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今回は順天堂大学での取り組みについてご紹介します。

順天堂大学における基礎研究医養成の取り組み
『基礎研究医養成のための順天堂型教育改革』
(文責 : 順天堂大学基礎研究医養成プログラム運営委員長/細胞・分子薬理学教授 櫻井 隆 先生)

はじめに
 本学では、以前より基礎系大学院を修了した医学部卒業生を講座の助教として任用することで基礎医学教育・研究に携わる医師の育成を図ってきた。平成22年度研究医枠による医学部定員増に当たり「基礎医学研究者養成プラン」を策定し、特別カリキュラム等により基礎医学系大学院進学希望者をサポートするとともに、希望者には医学部4年次から大学院修了まで月10万円の奨学金貸与を開始した。同時に奨学金受給と同年数助教として勤務すれば奨学金の返済を免除する制度を導入している。奨学金を受給する医学部生が現れ、サポートを行ってきたが、主に3年次の基礎ゼミナール(基礎研究室配属)において受講者を選抜する制度であったため、研究開始が遅くなるとともに、将来に対する不安のために参加を躊躇する学生が多いという問題点があった。

 平成24年度文部科学省「基礎・臨床を両輪とした医学教育改革によるグローバルな医師養成」事業(A)「医学・医療の高度化の基盤を担う基礎研究医の養成」への申請に当たり、それまでの経験を生かし、『基礎研究医養成のための順天堂型教育改革』として以下に記載する学部・大学院をシームレスにつなぐ3ステップ構成の2つの特別教育コースを設置した。事業採択により「基礎研究医養成プログラム」へ移行し、新たな取り組みがスタートした。


プログラム概要と特徴
 医学部入学直後からのキャリアパス教育に加えて、1年次に研究のモチベーション向上・研究の基本スキル習得を目的とした授業を開始する。新教育コースとキャリア支援制度の拡充により将来に対する不安を軽減し、多くの学生の参加により基礎研究医養成の裾野を広げることを第一段階の目標とした。本学では文部科学省の助成により多くの研究センターが設立され、基礎・臨床の教室が参加した基礎臨床融合研究の環境が整備されている。このような特長を生かして多様な興味を持つ学生の参加を促すため、基礎研究と初期臨床研修の経験をもとに基礎臨床融合研究成果の臨床への橋渡しを推進する研究医の養成(Bコース)を新設した。「基礎医学研究者養成プラン」で目指していた国際的研究レベルを持つ基礎医学研究者の育成(Aコース)とともに修了後のポストの保証や奨学金返済免除職の拡大により、多様なキャリア形成を支援するプログラムとなっている。

