*第19回*  (H25.9.19UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は神戸大学での取り組みについてご紹介します。

神戸大学における基礎医学研究医養成の取り組み
「基礎・臨床融合による基礎医学研究医の養成」
(文責:神戸大学医学部医学科長 中村 俊一 先生)

<課題>
 医学部に入学した学生のほとんどが臨床医を志して入学しており、そして基礎医学の重要性を聞いてはいても、その実態は知らず、自分とは縁遠いものと捉えている。研究の魅力を理解するには実際に研究室に出入りし、より多くの学生に実際に研究体験が出来る教育システムを導入する必要がある。また研究志向の学生であっても基礎研究者の道を選べば、比較的早い段階で実質的に臨床医の道が閉ざされてしまうと考え、将来に不安を感じるため取り敢えず臨床医の道を選び、そして研究もしようと考える学生がほとんどである。実際に神戸大学では多くの研究志向の学生は臨床に進み研究を行っている。更に本医学研究科の基礎系教員の中には、一度は臨床医の道に進み、研究も続けているうちに研究への魅力を感じ、基礎研究者への道に進路変更した人も少なからずいる。以上のことから、如何にして学部学生の時から基礎研究の魅力を体験できる教育環境を構築できるかが重要であり、更に基礎と臨床の垣根を取り払う制度設計が必要となる。

<神戸大学における基礎医学研究医養成取り組みの概要>
 本医学部はこれまでに高学年に於ける基礎配属実習をいち早く導入するなど、研究重視の教育を実施してきた。その結果、本学の卒業生から細胞内情報伝達やiPS細胞の分野で世界をリードする研究者を輩出した。しかしながら昨今の深刻な基礎研究医離れに対応するには、抜本的な制度改革を伴った教育システムの導入が喫緊の課題である。そこで本医学部では「基礎・臨床融合による基礎医学研究医の養成」を策定した。本事業の最大の特徴は医学部6年間の一貫教育「基礎医学研究医育成コース」を設け、卒業後「卒後臨床研修と基礎医学研究を一体化した大学院ダブルコース」、更に大学院卒業後に基礎分野での研究活動と臨床活動を合わせ行う「学術研究員」や「基礎臨床融合特命助教」として採用する学部・大学院・就職を一体化した三位一体改革にある。本事業を通して研究志向の医学生が将来に不安を感じること無く研究活動が開始でき、基礎医学研究医の持続的養成が期待できる。今後更に本コース履修生を対象に奨学金制度を新たに設け、継続的に支援を続ける予定である。

<学部及び大学院に於ける教育の特色>
 本医学部医学科では研究教育として、入学当初から学生に基礎系分野の教室に自由に出入りできる環境を作り、2年次に行われる基礎配属実習の後、研究に興味をもった学生のために選択科目の医学研究1,2,3を開講することにより、学年を追って段階的に学生達に基礎研究の指導を行ってきた。また、平成24年度より「基礎医学研究医育成コース」を設置し、これらの選択科目を履修する学生に、研究に必要な基本的実験手技や仮説を立て論理的に実証する科学的思考法を習得させ、さらに実験の結果得られた新たな知見を論文や学会で発表する技能を身につけるための教育支援を開始した。そして本コースを履修した学生で更に研究を続けたい学生には、卒業1年目は大学病院で卒後臨床研修を行い、2年目から大学院の基礎医学研究医育成特別コース(ダブルコース)に入学することを奨励する。入学後1年間は臨床研修を継続し、その後基礎講座に於いて研究を行う。大学院卒業後は基礎・臨床融合の学術研究員(ポスドク)や特命助教として基礎講座で研究を行いながら、大学病院での臨床業務も兼務できる職場を提供する。将来的には自己の適性を見極め、その職責に応じて基礎と臨床のバランスを調整してゆく。これらのコースを通して、より多くの基礎医学研究医の養成、輩出が期待出来る。

<本事業の達成目標>
 医学部に於ける研究促進過程の中で、基礎配属実習の中から1年間を通して実験コースを選択した者のうち、更に医学研究(1),(2),(3)を履修する学生10人程度の中から特に研究志向の強い学生2〜3名程度が、卒業後に基礎研究者育成特別コース(ダブルコース)に進学すると想定している。この際順調に事業が推移すると、事業開始後7年目から毎年3名程度のダブルコース卒業生が基礎・臨床融合の学術研究員(ポスドク)、その後経験により特命助教として継続的に基礎系の研究室に配属され基礎研究を担う一方、病院の臨床業務にも貢献する予定である。またこれまでにも臨床の分野で臨床業務と研究を続けてきた教員が、その後基礎研究者として所属を換え、活躍しているケースも多い事実から判断すると、本事業を推進し制度として基礎と臨床の垣根を取り払った教員を増やすことで、将来医学の発展を担う基礎医学研究者として持続的に養成することが可能である。

<キャリアパス構想>
 医学部でのシームレスな研究教育過程を履修した学生を対象に、医師国家試験を合格した後に卒後臨床研修を1年間受け、2年目から研究者育成特別コース(ダブルコース)に入学してもらい、更に卒後臨床研修をおこないつつ基礎医学系の研究室で基礎研究を行う。卒業後は学術研究員、更に特命助教として基礎・臨床融合教員として基礎医学系の研究室で研究活動を継続しつつ、大学病院での臨床活動も合わせ行う。最終的に自己の特性や興味の対象を見極め、職責等を勘案しつつ基礎研究と臨床活動のバランスを調整してゆく。本事業の特徴は学部学生から就職後も一貫して基礎・臨床の垣根を取り払った真のclinician scientistの養成であり、研究活動は基礎系講座の研究室で行う。本プログラムでは研究に対する自己の能力を見極めた上で将来的に最終進路を決断できるため、将来に不安を感ずること無く研究への第一歩を進むことができる。

 


平成24年11月17日〜18日 
基礎医学研究医育成コース履修生を対象に行われた淡路島におけるリトリート研修