*第18回*  (H25.7.19 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は滋賀医科大学での取り組みについてご紹介します。

滋賀医科大学における研究医養成の取り組み
(文責:滋賀医科大学研究医養成検討ワーキンググループ代表・病理学講座教授 杉原 洋行 先生)

基礎系研究医不足の危機的な状況に対応するため、滋賀医科大学では平成23年度から研究医枠による入学定員の2名増員を行い、1、2年生を対象に、学部教育と平行する形で、入門研究医コースを進めてきた。さらに平成24年度には、それを発展させた「産学協働支援による学生主体の研究医養成」が文部科学省の研究医養成事業として選定された。運営は6名の基礎医学講座の教授と事務職員で構成されるワーキンググループが担当し、毎月運営会議を開いている。ここでは、本学の研究医コースの概要と特徴を述べ、これまでの取り組みの経過を報告したい。

現在の取り組みは、学部での課外活動としての研究に場を提供する入門および登録研究医コースと、3つの大学院プランから構成されている。

 


<学部での研究医コース>
まず学部では、研究サークル等、学生の主体的な探究活動をサポートしながら、入門研究医コースへの参加を5年生まで広く募り、研究活動の場を提供している。この中からテーマを持って研究したくなった学生は、資格審査を経て登録研究医コースに進み、分子医科学、病理学、法医学、公衆衛生学の4つのキャリアパスの異なる専攻を選択できるようにしている。

この学部での入門コースの特徴は、簡単な手続きで、第1から第5学年のいつからでも入門コースで活動を始めることができることで、入学直後に決めなくても、どこで研究に出会っても入り口があるというシステムである。入学定員増が始まった時には、定員の増えた第1学年を対象に、研究医を志望する学生に講座をローテートさせる特別カリキュラムも考えたが、実際にはそのような要望が少なく、現在の入門コースは、出入り自由としている。学生が研究と出会う場として、従来から第1学年に対して研究紹介の必修講義があったが、昨年度から、本学の基礎系研究室が総出で行なう体制となった。

また、この入門コースは、学生自身が主体的に活動する研究サークルの活動とも一部重なっているのも特徴である。本学の研究サークルは文化系クラブとして活動しており、新入生歓迎行事や研究室ツアー、輪読会等を企画している。彼らもこの事業からサポートを受け、特定の講座を間借りして活動している。

入門コースで助走をつけた後、テーマを持って研究に参加したくなった学生は、前期末(夏休み中)と後期末(春休み中)に行なわれる小論文と面接による資格審査を経て登録研究医コースに進み、講座・部門のメンバーとしてラボにデスクを持って研究を続けることができる。そのさい、分子医科学(解剖学、生化学、生理学、薬理学、微生物学、実験病理学等)、病理学、法医学、公衆衛生学の4つのキャリアパスの異なる専攻を選択できるようにした点が特徴である。(それぞれのカリキュラムはwebsite内に具体的に書かれている。)第二の特徴は学生の研究指導を本務とする特任助教を2名、昨年度採用し、彼らが学生の休暇期間中の技術実習の企画、放課後の学生の研究活動のサポートを担当している点である。また、登録コースでは大学院の講義の聴講も可能となった。本学では、あらかじめ聴講願いを出し、講義当日に講師から聴講証明のサインをもらい、大学院入学後に単位を申請するシステムである。

<大学院プラン>
この登録研究医コースに、3つの大学院プラン(A~C)が接続する。学部の研究医コースから大学院までシームレスに研究活動を発展させ、研究医をより短期間に養成することを目指している。登録コースから大学院に入学すると、研究期間が長い分、(4年かかるところを3年で)早期修了するための条件(論文の合計インパクトファクター6以上、あるいは6未満でも特に優れていると大学院委員会が認めた場合)を満たしやすくなる。