   基礎研究医養成プログラムの概要
   

教育コースの特徴 
◆ステップ1(所属教室決定まで) 
  1) 研究に対するモチベーション・スキルを高める教育プログラム 
   医学部1年次に研究の重要性を理解し、キャリアパスを考える全学生必修の授業と研究の基本的スキル習得・モチベーション向上を目的とした選択授業を行っている。学内外の研究者による授業と合わせ、論文読解、研究倫理等を学ぶ。
  2) 基礎医学系ラボローテーション 
   プログラム登録した1年生向けのラボ見学、2・3年生を対象とした基礎系教室研究紹介ポスターセッション・オープンラボを開催し、早期の研究開始へ誘導している。複数の研究室を体験するラボローテーションを勧めており、専任チューターがサポートしている。 
◆ステップ2(研究・大学院講義受講開始から医学部卒業まで)  
  1) 基礎系教室における研究指導 
   所属教室における研究、学会発表等についてはポートフォリオシステムに記録していく。進捗状況確認を兼ねた研究発表を行いつつ学会発表、論文作成を目指す。国内・国際学会発表、海外短期研究留学の旅費補助、英語・プレゼンテーション指導を行う。国内外の著名研究者を招いたシンポジウム・セミナーに参加する。 
  2) 大学院コースワークの受講と単位認定 
   昼休み等に専任チューターとともに大学院集中講義の動画を視聴し、チューターが追加説明と理解度確認を行う。大学院10単位分の認定をステップ2修了要件とし、面接及び語学試験等の総合評価により大学院入学を認める。 
◆ステップ3(基礎系大学院入学以降)  
  1) 新教育コースの設置 
   ステップ2における大学院単位取得により生じた時間的余裕を利用して、海外留学(Aコース)または初期臨床研修(Bコース)を行う。 
  Aコース  留学を積極的に行い、国際的な研究レベルを目指す。ティーチングアシスタント(TA)採用により基礎医学の教育経験を積む。 
  Bコース  大学院入学と同時に初期臨床研修を開始する。研究テーマと関連した臨床科の教員をサブメンターとする。研修中も土日等を利用して研究準備を行う。研修修了後は、奨学金または研究センターのリサーチアシスタント(RA)採用により経済的援助を受ける。 
  2) 研究医としてのキャリア支援システムの強化 
   修了後の助教・特任助教採用、奨学金返済免除制度に加え、私学の利点を生かした柔軟な人事により、キャリア形成を支援する。 
  Aコース  修了後、所属基礎系教室の助教として採用し、留学等により基礎医学研究者・教員として国際的な研究レベルを目指す。 
  Bコース  修了後、研究を継続する場合には特任助教として採用する。特任助教以外に、他機関で橋渡し研究等に従事した場合、臨床・研究の経験を生かして官公庁等で医療行政に関わる業務に従事した場合も、奨学金返済免除の条件と認める。優秀な研究・教育成果をあげた場合には、基礎系教室の助教として採用する。 

支援体制の特徴  
  1) 2年次以上の医学部学生が学ぶ本郷キャンパスに基礎研究医養成プログラム登録学生のための専用スペースを開設している。専用のテレビ会議システムにより1年生が全寮制で学ぶさくらキャンパスとの間で随時ミーティングやセミナー中継等を行うことができる。登録学生の指導は基礎医学系教員、専任のチューター・事務員からなる基礎研究医養成プログラム室が行っている。 
  2) 基礎・臨床系教員からなるキャリア支援相談室を設置し、個々の学生の要望に柔軟に対応している。 
  3) 基礎研究医養成プログラムポートフォリオシステムを導入している。日々の研究関連活動記録に利用するとともに、情報共有、連絡・相談が可能な環境にある。 
  4) 専用ホームページ(http://www.juntendo.ac.jp/kenkyui/index.html)を開設するとともに、パンフレットやニュースレターを作成し、学生だけでなくオープンキャンパスにおいて受験生・保護者にも配布し、活動等を広報している。 

現状と課題
 文部科学省事業採択により、基礎研究医養成の取り組みが教員、学生に浸透しつつある。特に初期臨床研修と大学院の並行が可能なBコースの新設により、多くの学生がプログラムに参加している。第一段階の目標であった研究医養成の裾野を広げるという点では一定の成果が得られている。
 今後は基礎系教室における研究の推進・レベルの向上と指導体制の整備が課題である。現在年数名は国内、国際学会発表を行っており、優秀賞を獲得する学生も現れているが、研究室は限られている。参加学生による研究発表会は大きな刺激となっているため、同様の取り組みを行っている他大学と共同の研究発表会に発展させていく予定である。また、平成25年度の韓国への短期研究留学に続き、平成26年度には米国への短期研究留学を計画している。学生が興味に応じた研究を行うのは当然という環境を整備しつつ、研究発表、短期留学で刺激を受けた学生が核となった学生主体の活動の開始と研究の拡大を次の目標としている。
 平成26年度、プログラム登録学生として初めての卒業生がBコースを選択し、基礎系大学院に入学した。外部評価委員会の提言を受け、より柔軟に学生の要望に応えられるプログラムを目指してAコース-Bコース間の移行を可能にするなどのプログラム改革を現在進めている。多くの意欲ある学生が、基礎研究医養成プログラムを活用して新たな道を切り開き、研究医として活躍することを願っている。