J. Craig Venter Instituteにて

自己紹介
 名古屋大学医学部6年の久保田晋平です。2012年4月から設置された4大学研究者育成プロジェクトに5年次から第一期生として入りました。幼稚園の頃から近視がきつく眼鏡をかけていたので“ハカセ”と呼ばれていました。刷り込みとは恐ろしいもので高校生の頃には漠然と研究者になろうと考えていたと思います。医学部には医学に関する研究を行うために入学しました。趣味はトライアスロン、登山です。

四大学研究者育成プロジェクトへの参加の動機
1.  基礎研究者になりたいと思っていたため。
2.  海外留学のサポートをしていただけるため。

プロジェクトでの実績
 名古屋大学には入学後に基礎セミナーという少人数での授業があり、私はオープンキャンパスのときに話を聞き、興味を持っていた門松教授のセミナーを選択しました。この授業で私はマラリアに関する研究について調べ、生物学の面白さと対峙し、門松教授にお願いして生化学第一講座に出入りさせていただくことになりました。生化学第一講座では神経芽細胞腫の発生機序を解明するために遺伝子改変マウスを用いて組織学的解析を行いました。また毎週先輩たちと一緒に抄読会を行い門松教授の指導のもとで論文の読み方を学びました。
 名古屋大学の特徴的なプログラムとして3年次に約半年間研究室に所属して基礎研究に取り組むことができる基礎医学セミナーというプログラムがあります。2009年に私は基礎医学セミナー生として神経情報薬理学講座に所属し、統合失調症の原因遺伝子の最も有力な遺伝子の一つであるDISC1に関する研究を始めました。神経情報薬理学講座では、我々の研究室が作成したDISC1 KO mouse, DISC1抗体を用いてDISC1の細胞内機能を調べるためにDISC1の局在解析を行いました。この成果は2011年の12月にHuman Molecular Genetics に発表できました(Kuroda K, et al. Behavioral alterations associated with targeted disruption of exons 2 and 3 of the Disc1 gene in the mouse. Hum Mol Genet. 2011 Dec 1;20(23):4666-83. Epub 2011 )。
 その他に2011年7月には東北大学の高井教授の推薦でドイツのフライブルグ大学にサマーインターンシップを行わせていただきました。ここでは主にFACSを用いた解析法を習得するために実験を行いました。その後名古屋大学の貝淵教授の推薦で2011年の8月にはドイツ、ミュンスターにあるMax Planck Institute では血管新生に関する研究を行いました。ここでは主に生化学的な手法を学びながら遺伝子改変マウス、培養細胞を用いてタンパク質間相互作用の解析を行いました。また6年次にも貝淵先生の推薦で2012年の5月から7月にかけてアメリカ、サンディエゴにあるJ. Craig Venter Institute で “Minimal Cell” を作成する研究を行わせていただきました。ここでは今まで行ってきた遺伝子工学実験やFACSを用いて酵母の中で目的とするゲノムを作成しています。
 このように様々な研究室で実験をさせて頂いたというのは私の大学生活の特徴であると思います。学部生が研究室に所属し研究をしたいといい嫌な顔をする教授を私はみたことがありません。また同時に教授の方々は大変楽しそうに研究について話されます。もし少しでも研究に興味があるならば深く悩まず、軽い気持で教授のところに行き話を聞いてみたら良いのではないかなと思います。

養成コースに参加して思ったこと
 1年次から2年次にかけては実験をすることが楽しくて、指導教官の指示通りに組織切片を解析するのを楽しんでいました。また一本の論文を読むのに大変苦労をして、どれだけ時間をかけて準備をしても質問に答えきれず翌週に持ち越したことが多々ありました。あきれずつきあって頂いた門松教授には大変感謝をしております。
 3年次から6年次にかけては貝淵教授のもとでDISC1の細胞内機能を調べる研究をさせて頂きました。毎週土曜日にあるプログレスレポート、抄読会、教授とのディスカッションを通してここでは書ききれない大変多くのことを学びました。また貝淵教授に推薦して頂き Max Planck Institute、J. Craig Venter Institute で研究をさせて頂けたことは様々な研究者と知り合うことが出来たという点でもたいへん貴重な経験となりました。
 名古屋大学にはグローバルリトリートという研究者が集い合い1泊2日で研究成果を発表し、また招待講演を聞かせて頂くという大変貴重な機会があります。私は3年生の第2回NAGOYAグローバルリトリートから第4回NAGOYAグローバルリトリートに参加させて頂き大変多くの研究者と話すことが出来ました。学部生はあまり参加しておりませんがこのような研究者が集い合い、情報を交換し合うことができる環境は私にとって大変有意義であったと思います。


将来の抱負
 様々な研究室で学んだことを生かし、最終的に感染症の新規治療法に役立つ仕事をしようと考えています。まずは大学院に進学して感染症の機序の解明方法となる新しいアプローチ方法を身につけたいと思います。


     
   