Aプランは第4学年修了後休学して大学院に入学、学位取得後第5学年に復学するPhD-MDコース、Bプランは(従来と同様)卒業直後に大学院に入学、Cプランは臨床研修2年目から社会人大学院に入学する。分子医科学専攻はAまたはBプラン、その他は、(専門医取得のためのキャリアが医師免許あるいは初期臨床研修後から起算されるために)Cプランを想定しているが、弾力的に運営する予定である。経済的サポートとしては、地元企業からの奨学金でAプランを、また本学独自の奨学金でBプランをサポートする体制を整えている。また、大学院修了後は、奨学金を受給した期間、特任助教のポストが準備されている。

<現況>
昨年10月から始まった事業初年度は、研究医養成コースの基盤の整備を目標として、まず、専任事務補佐員の雇用、研究紹介の必修授業化、学内規程の改定・制定、本事業のウェブサイトの立ち上げ、特任助教の選考を行ない、さらに入門コース、登録コースでの履修登録者(各専攻に1名以上、計7名)を予定通り確保できた。

特に、これまで希望者を対象に放課後行なっていた研究紹介のセミナーを必修授業化したことによって、各講座・部門の研究に関する情報が学生に行き渡り、入門コースの参加者の増加につながっている(現在14名)。また、コースに関する情報をウェブサイトに整理して公開したことで、この取り組みの進捗が分かりやすくなった。当初は入門コースへの学生の呼び込みを意識してページが作られていたが、特に学生がサイトの運営に参加したことで、twitter等を組み込むことができ、登録コースで実際に活動する学生にとって便利なページに進化しつつある。

登録コースでは学士編入の学生の割合が比較的高い。学士編入生に対しては、カリキュラム上、研究紹介の授業が組み込めないので、専門課程の開始とともに入学して来る彼らにとっては、専門課程の授業そのものが研究領域との出会いになっており、そこで研究情報をうまく授業に織り込むことが重要と考えられる。

登録コースでは、毎月研究についてのセミナーまたはミーティング(ミニ発表会)を行なっている。毎月顔を合わせることによって、コースの学生同士が互いに刺激し合う横のつながりを作ろうとしている。浜松医科大学、三重大学、京都大学との連携プログラムも一部動いており、複数の大学で研究医をめざす学生が交流できるリトリートの機会もある。指導教員に随行して国際学会や国内学会に行くなど、学生は講座の一員としての活動にも参加している。

昨年度末にはアンケートを行い、コースに参加している学生の意見を取りまとめた。その意見に基づいて、これまで希望者に対して放課後行なっていた研究医コースの説明会を、今年度は授業の中で、クラス全体に対して行ない、直後にアンケートも取って反応を見た。これまで行なっていなかった学士編入学生に対する説明会も予定している。アンケートでは、第4学年の自主研修での研究体験とこのコースをうまく連結させることができないかとの提案もあり、従来から行なっている取り組みを再編することで、新たな負担を学生に強いることのない方向が求められている。

今年度は、登録研究医コースの学生を対象としたセミナーの日程調整、アンケートの作成、集計などの事務作業が増加し、専任事務補佐員の協力なしには行なえないことを実感している。また技術指導における専任の特任助教の存在も大きい。これらを基盤にして、一人でも多くのパワーのある学生をいかに登録コースに呼び込み、コースとしていかにサポートし育て、いかに大学院に導いていくかという新たなステージが、今年度から始まっている。一方で、これまで連綿と受け継がれてきた研究医の系譜を途絶えさせないためには、新たな取り組みをするだけではなく、研究医である現在の教員自身が、学生の興味をひきつけるに十分なインパクトを常に自らの研究に保持しながら、それを普段の授業に織り込み、発信することも忘れてはならない。研究をがんばれば学生がついて来ると信じて。

 
第2回研究コースセミナーの参加者。講師の角谷先生を囲んで。

   滋賀医科大学研究医養成コース ウェブサイト:http://www.shiga-med.ac.jp/kenkyui/