*第11回*  (H24.10.1 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は京都大学での取り組みについてご紹介します。

京都大学医学部でのMD研究者育成プログラム
       
(文責:京都大学医学部MD研究者育成プログラム担当 陣上 久人先生)
 近年医学部出身の基礎医学研究者数が著しく減少してきており、我が国の基礎医学研究の将来が危ぶまれている。このことを重く受け止め、東京大学、大阪大学、名古屋大学、京都大学の4大学が連携し、長期的視点で基礎医学研究者の育成プログラムを開発し、医学分野における教育体制の強化と研究の活性化を図ることになった。 京都大学では平成13年度からMD-PhD プログラムを、また平成19年よりラボローテーションを始め、基礎医学の意義と楽しさを早期に知ってもらう事に努め、この対策としてきた。平成23年からは本MD研究者育成コースも開始され、これまで実施してきた教育方法を土台に、5年計画で、研究医育成のために大学間で共通した教育改革に取組み、大学間共同で開発する育成プログラムと各々の大学の特色を活かした独自の育成プログラムを開発し、その成果を全国の大学に還元する事をめざしている。

京都大学医学部が実施する具体的なプログラムの内容
基礎医学生物学
 新入生が7-8人のグループに分かれ、15の参加教室に配属されている。Essential Cell Biologyを用いて、各教室で輪読形式、発表形式のセミナーを行う。この教科は学生と教員との最初の交流の場であり、各教室で行われている研究の紹介や実験技術の紹介等、自由度を持って進める。授業日程表のペース配分は、あくまでも参考程度に考える。また医学英語教育という側面もあり、少なくとも授業は日本語の教科書を持ち込み禁止にして英語の教科書ベースで行う。評価は出席及び試験あるいは発表会の成績で行う。

ラボローテーション
 一つの研究室を6ヶ月づつで、2年半で5つの研究室を廻り、各々の研究室での研究活動に参加することを理想として実施されている。
その目的は、
・ 医学研究のさまざまな分野と手法を広く見聞し、講義だけでは分からないそれぞれの研究の実際を体験する。
・ 医学部のできるだけ多くの教員と身近に接し、人的ネットワークを形成する。
・ 自分の研究者としての適性を判断し、性分にあった実験手法と分野を見いだす。
・ 各々の研究室の実際を見て、フィーリングの合う指導者に出会う。
ラボローテーションにおける課題
・ 学生の熱意の見極めが難しく、不熱心な学生に対して教員は消耗させられる。今後は導入時の選抜を厳密に行う必要が考えられる。
・ 多くの学生は1-2の教室のローテーションで終わっているのが現状で、複数ラボを回る学生が少ない。
・ 過密な現行カリキュラム(特に3回生以降)で時間的余裕がなく、1回生、2回生の時期に実施せざるを得ない。
ラボローテーション教室の選択について
 年度当初(5月)にラボローテーション及びMD-PhDコース、基礎医学研究者(MD研究者)育成コースの説明会を開催している。これらのコース活動に興味を持った学生は教室主任との面談を行い、学生と教員が相互に納得がいった場合にラボローテーションにすすむ。教室の活動内容については1回生の全学共通科目として提供されている「医学概論」の講義も参考になる。過去から最先端までの医学研究の流れが講義され,ラボローテーションの参考となる情報が提供される。更に既にラボローテーションを行っている上級生からの屋根瓦式の情報もあるであろう。
MD研究者育成コースミーティング
 MD研究者育成コース登録学生が月例のミーティングを行っている。ラボローテーションで学んでいる研究分野や自分の興味ある分野の最新トピックスを題材にオリジナル論文の抄読を行っている。入学当初の1回生及び2回生には難し過ぎるかと思われたが,最新の文献を通してまず最先端の科学に触れることを目指した。十分内容をこなす力が有る事が確認されている。文献抄読する学生は大いに科学研究に興味を抱いており,その発展に鋭敏である。研究手法や実験データの見方を学ぶとともに、最新の医学・ライフサイエンスの動向について理解を深めることをめざす。各学生がそれぞれ参加している研究についての発表、討論も行っている。プレゼンテーションの技法などにも目を向けさせ,学生自身での運営をめざしている。
 これまで熱心にラボローテ―ションを行う学生を本学で開催される大学院教育コース行事やGCOE主催ミーティングに参画するよう誘ってきた。今後は若手研究者(MD-PhD学生、大学院生、若手助教)を本コースに招聘し,彼らとの交流を計る。学生が主体で,新進気鋭の研究者を国内外より招聘して講演会を開催し、その後懇談の場を設ける。これらの活動を通して、将来の自分が専攻する専門分野についての視野を広げる事が期待される。

