*第45回*  (H30.4.27 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は宮崎大学での取り組みについてご紹介します。

宮崎大学医学部 医学研究者育成コースについて
文責 : 宮崎大学医学部機能生化学分野・教授 西頭 英起 先生
コース設立の経緯
 宮崎大学医学部は、昭和49年の開学(前身の宮崎医科大学)当初より、基礎研究への意識が高く、とくに生理活性ペプチドや成人T細胞白血病(ATL)の分野では、多くの分子が同定・機能解析されてきた。最近では、臨床応用研究へと発展しており、大学全体として特色ある医学研究への推進が取り組まれている。当大学医学部医学科に入学する学生には、生命科学研究へのモチベーションが高い者も多く、彼らの潜在的能力を活かす“場”を提供する必要性を多くの教員が認識していた。そこで、教務委員会およびその下部組織である医学研究者育成コースワーキンググループ(WG)のもと準備が進められ、平成25年度より、医学研究者育成コースが開設された。

コース設立の趣旨
 現在の医学生は、学部4年後期(宮崎大学)から始まる臨床実習、国家試験、その後2年間の卒後臨床研修と、その時間的制約と必要とされる学習量は相当なものである。さらに、後期臨床研修を修了する頃には、現役で入学した学生でも30歳頃になっており、まさにこれから臨床医としての技能を高めようという時期に、かつて興味を持っていた「研究」という言葉は頭の片隅からも消えてしまっているのが現状であろう。従って、たとえ学部在籍当時に研究する意欲があったとしても、その現場に触れることのなかった者にとっては、研究者として第一歩を踏み出すことは相当にハードルが高く、その困難さは容易に想像できる。しかし、比較的時間の余裕と将来への希望の幅が広い、学部1〜3年の間に学生が“未知の空間”である研究室に出入りして、場合によってはピペットマンを持って実験をしたり、あるいはパソコンで遺伝子解析する機会が得られれば、たとえそれが論文になるような大きな成果ではなかったとしても、将来臨床医として活躍してからでも、研究医あるいは研究者という選択肢があることを思い起こさせるに違いない。このような観点から、本コースは、あくまでも学生自身の「研究したい」モチベーションを最大限発揮できる環境を提供し、研究室に出入りするハードルを下げることを主たる目的としたプログラムであり、自由な研究環境と最大限のサポートシステムを用意することとしている。

コースの概要
 上記の趣旨から、本コースは有益無害な研究指導体制を整えることに最大限注力している。すなわち、既存の医学教育カリキュラムを障害することの無いよう、研究に関して一切の義務を課していない。学生は、1〜3年の間に興味のある研究室に所属することを学生支援課に伝えることで、WGはその情報をもとに、学生と研究室間の研究活動を支援することが可能となる。しかしWGは、学生の研究そのものに関与することは一切ない。しかし一方で、学生側からすると、イメージしていた研究内容と実際に所属した研究室に乖離があることがしばしばある。あるいは研究指導者と学生の間に何らかの齟齬があった場合には、学生の研究したいモチベーションが削がれることになる。もちろん、研究はそうそううまく進むものではなく、学生の限られた時間の中で期待通りの成果を出すことは容易ではない。結果を出すためには、我慢を強いられることもあろう。しかし、学生の知的好奇心とモチベーションが持続しなければ、研究そのものに対する意欲を削いでしまうこととなりかねない。従って、本コースでは、学生が希望する場合に限り、WGが研究室-学生間の調整を可能としている。もし学生が研究室を移動したい場合には、トラブルのない研究室移動をWGがサポートしている。これらは全て、本来自主的な意思のもとに行われている研究によって、学生が万が一にも不利を被るようなことのないようにするためである。また、研究そのものに興味はあるが、どの研究室がどのような研究をしているのかについては、学生の側からはホームページなどしか情報源がなく、イメージが湧かない場合が多い。そのような場合、幾つかの研究室を数ヶ月単位でローテーションすることを勧めている。また、宮崎大学では、3年次に4週間の研究室配属実習(必修)があり、実際に研究室での実験をすべての学生が経験することになる。この機会に、学生は研究室の具体的な研究内容や雰囲気をより深く知ることが出来、その後に医学研究者育成コースに所属して、自らの研究をスタートする学生も少なくない。本コースに所属して研究をスタートする学生に対する具体的なプログラムは、図1のとおりである。

 学部在学中に一定の研究実績を積んだ学生には、卒後臨床研修中に社会人(夜間)大学院生として、本学医学獣医学総合研究科博士課程に入学することを可能にしている。このような学生は、臨床実習と研究活動の両輪を可能にするため、時間的・物理的制約を鑑み、基本的には当大学医学部附属病院での卒後臨床研修を奨励している。H28年度に医学科を卒業した学生が、第一期生としてこのシステムを利用して、H29年度より大学院博士課程に入学している。また、学部学生時代に、英文論文発表(共著も可)をした者には、大学院で筆頭著者英文論文を発表することで、大学院3年次での博士号取得が可能である(図1)。
 
   図1:宮崎大学医学研究者育成コース概要図

コースの現状
 現在、学生受け入れ研究室は、基礎系17研究室、臨床系10研究室となっている。
<基礎系>
組織細胞化学、超微形態科学、統合生理学、腫瘍生化学、機能生化学、薬理学、物質科学、蛋白質機能学分野、構造機能病態学、腫瘍・再生病態学、寄生虫学、免疫学、公衆衛生学、フロンティア科学実験総合センター(RI清武分室、生理活性物質機能解析分野、生理活性物質探索病態解析分野、生理活性ペプチド探索分野)
<臨床系>
循環体液制御学、消化器血液学、神経呼吸内分泌代謝学、産婦人科学、小児科学、整形外科学、泌尿器科学、眼科学、放射線医学、医療情報部

 また、所属する学生総数は、下記のとおりとなっている。

<コース所属学生数>
H25年度:22名、H26年度:36名、H27年度:47名、H28年度:51名、H29年度:46名

研究発表会リトリートの開催
 研究者としてだけでなく医師としても、自らの考えを論理的に意思伝達することは極めて重要である。このような観点から、学生が研究内容を発表し、プレゼンテーション能力やディベート能力を向上することを目的として、12月に1〜2日間の研究発表会(半分は宿泊リトリート形式)を開催している。毎年、10演題を超える口頭およびポスター発表がされており、その研究内容の高さは教員の予想以上のものである。発表に対しては、学長賞、医学部長賞、医学部同窓会賞が授与され、学生にとっては、研究成果をアピールする絶好の機会となっている(図2)。さらに、発表会の後には、医学部同窓会の全面的な協賛支援により懇親会を開催し、学生と教員が夜遅くまで、ときに夜を徹して、研究はもとより、学部教育について、将来の進路について、あるいは宮崎県の医療体制についてなど、様々な意見交換がされている。このように学生が教員に忌憚のない意見を言える機会は少なく、これを可能にしているのは、学生が自ら研究している自負があるからに他ならないであろう。
 今後も、学生が自由に興味のままに研究することを可能にするため、本コースを継続するとともに、プログラムの改善を引き続き模索していく予定である。

   
  図2:毎年開催される医学研究者育成コース研究発表会の様子 

宮崎大学医学研究者育成コースホームページ:
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/fostering/