*第30回* (H27.8.3 UP) | 前回までの掲載はこちらから |
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今回は琉球大学での取り組みについてご紹介します。 |
琉球大学医学部医学科における研究医養成の取組み | ||||||
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1.琉球大学の現状 琉球大学医学部において、積極的に研究活動に従事する“研究医”は非常に少ない。特に、20近い基礎医学系講座にあって、“MD”すなわち医学部医学科出身の准教授・助教は10名に満たない。しかも、そのほとんどは40歳以上である。さらに、将来研究医として期待される医学部医学科出身で大学院博士課程に在籍する大学院生も減少しており、博士取得後も研究を継続する意志のある博士課程学生は非常に少ない。琉球大学医学部において、研究は柱の一つである。医学教育を受け、医師としての資質を身につけた研究者が不足することは、憂慮すべき問題点である。これらの原因として、初期研修の必修化を中心とする臨床研修制度の改訂、学位より専門医を志向するトレンド、基礎医学系講座教員ポストの不足、日本の端に位置する沖縄の地理的な問題などが考えられる。しかしながら、研究医不足は全国的な問題であり、上記の理由も、地理的な問題を除けば、全国の大学に共通する課題である。そこで、我々は、発想を転換し、琉球大学独自の医学教育カリキュラムを作成し、6年間の教育の中で研究者マインドを涵養することによって、研究医を増やす取り組みを行うこととした(ポンチ絵)。 2.医学教育カリキュラムの中で研究者マインドを涵養 そもそも、医学部医学科に進学する学生は、生物学、人体の科学への興味を持ち合わせている。たとえば、癌の発生メカニズム、アルツハイマー病克服への治療法の開発、再生医療の可能性など。その熱い気持ちを学部教育においても一貫して維持・増幅させることを考えた。まず、①早期の研究室への配属を推奨し、多くの講座で受け入れを可能にしている。そして、カリキュラムの中に②長期間(3~4か月)の研究室配属、③卒業前選択実習での基礎講座のローテーション(1か月)、を組み込んでいる。さらに、4年次(基礎医学系、臨床医学系の座学が全て)終了後、大学院に入るMD-PhDコースも設けている。以下、各項目について詳細を説明する。 ①研究室への勧誘 入学オリエンテーションの中で、全新入生に向けて、興味を持った講座・研究室への出入りを推奨している。また、1年次学生対象の医学概論A及び医学概論Bで、基礎医学系講座、臨床医学系講座の教員(主として教授)が、それぞれの分野での先端的取り組みについてわかりやすく解説するとともに、各講座の研究内容や成果を紹介し、研究室への出入りを勧誘している。さらに、平成26年度から、キャリア教育の講義をスタートし、その中で、研究の魅力について医学部長以下、各方面で活躍する講師陣が実体験を交えて語り、研究に対するモチベーションの向上に努めている。 現在、医学科の学生が出入りしているのが5~10講座程度である。のべ20人程度の学生が研究室に出入りし、実験している。全国学会、地方会で筆頭演者として発表したり、研究室発表の論文の共著者になったりして、研究成果が形となっている。しかしながら、低学年では積極的に研究を行うが、学年が進行するにしたがって頻度が減少する傾向がある。また、クラブなどの課外活動に忙殺される場合も多く、卒業まで継続できる場合が少ないのが現実である。臨床実習、初期研修の壁を越えて将来につながるかどうか、直ぐには成果が現れないかも知れないが、少しでも多くの研究者としての医師が輩出されることを期待して取り組みを継続している。 ②長期の研究室配属 これまで、基礎研究への関心を高めることを目的として、3週間の基礎医学系講座配属を行ってきた。しかしながら、3週間では、実行可能な研究の内容が限られ、講座との関係が構築できるまでには至らない。長きにわたってこの問題点が指摘され、学生側、教員側双方で不満の残る内容であった。そこで、カリキュラムを大幅に見直し、平成28年度より、4年次学生を5月~7月の3か月間(夏休みを入れると4ヶ月間)臨床・基礎を問わず研究室に長期配属し、本格的な研究活動を可能にした。合わせて、一定の基準(語学能力と目的意識)を満たした学生には、国内外の研究室を紹介し、そこでの研究も許可する予定である。配属終了後、9月に学内発表会を行い、優秀な成果をあげた学生を表彰する予定である。具体的な実施方法、特に、海外の研究室への派遣方法、単位認定などの制度整備については、現在検討中である。学生と講座とのつながりを強め、研究への興味を広げる効果を期待している。また、世界最先端の研究に触れて、研究者への道に進む学生が増えて欲しいと願っている。 ③選択実習 琉球大学では、現在、68週間の臨床実習(40週間のポリクリと28週間のクリニカル・クラークシップ)を行っている。(現在の3年次学生からは72週間の予定である。)その最後の2クール(1クール4週間)は選択実習とし、もう一度回りたい診療科、離島診療所などとともに、基礎医学系講座での実習を推奨している。30名程度が、法医学・病理学を中心に生理学、解剖学、免疫学などの基礎医学系講座で実習を行っている。卒業後は、2年間の初期臨床実習が必修化されているために、その前に研究に触れたいと考えて選択する学生が多く、貴重な機会となっている。 ④MD―PhDコース 特に強い基礎研究への意欲がある学生に対して、4年次終了後(CBT,OSCE終了後)大学院に進学するコースを設置している。大学院進学後は、基本的には授業料を免除し、4年間(早期終了なら3年間)研究に従事し、学位取得後に、5年次に復学し、医師免許取得を目指す。本人が強く希望する場合には、そのまま、ポスドクなどに進む事も可能にしている。また、医師免許取得後の進路に関しては、特別な縛りは設けていない。 このようなコース設定にしているが、これまで、少なくとも2名の学生が希望し、1名は入学した(のこり1名は受験のみ)が、博士課程を修了した学生はいない。今後、基礎医学系講座に出入りしている学生に対して積極的に勧誘していくとともに、初期研修終了後の進路に関して、大学として手当てしていくなどの方策も検討する必要があると考えている。 学位取得者の増加をめざして、初期研修プログラムの2年間にも、少しずつ研究を出来る(研究期間にカウントする)環境を整備し、初期研修終了後2年程度で学位が取得出来るプログラム(岡山大学などで先行実施)の導入を検討している。 琉球大学において、研究医不足は深刻な問題である。研究室入学後の丁寧な研究指導、教員ポストの問題などと並行して、改訂カリキュラムの有効な実行を目指してこれからも行う予定である。 |