大学の教授が研究医として歩みだした頃のことを回顧します。
*第53回*   (2019.8.23 UP)  前回までの掲載はこちらから
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今回は昭和大学医学部長 小川良雄先生です。
 「私の研究歴」
                                  
                             昭和大学医学部長 小川 良雄(泌尿器科講座教授)

        
 

DUKE UNIVERSITY MEDICAL CENTERでの留学時代

 

泌尿器科学への道
 私は1981年に昭和大学医学部を卒業しました。泌尿器科学の大学院に進学したのは、家庭は医療関係でなく、どの講座でも自由に選択できる環境であり将来の高齢者社会を考え、また学生時代のクラブ活動の先輩の勧誘もありました。本学の臨床系大学院は一般臨床の修練を重ねながら、研究をすることが可能なシステムです。大学院の研究テーマは、学部生時代から慢性腎不全の多彩な病態に関心があり、治療法として血液透析を中心とする血液浄化法に興味をもちました。泌尿器科を勧めてくれた指導医とともに、泌尿器科領域における進行悪性腫瘍患者の悪液質改善のために血漿交換療法を適用し、その効果と血中パラメータの解析をしました。血漿交換膜から流出してくる患者の血漿に免疫抑制物質や悪液質をきたす因子が含まれていると思うと、その物質を解明したいという研究心が芽生えました。私立大学で研究費が十分でなかったため、学位を取得した後、研究は一区切りとしました。腎不全・移植治療にも興味があり、1987年に東京大学医科学研究所人工臓器移植科に国内留学をさせていただき、腎移植の手術と周術期の管理を学びました。
 その後、教授が変わり5年間にわたり地方の一般病院での出張で、一般泌尿器科診療と手術の技術向上に努めました。救急手術も多く手がけ、本学の大学病院に先んじて進行膀胱がんの膀胱全摘除術後の尿路再建として回腸新膀胱造設術を実施しました。


基礎研究のスタート

 1994年に大学に復帰したのち、臨床診療に従事していました。1995年に日本医科大学の中神義三教授が定年退職後に客員教授となられ、泌尿器がん細胞株(DU145、LNCaP、T24など)を持ってこられて、当講座での癌細胞株を用いた研究がスタートしました。当初は生化学教室で細胞株を継代培養してもらい、私自身が臨床診療の空いた時間に生化学教室へ出向いて、細胞培養技術の一から手ほどきを受けました。その後、MTT assay、Western Blot、PCRなどの基礎的な実験技術も学び、培養細胞を用いて基礎的実験を行い、それをもとに現在は当講座の基礎研究の中心となっている直江准教授をはじめ、5人の大学院生の学位指導を行いました。


DUKE UNIVERSITY MEDICAL CENTERへ留学

 1997年から1998年の1年間を米国ノースカロライナ州DUKE大学メディカルセンター泌尿器科へResearch Fellowとして留学させていただきました。David F Paulson教授のもとで、Cary N Robertson准教授に直接の指導を仰ぎました。そこでは、ホルモン抵抗性前立腺がん株DU145を中心にTGF-βなどの増殖因子が影響した場合にMAPK系とShaperone蛋白であるHSP70の関連性についての研究を行いました。40歳を過ぎての遅い留学でしたが、臨床から離れての研究室での生活はストレスがなく、自由を満喫してゆったりした時間を過ごすことができました。DUKE大学のレジデントとカンファランスや研究室で冗談を言い合い、エフ(f)の発音をたびたび矯正されましたが、同時期に留学していた韓国のShin医師とは家族ぐるみの付き合いもさせてもらいました。留学中に長女の受験のために単身赴任となりつらい時期もありましたが、広い視野と国際的な友人を得ることできた貴重な体験をすることができましたので、後輩にも留学を勧めています。


帰国後の指導

 帰国後は講師、准教授として臨床診療と手術、学生教育が中心となる生活となってきましたが、大学院生の指導をするときにはできるだけ研究室に足をはこび直接指導するようにしていました。実験がうまくいかない院生から電話があったのは、丁度娘の卒業式の途中でしたが、駆けつけて指導を行い、家族からやや白い目で見られたものの、それに勝る後輩からの信頼を得たと思いました。また、論文の指導のときには参考文献をすべて印刷して読み、孫引きはないかチェックを行い指摘すると院生は真剣になります。院生も私も臨床で疲れた体で頑張っているので、お互いの信頼感を増すことができたと思っています。現在、研究の直接指導は直江准教授が中心に行っています。研究テーマは膀胱がんに対するBCG療法の機序についての基礎的研究、前立腺がんの遺伝子治療法における安全なベクターの開発では特許を得ました。また泌尿器系がんのリキッドバイオプシーであるCTCを新たなデバイスで着実に検出する方法を東京農工大と共同研究し、腸内細菌叢と泌尿がんの関連性を昭和大学臨床薬理学研究所と共同研究を行っています。


今後の展望

 学部教育におけるカリキュラムの垂直統合・水平統合が策定しつつあります。研究においても単独の講座での研究ではなく、基礎と臨床のトランスレーショナルリサーチが相互の発展に必要です。本学では2019年4月から薬理学研究センターが発足して、医学部・歯学部・薬学部の薬理学講座が1つに統合されました。約100名を抱える組織であり、臨床系講座との教員・学術の相互乗り入れで研究医の育成に寄与することを期待しています。


【略 歴】

1981年3月 昭和大学医学部医学科 卒業
1985年3月 昭和大学大学院医学研究科博士課程 修了
1985年4月 昭和大学医学部泌尿器科学講座 助手
1986年2月 東京船員保険病院透析室 医長心得
1987年4月 東京大学医科学研究所 文部技官教務職員
1988年4月 昭和大学医学部泌尿器科学講座 助手
1990年8月 清恵会病院 泌尿器科 部長
1991年7月 総合高津中央病院 泌尿器科 医長
1995年1月 昭和大学医学部泌尿器科学講座 助手
1996年7月 昭和大学医学部泌尿器科学講座 講師
1997年8月 米国Duke University Medical Center,Research Fellow留学
2001年3月 昭和大学医学部泌尿器科学講座 助教授
2007年7月 昭和大学医学部泌尿器科学講座 教授
2007年7月 昭和大学病院泌尿器科 診療科長
2011年5月 昭和大学医学部教育委員長
2017年4月 昭和大学 医学部長
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