*第29回* (H27.6.2 UP) | 前回までの掲載はこちらから |
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今回は三重大学での取り組みについてご紹介します。 |
三重大学医学部における研究医養成の取り組み | ||||||
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研究医の減少は医学界にとって深刻な問題である。分野を絞った国家的プロジェクトによる研究推進も重要な戦略であるが、研究の多様性が失われては科学の未来は暗い。マンパワーと研究費が偏在する中、地方大学から発信される研究は独創性こそが命であり、実はそれこそが研究の醍醐味であろう。本学には1学年125名中35名の地域枠があるが、枠に係わらず全員が1、2年次に地域実習を現地体験する。早くから医療の現場を知ることは、研究志望の学生にとっても視野の拡大に繋がる。地域医療への貢献と(基礎)医学研究医の養成はどちらも本学の重要課題であり、学生は様々な可能性を模索しながら、自分に最適の道を探す。本学では研究医養成を念頭においた、研究室研修(必修)と新医学専攻(選択)という2種類のプログラムがあり、両者に関して紹介したい。 研究室研修 医学科では1学年125名の全学生が3年生の夏休み明けから4年生にかけて約10ヶ月間、研究を行う研究室研修があり、基礎、臨床のいずれかの研究室に配属され、研究活動を体験する。配属先は原則、学生の希望によって決まるが、人数調整は適宜行われる。配属が決まると、まず、学生は自分で研究のプロポーザル文書を作成・提出し、学内の指定教員による査読を受ける。作成する文書は英語が推薦されており、約半数の学生は英語で作成した文書を提出する。審査に合格すると、研究が開始される。プロポーザルの作成は科学的・論理的思考力を養うためのもので、学生には予め、プロポーザル作成のためのノウハウに関する全体講義が行われる。これによって、将来の論文執筆やグラント申請を原体験するという目的も兼ねている。余談であるが英語に関しては、研究医のみならず、国際化社会における必須アイテムにて、学生が英語に慣れる試みをいくつか行っている。具体的には、学外から研究者を招いて、学部学生向けに英語によるセミナーを必修講義の枠内で適宜開催し、英語による質疑の練習も行う。また、必修講義以外でも、海外の研究者によるスカイプを用いた対話形式の英語のセミナーが適宜開催され、学部学生も積極的に参加している。軽食を摂りながら、海外の演者とサイバースペース上でのface to face対話が可能で、参加学生には度胸がつく、と好評である。また、本学では卒業までに約半数の学生が海外臨床実習を体験するが、目的が研究ではなくとも海外体験は研究者として生きていく上で大いに役立つと思われる。 10ヶ月間の研究室研修期間の最後に研究成果の全体発表会があり、全員が口頭発表(タイトルと謝辞以外で、スライド5枚)を行う。約半数は英語での発表・質疑応答が行われる。さながら、模擬学会であり、多くの学生にとっては大勢の前での人生初のプレゼン体験となる。全ての発表に対して教員と学生による評価が行われ、優秀発表賞や優秀質問賞の受賞者には図書券が進呈される。1年弱の研究にて、本格的な研究とは言い難いが、自ら実験計画書を作成し、実験し、口頭発表も行い、レポートを提出するという一連の流れを体験することによって研究とはどういうものか、を肌で感じてもらい、リサーチマインドを養うことが目的である。研究室研修で研究の醍醐味を味わい、そのまま配属先の研究室に所属(新医学専攻による)し、研究を続ける学生も少なからず存在する。また、年によっては研究室研修が終了した夏休みに、希望者(選抜有り)を募っての海外提携大学への3週間ほどの研修旅行も実施されている。その際、研究室研修での研究成果を英語で発表してもらっている。以上のプログラムはハーバード大学でのPIの経験がある島岡要教授が中心となって担当、オーガナイズされている。研究室研修期間中、系統講義はなく、週2回、1回90分のチュートリアル(少人数に分かれて臨床症例を討論する)の時間と日によっては数コマのチュートリアル関連講義があるくらいで、他の時間、学生は研究に専念できる。 新医学専攻 1年生から6年生まで最大6年間、自分の希望する研究室に任意の期間、所属し、必修カリキュラムの合間に自由に研究するもので、卒業時に成果に応じて指導教員より単位認定の可否判定がなされ、合格すれば、選択科目として1単位の取得が認められる。しいて言えば他大学のMD-PhDコースに相当するプログラムであるが、まだ発展途上とも言える。 新入生はオリエンテーションでこのプログラムの説明を受ける。研究に興味がある学生は毎年10-20名存在するが、彼らに第一歩を踏み出してもらうための、特定の研究室への通行証を与える、といった意味合いがある。医師免許の取得が遅れる、カリキュラムが他の学生と異なる、といった不安を感ぜずに、低い敷居で自由に研究室に出入りし、実地体験することによって、研究の面白さを感じてもらうのが狙いである。いくつかの研究室を渡り歩く、というパターンも散見されるが、それもよし、というスタンスである。学外病院での臨床実習期間を除けば、医学生にはかなりの時間があるので、その気になれば、筆頭著者で論文を書くことも可能である。少なくとも、全国規模の学会の一般枠で優秀賞を受賞する学生がでてきている。筆者が学生の頃は毎年1人くらい、J Biol Chemなどに筆頭著者で論文を出す学生が存在したが、現在は要求される実験の質・量、医学生として学ぶべき知識の量が昔とは比較にならず、学部学生が質の高い筆頭著者論文を出すのは大変な時代である。しかし、本プログラムの目的は論文執筆ではなく、研究医、リサーチマインドの養成である。各学年から1人でもよいので本物の研究者が輩出され、将来の基礎医学の発展に貢献してくれることを願っている。当プログラムの現在の登録者は6学年合わせて50名である。活動度は学生により様々である。 私の研究室でもほぼ毎日来て実験し、約7ヶ月の修行の後、指導者の手を離れ、ひとりでテーマを持って実験を行っている1年生もいれば、1年生から研究を始めたものの、途中から救急医学に目覚め、研究室研修(通常、新医学専攻と同じラボで行われる)期間の終了を機にラボを去った学生もいる。後者の学生には後日談がある。とある店で酒に酔った中年男性が階段から転落し、心肺停止に陥った場に偶然遭遇した彼は、即座に適切な処置を行い、学部生ながら見事に救命したのである。医学生の選択肢は多様であり、彼が将来また基礎研究の場に戻ってくる可能性も十分ある。 リトリート 名古屋大学の方々に多大なご尽力をいただいている東海地区リトリートには本学から毎年多くの学生が参加し、刺激を受けている。他大学の学生や教員と語り明かし、情報交換をすることは、モチベーションの向上にも大いに役立っているようである。全国リトリートにも積極的に参加している。 今後の課題 出来るだけ早く本格的な研究をしたい学生にとっては、一部の大学で行われているMD-PhDコースは魅力的であろう。本学で早い学位の取得を望むならば、初期研修なしで直接大学院に入学し、3年間で早期修了すればよいのであるが、その度胸と覚悟のある学生は稀有である。岡山大学で始められたARTプログラムはその問題を解消できる。本学においても新医学専攻を基盤にした新たなプログラムを構築することは今後の検討課題であろう。 参考URL |