*第26回*  (H26.12.15 UP) 前回までの掲載はこちらから
研究医養成情報コーナートップページへ戻る
今回は信州大学での取り組みについてご紹介します。

信州大学における基礎研究医養成の取組み
文責 :  信州大学医学部医学教育センター 講師 森 淳一郎 先生

目的
 他学同様、本学においても基礎医学系研究室を希望する学生は減少傾向にある。本学では、この原因を以下のように分析した。
入学時にある医学研究に対する憧憬を、医学部在籍中に徐々に失ってしまう。
基礎研究者との接点が低学年時に限られており、さらにユニークな研究を推進している大学院専任教授と医学部生との接点が少ない。
卒後臨床研修時期が医師国家試験の直後に固定されているため、本来は自由であるべきキャリア構築のためのライフプランにおいて、「ギャップターム」をはさむという発想が難しい。
現行の学部カリキュラムでは3年次に「自主研究演習(基礎配属)」を必修としているが、その直後から臨床医学教育がスタートするため醸成されつつあった基礎研究志向が往々にして失われてしまう。
基礎研究医志向の医学部生を募る仕組みが不十分である。
 この解析結果をもとに、基礎医学を希望する学生の減少傾向に歯止めをかけるためには、早期から基礎研究の面白さを知り、医学部在籍中からより長期に渡り基礎医学研究に触れる学生の人数を増やすためのシステムが必要であると考えた。そこで、本学では平成26年度から、早期から基礎研究の面白さに触れさせ大学院進学へと医学生を誘導することを目的とするeMEDプログラムを開始した。


eMEDプログラムの特徴
 eMEDプログラムは、医学部に在籍する学生が社会人大学院生向けの授業を履修することを可能にするとともに実験指導を行い、卒業後に本学大学院へ進学した際には、早期(~3年)の学位取得を可能にする制度である。本プログラムを希望した学生が自分の志向に合わせた最適なキャリアを構築できるように、卒後臨床研修は、その時期を、大学院課程前、後、および同時進行から選択することが可能になっており、意欲ある学生が、基礎研究を中断することなく研究を続けることが可能になっている。大学院課程と卒後臨床研修を同時に行う場合には、学生の所属する基礎医学教室と卒後臨床研修医として配属されている臨床教室との連携が大切となるが、本学附属病院卒後臨床研修センターの協力があったことで、この制度が実現可能となった。
 本プログラムに参加を希望する学生は、基礎医学研究室と相談の上、当該教室長の推薦を得る必要がある。プログラム参加後は当該教室において実験指導を受けることになるが、所属する教室の変更も認めていることから、大学院進学時までに熟考し、より自らの要望に合致した学問分野を自由に選択することが可能になっている。なお、各教室長にはその学生の熱意や成績等を勘案して、推薦するようお願いしている。
 本プログラムにおける学生のインセンティブは、基礎医学研究者との接点を学部の全学年を通じて得られ、学問として面白さに触れる機会が増えることにある。また、より直接的なインセンティブとして、早期学位取得の基準が他の大学院生より引き下げられており、早期学位取得が容易になっている点にある。なお、本プログラムにおいて取得した大学院の単位は、他学においても既修得単位として申請することが可能になっている。
 開始初年度となる本年は、5人の学生が3年次の「自主研究演習(基礎配属)」に合わせて本プログラムに参加した。

今後の課題
 eMEDプログラム開始初年度ということもあり、本年度は5人の学生が本プログラムに参加した。来年度以降も数名程度の参加をめざし、学部1年次生に対し基礎医学教室訪問の機会を創設する等、より本プログラムに参加しやすい土壌を作っているところである。一方で、初年度であるがゆえ、学生の継続率や本学大学院への進級割合、どの程度の科学的成果が出るかは不明である。学生が継続して本プログラムに参加し、一定の科学的成果を上げるためには、学生と定期的に懇談し、学生の履修状況や進捗状況を把握し、必要に応じてアドバイスを与えていく必要がある。また各大学における同様のコースの良い点、悪い点などを参考に常にプログラムの見直しや制度再設計を考える必要がある。本プログラムから素晴らしい成果を上げ、以後の学生のロールモデルとなり得るような卒業生が現れることを期待している。