マイコースプログラム
 4回生の夏期3ヶ月を使い、本学、学外、海外の病院、大学、研究所で研修を受ける。学生が自分自身で研修プログラムを企画する。4回生全員に必須科目として位置づけられている。学生は協力大学院・連携大学院を含めた本学内の教員に配属登録し、その助言・指導のもとに自分で研修プログラムを作成し、責任者の署名入りの届出書をカリキュラム企画委員会に提出する。マイコースプログラム終了後、学生は活動報告書を作成する。登録先の教員はチェックし、必要な指導を行い、署名する。カリキュラム企画委員会は最終的に修了認定を行う。

コンソーシアム大学間での取り組み
 京都大学は福井大学,滋賀医科大学、神戸理化学研究所とコンソーシアムを組んでいる。平成24年度からは神戸大学医学部との連携も開始された。これらのコンソーシアム大学、機関との間でリトリート等を開催(第1回合同リトリートを平成23年12月に開催)し、教員の問題意識の共有化、学生の交流を行っている。これまでの育成プログラム上の成功例、問題点等を検証し、共同育成プログラム試作に向けての方策等も検討している。また、学生が他大学での研究実習を行うための準備を整える予定である。実際にコンソーシアム参加大学学生が京都大学でのMD研究者コースミーティングに参加している。

履修生の推移
 この数年、年度当初のラボローテション及びMD-PhDコース説明会には約70名の学生が出席し,その半数がラボローテーションに興味を持ち、教室主任教授との面談に臨んだ。その結果、約20-30名の学生が実際のローテーションを開始する。
 しかし,当初の熱意が持続するのはそのまた半数程であるが、数名の学生が複数教室のローテーションに進む。教室間の温度差もあるが,放課後や週末を利用せざるを得ないextra effortをこなせる余裕ある学生数を反映しているのであろう。入学当初の興奮し、何事にも好奇心旺盛な時期に、真に魅力あふれるラボワークが提供されているかという点も考慮すべきであろう。 また、研究という個人的行為の厳しさ,孤独感のみを味わい、長続きがしない場合も認められる。その点で、ラボローテーション学生を中心としたMD研究者育成コースミーティングで自分の参加している仕事の話し合いや,文献抄読を通してグループ意識を計る事で共通の目標を共有する事が重要となる。
 一方,これまで熱心にラボワークを行った学生に対する評価及び報酬はなかった。現在、何らかの増加単位付与などの対応を考慮している。

今後の課題
 京都大学医学部が医学研究を重視した教育を行い,学部生の時に研究室を訪れるラボローテーションのシステムがある事を知り,意識して入学してくる学生がいる。これらの研究意欲の旺盛な学生が本MD研究者育成プログラムの中心メンバーとして活躍している。
 一方、広く教養を身につけ、クラブ活動も行って、1-2回生の時期を過ごし、医学部生として落ち着き将来を意識し始めた3-4回生の時期にようやく「研究とは?」と考え出す学生もいる。しかし、その時期には既に過密なカリキュラムに縛られていて身動きができず、欲求不満が募るケースの出現にもつながりかねない。何らかの対策が望まれるところである。
  近年、医学研究の対象がより病気・病態志向になってきているのは誰もが認めるところである。その点から実際の臨床を一度は見てみたいという考えは当然であろう。よって、医学部卒業1-2年後の卒後研修後に基礎医学を目指すというルートを確保し、拡大する事も重要な施策である。その為にも、本プログラムに参加し,臨床へ進んだ履修者間のネットワークを維持する事が肝要であろう。

京都大学医学部ホームページMD研究者養成コースURL:
   http://www.med.kyoto-u.ac.jp/J/faculty/MDresearcher/MDresearcher.htm