名古屋大学大学院医学系研究科神経情報薬理学講座研究員 加藤 勝洋
 
   
左から貝淵教授、学部生の矢沢君、筆者
 

 私は、現在神経情報薬理学講座に所属している研究員として研究および教育活動に従事しております。研究者としてまだまだ未熟ですが、これまで歩んできた道が少しでも研究に興味を持っている医学生にとって参考になればと思い振り返ってみます。
 名古屋大学は、基礎研究を目指す医学生は非常に少ないのが特徴です。私も入学する時点では研究にも興味を持っていたのですが、1年生の時から数人研究室に出入りしているのを横目で見ながら、大多数の学生と同じような大学生活を始め、テニス部に所属してテニスに明け暮れる毎日でした。初めて研究に触れるようになったのは、基礎医学セミナーで配属される3年生の時でした。名古屋大学医学部には基礎医学セミナーといって、3年生の後期の半年間、どこかの研究室に配属されどっぷり研究に浸かることができます。配属されたのは神経情報薬理学教室の貝淵弘三教授の研究室です。半年間の配属期間中、実験の仕方から研究の楽しさまで教わりました。諸先生方の指導がよかったため、研究入門者でありながらポジティブな結果が続きました。このようにして研究の魔力に取り憑かれていったのではないかと思います。研究をすることの楽しさの1つは、世界の誰も知らないことを自分だけが知っているということだと思います。世界で初めての発見を本当の意味で最初に見る事ができるのは、まさに実際に手を動かして研究をしている本人なのです。それを実感し、興奮を感じることが研究の魔力なのかもしれません。「研究はおもしろくてやめられんやろう?」という深田先生の言葉が今でも印象的です。
 基礎医学セミナーの半年間が終わった後も、授業とテニスの合間を見つけながら研究を続けました。例えば、授業と授業の合間の休み時間にサンプルをアプライして、授業中に電気泳動し、授業が終わったら回収してという感じです。5年生になると臨床実習も始まりましたが、そんな感じであっと言う間に卒業を迎えてしまいました。西村先生の指導がよく、卒業までに自分が関わった研究が、実際に論文という形になったことは非常に大きな喜びであったと同時に非常によい経験になりました。
 卒業後は、研修医として郊外の病院に就職しました。その年は臨床研修が必須化となり新しく始まった新臨床研修制度の初年度でした。すべてが新しいことばかりの研修医の間は、日夜を問わず病院業務に追われていました。研修医の2年間が終わった後も、循環器科に所属し、以前と同様に病院業務に追われました。そんな中でも臨床研究で論文を書いたり、多くの学会発表をさせていただいたりしましたが、論文を読む時間を見つけることはなかなかできませんでした。その後、市中病院で4年間、勤務医として働いた後に大学院の博士課程に進学しました。臨床勤務していた4年間は、科学技術が日々進歩していたにも関わらず、基礎研究の論文に触れる機会がなかったため、大学院に進学した直後は、4年間のブランクを埋めるのがかなり大変でした。学部生の時とは異なり、自ら研究の計画から遂行まで行うので、楽しい反面、自分の経験や勉強が足らないために、なかなかよいデータを積み重ねることができず悩むことも度々ありました。なんとか研究生活に慣れた後でも、結果が出ず先の見えない毎日は非常に厳しいものでした。自らの責任で研究を行う、そこが学部生の時とは大きく異なっていたところだと思います。しかし今振り返ってみれば、そんな苦労したことも非常によい経験だったと思います。大学院生の間は、自分の研究に専念するだけでなく後輩の指導にもあたりました。基礎医学セミナーで研究室に配属される医学部の学生の指導を始めとし、修士の学生、他学部の学生や外国人留学生の指導にも従事しました。できる限り「研究のおもしろさ」を伝えようと私なりに努力しました。熱心に教えた甲斐があったのか、指導した学生が学内の発表会で最優秀賞や優秀賞を受賞できた時は大変嬉しく、とてもよい思い出となりました。自分が教えた学生の中から研究を志してくれる人が出てくることを期待しています。
 現在は、研究員として名古屋大学に在籍していますが、今年の秋からはドイツの研究所に留学することが決まっています。留学先では、今まで主に行ってきた細胞の極性形成の分野から大きく変えて、血管新生の研究をする予定です。分野を変えて研究をするのは、自分の中でもまた新たな発見ができそうでとても楽しみです。
 若い頃から基礎研究に携わることができたことで、臨床の現場においても他の人とは異なった視点から物事を見ることができたことは非常によかったと思います。また、実際に臨床の現場に出ることで、多くの患者さんに巡り会い命の尊さを学んだこと、多くの尊敬できる研究医及び臨床医に出会えたことは非常に大きな糧になっています。医学部でなければ得られなかった経験を生かして、最終的には医療の現場に還元できるような研究が行えたらと思います。
 最後になりましたが、温かくご指導いただきました貝淵弘三教授、研究の楽しさ教えて下さった深田正紀先生、優子先生(現生理学研究所、生体膜部門教授、准教授)、学部生時代に一からご指導いただいた西村隆史先生(現理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター、成長シグナル研究チーム チームリーダー)をはじめ、多くの諸先生、諸先輩方のおかげで現在の私があると思います。この場を借りて深く御礼申し上げます。