*第2回*  (H23.12.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は北海道大学での取り組みについてご紹介します。

北海道大学医学部研究医養成の取り組み
  -MD-PhDコースとCLARCコース-
       
(文責:北海道大学大学院医学研究科教務委員長 三輪 聡一 先生)
【MD-PhDコース】 
1.経緯及び趣旨

  次代の医学研究および医学教育,特に基礎医学研究・教育を支える人材を育成することは,我が国の科学立国という国家戦略上はもとより,北海道大学医学研究科・医学部にとっても喫緊かつ最重要課題であると考えています。

  特に,卒後臨床研修の必修化により,学部卒業後直接大学院に進学するものは,皆無となっており,その将来には危機感を感じるものとなっています。

  昨今の医師不足・偏在への対応としての臨床医に対する様々な経済的かつ教育的措置は実施され始めましたが,医学全体を支える基礎医学研究者に対するプログラムについては,これまで一部の大学でMD-PhDコースとして制度上導入がなされていたにすぎません。しかし,その効果は期待した程度には至っておらず,医学部卒業生の基礎医学研究離れに歯止めがかからない状態となっています。その理由の一つとして,MD-PhDコースでは退学や休学など学籍の移動を複数回ともなうコース設定や一度大学院に進学しても医師国家試験受験資格を得るためには再度医学部にもどらなければならないなど,学位(博士)を取得しても,複雑な身分変更を経なければ,医師である研究者という立場で研究できず,非常に不安定な身分の時期を何年も送ることになることが挙げられております。さらに,有給の卒後臨床研修後に基礎系大学院に進学するとしても,経済的な支援が得られるかどうか不透明であり,生活レベルの低下を余儀なくされての修学は難しいと言わざるを得ません。すなわち、これらの見えないバリアが進学へのインセンティブを大きく低下させていると考えられます。

また,近年参加型臨床実習が導入され,医療行為等,医療に参加する経験をより多く持てる機会が増えたのにもかかわらず,そこを後回しにし,直接博士課程に進学する設計のコース設定では,上記のような医療経験を経た基礎医学研究者が相対的に減ることになり,医学科出身者であるメリットは著しく低下することとなり,加えて他大学医学部と比較した場合の利点・長所がなくなってしまいます。

  そこで,北海道大学医学部医学科では,基礎医学研究を志向する医学部学生に対し,早期に研究の機会及び経済的な支援を担保した大学院教育の場を与えると共に,医師国家試験の受験機会も同期入学の学生と同等に与えるシステムを導入することとしました。さらに,博士の学位取得後の進路として,大学院在籍中に優秀な研究業績を上げた者に対して3年任期付き特任助教のポストを用意し,研究者として自立可能かどうかの判断期間を設定し,いわゆる「再チャレンジ」の機会の可能性を保障しました。したがって学位取得後の臨床研修への道を閉ざすものでもありません。

このようなシステムで医学・医療の急速な進歩と昨今のめまぐるしい社会情勢の変化等に対応できる若手研究者に,医師としての身分を順調に得る機会を補償することにより,次代を担う医師研究者を養成することが可能となると考えています。


2.コース設定(概要)

  制度上は,医学部医学科に6年間在籍し,卒業後直接大学院に進学することになりますが,実際には,医学部5年次秋に選抜試験(大学院入試相当)を実施して,コース進学者を選抜します。コース進学者は、6年次において,医学研究科開講の大学院の授業科目を履修し,大学院の単位を先行して修得することが可能となります。併せて,指導教員を配置し,論文及び研究指導等を行うこととします。実際の大学院への進学については,このコース在籍者を対象とした特別選抜試験を6年次秋に実施し,医学科卒業後の4月に入学することとなります。

したがって,「医学科」「医学研究科」ともに,受けるカリキュラム自体は一般の学生と同じであり,時間的マージンから大学院の在籍期間は卒業後3年間の短縮修了を推奨しています。

なお,経済的支援策として,コース在籍者には大学院の入学料及び授業料相当額を奨学金として,医学部6年次(所属分野への指導経費として支給)および大学院在籍3年間(卒業後3年間)の計4年分を実質的に支給しています。


MD-PhDコース在籍者(平成23年度)

 博士課程    2年次 2名

 博士課程    1年次 2名

 医学部医学科  6年次 1名

 医学部医学科  5年次 2名

 

参加講座・分野

 生化学講座(分子生物学分野,医化学分野)

 解剖学講座(解剖発生学分野,組織細胞学分野)

 生理学講座(時間生理学分野,認知行動学分野)

 薬理学講座(神経薬理学分野,細胞薬理学分野)

 病理学講座(分子病理学分野,分子細胞病理学分野)

 微生物学講座(免疫学分野,病原微生物学分野)

 予防医学講座(環境医学分野,公衆衛生学分野,国際保健医学分野)

 社会医療管理学講座(法医学分野)

 先端医学講座(神経生物学分野)

 

3.問題点

本コース修了者は、将来の日本の医学の研究・教育を支える貴重な人材であるので、一定程度の基準をクリアした修了者すべてに対して、任期付き特任助教のポストを用意すべきであると考えていますが、残念ながら財源が不足しているため困難な状況にあります。国の将来を支える人材育成であることを考えた場合,国がこの方面への手厚い財政的支援を行うべきであると考えます。

 

 

 【CLARCコース】

1.経緯

  北海道大学大学院医学研究科では,基礎医学研究者を育成する,プログラムの一環として,卒後臨床研修と大学院博士課程の教育を同時に受けられるコース(CLARCコース;Clinic And Research Combination)の導入を平成25年度から計画しています。基礎医学研究を志望しているが,卒後臨床研修は医学部卒業時に修了したい学生,臨床系寄りの基礎研究を志望している学生,基礎系寄りの臨床研究を志望している学生など,様々な学生のニーズを満たすため,臨床研修後の夜間又は土曜・日曜に大学院教育を受けるコースとしています。

  卒後臨床研修と大学院教育をシームレスに接続し,研究者としてのキャリアを早期に開始できる自由度の高いコースとしています。

 

2.コース設定(概要)

卒後臨床研修2年目に北海道大学病院で卒後臨床研修を受ける学生向けのプログラムです。卒後臨床研修2年目に大学院博士課程に入学し,指導教員は基本的に卒後臨床研修2年目に自由選択した診療科の教授とします。臨床研修後に研修に支障がない範囲で,夜間に開講される講義を受講するとともに,指導教員から研究指導を受けることで学修を進めていきます。

 

3.特色と問題点

卒後臨床研修2年目と大学院1年目が重なることになるため、早期に大学院を修了して、臨床後期研修に移行できるのが特色です。他方、臨床研修も大学院での研究活動も中途半端になる可能性が否定できません。また,卒後臨床研修2年目での研修受け入れ先の指導医や他の研修医に制度を理解してもらえるのかという問題点もあります。最後に,研修医が大学院講義を履修することができるように,講義の夜間又は土曜・日曜の開講やe-ラーニングなどのシステムを今後構築していかなければならず,教員の負担が増えることになるのも問題点です。

医学部医学科案内:http://www.med.hokudai.ac.jp/ko-ho/brochures/pdf/igakuka_annai2011.pdf
大学院医学研究科博士課程案内:
          http://www.med.hokudai.ac.jp/ko-ho/brochures/pdf/hakushi_annai2011-2012.pdf