*第13回* (H24.11.30 UP) | 前回までの掲載はこちらから |
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今回は九州大学での取り組みについてご紹介します。 |
九州大学医学部での研究医養成の取り組み | |||
(文責:九州大学大学院医学研究院ウイルス学教授 柳 雄介 先生) | |||
医学部卒業者の間で臨床や専門志向が強くなり、研究に従事する若手医師が減少していることが問題になって久しい。中でも、喫緊の問題は医学部出身の基礎医学研究者の減少である。それに伴い、基礎医学教育を担うことができる人材が枯渇しつつあることは、わが国の医学教育の根幹にかかわる重大事と考えられる。それを解決するには、基礎医学系大学院に進学する医学部出身者を十分数確保し、その中から、将来、わが国の基礎医学の教育や研究を担う意欲のある人材を養成しなければならない。そのような考えから、九州大学では医学科カリキュラムに研究室配属を導入し、学生が基礎医学研究に触れる機会を増やすよう努めてきた。また、2007年にMD-PhDコースを開設し、4年次修了後に一旦休学して大学院に進学し、博士号を授与された後に5年次に復帰し、医学部を卒業して医師国家試験を受けるという選択肢を学生に与えた。さらに、臨床系教室から基礎系教室に積極的に大学院生を派遣する取り組みも始めている。 研究室配属 社会医学を除く基礎系科目をほぼ履修し終えた医学部3年次の6月から7月にかけての4週間、基礎系教室、生体防御医学研究所、一部の臨床系教室のいずれかで、すべての医学科学生が基礎医学研究に従事する。1教室当たりの受入学生数は3名ほどまでとし、責任を持って学生の指導に当たる体制をとっている。また、配属先はできるだけ学生の希望を叶えている。配属終了時には、期間中に行った研究の内容を口頭発表させることにより、学生の発表能力の向上にも努めている。希望する学生は、研究室配属後も夏休み期間中研究を続けることができるが、クラブ活動などのために、研究を続ける者は一部に限られているのは残念である。研究室配属は6年次の4月から5週間、もう一度実施される。 研究室配属に関するURL(過去2年間の学生の感想) http://www.mdc.med.kyushu-u.ac.jp/campuslife/detail.php?i=61&subc=0&c=1&s=0&k= http://www.mdc.med.kyushu-u.ac.jp/campuslife/detail.php?i=16&subc=0&c=1&s=0&k= 臨床系教室から基礎系大学院への派遣 九州大学医学部では従来、大学院進学者は臨床系であっても最初の2年間基礎系教室で研究を行うこととされ、それが基礎系教室の活力の源になっていた。基礎系教室で研究をするうちに基礎医学に興味を持つようになり、そのまま基礎医学を続ける者もいた。現在、大学で基礎医学の研究や教育に従事している本学出身者にはそのような経歴のものが少なからず存在する。しかし、20年ほど前にその制度は廃止され、その後は、臨床系教室から基礎系教室に大学院生として行く者の数は激減した。一つには、臨床系教室でも研究体制が整い必ずしも基礎系教室に行かなくても最新の研究ができやすくなったという事情もある。しかし、基礎医学の衰退が将来の医学研究や医学教育に及ぼす影響に鑑み、長い時間をかけた議論の末、臨床系教室は大学院生のうち1/3を基礎系教室に派遣することを努力目標とすることが合意された。現在、各臨床系教室はこの目標を達成するよう努めている。 MD-PhDコース 現在の卒後研修制度では、後期研修を含む臨床研修終了後に大学院に進むと年齢が高くなり研究に打ち込むことが困難になる。逆に、医学部卒業後、臨床研修を経ずにそのまま大学院に進学すると、将来臨床医学に進むことがやはり困難になる。これらの問題を解決する方法として、医学部在学中に博士号を取得できるMD-PhDコースは大変優れている。 九州大学のMD-PhDコースでは、学生は医学部の4年生を終えた時点で一旦休学し、大学院博士課程に進学する。先ず、本コースを希望する学生は4年次の秋に志望理由書を提出する。教務委員会で、学生のそれまでの学業成績や教授委員による面接の結果をもとに大学院受験を認めるか否かを審査する。認められると、他の受験生と一緒に大学院入学試験を受験し、合格すれば、一般の博士課程学生として取り扱われる。4年間受け入れ教室で研究を行い、学位を授与された後、医学部5年次に復学し残りの課程を修了して医学部を卒業する(MD-PhDコースを途中で辞めたくなった時は、次の4月から5年次に復学できることを保証している)。 開設初年である2007年に2名、2008年に1名、2010年に1名の合計4名の学生がこれまで本コースを選択した。2007年に本コースを選択した学生の一人は、3年間で博士課程を修了し(早期修了制度による)、2012年に医学部も卒業して、そのまま米国にポスドクとして留学し研究を続けている。特筆すべきことは、大学院課程を終えて既に医学部に復学した3名の学生はいずれも医学部の学業の合間を見つけて研究を続けた(続けている)ことである。このように成果は上がりつつあるが、期待したほど本コースを選択する学生が増えない。その理由の一つは、6年間の医学科課程に加えてさらに時間がかかり経済的な負担が大きいということであり、もう一つは、まだ本コースを選択した者の数が少なくてロール・モデルとなる先輩がいないため、多くの学生にとって本コースはなじみがないし、敷居も高いということである。 本コースを積極的にサポートするため、本学ではいくつかの奨学金制度を設け、なるべく経済的負担が減るように努めている。また、入学後機会をみて学生に本コースの制度、目的、内容を何度も説明し、周知に努めている。本コースを希望する学生は、低学年のうちから時間を見つけて自分が興味を持つ研究室に出入りして基礎研究を実際に体験しておくこと、またそれを通して将来の研究指導者となる教授としっかりした人間関係を築いておくことが重要であることを伝えている。3年次の研究室配属はいい機会なので、配属先で制度について説明をするようにしている。また、4年次には、さらに詳しい説明会を開催している。MD-PhDコースの魅力をいかに学生に伝えるかに腐心しているが、中々容易ではない。先ずは、本コース選択者が増えて学生の間で進路の選択肢の一つとして認識されるようになることが重要であると考えている。 MD-PhDコースの概要および本コースを修了した学生の意見・感想が下記URLに掲載されている。 九州大学医学部医学科ホームページMD-PhDコースURL http://www.mdc.med.kyushu-u.ac.jp/education/mdphd.html |