1.はじめに
近年、大学院博士課程入学者、特に基礎医学系の入学者に締める医師免許取得者(以下、MD)の割合が低下しています。私は平成3年に大学を卒業しましたが、当時は、基礎医学実習の時には、MDである先輩方が学生実習の指導を行っていました。また、卒業後は臨床医を目指したものの大学院で研究の魅力に引き込まれ、そのまま基礎医学の道に進んだ先輩、同僚も見てきました。医学部卒業後は基礎医学系の教室で一定期間研究を行い、そして、臨床に戻ってからも臨床業務の合間を見つけて研究を継続し、より臨床に近い視点から研究をすすめていくというスタイルは当たり前に行われていました。
しかしながら、今の医学部生や卒後臨床研修医と話をすると、基礎医学系の講座で研究をすることに敷居の高さを感じている人が多くいることを感じます。また、医学博士号取得よりも専門医、さらには、サブスペシャリティの専門医取得に魅力を感じていることがわかります。山形大学医学部では、平成13年以来社会人大学院生の受け入れを積極的に行い、臨床でのキャリアを継続させながら研究を行うことができる環境を提供してきました。しかし、大学院の定数充足率は100%には到達しておらず、大学としては、学生の時期に医学研究に触れ、卒業後も継続できるプログラムを組み入れることが課題となっています。
2.山形大学のカリキュラムと研究室研修
医学科では、1年次から医学基礎教育科目と専門教育科目の講義を行っており、専門教育科目は医学概論、人体物質代謝学、人体構造機能学入門から構成されています(図)。医学概論は、基礎系及び臨床系講座がそれぞれの学問分野を解説するとともに、各講座で行っている研究の紹介も行っています。オムニバス形式ですべての講座が担当しますので、医学研究に対するearly
exposureの役割を果たしており、後述する課外研究室研修への導入になっていると思われます。
2年次は基礎医学全般の講義と実習、3・4年次には臨床医学・社会医学の講義・実習を行い、4年次の10月から臨床実習が開始となります。3年次以降は臨床科目が中心となりますが、研究に対する理解を深め自ら研究を行うことを目的に、3年次の秋に4週間の研究室研修をカリキュラムに組み込んでいます。研究室研修では、各講座に1~4名程度の学生を配置しますが、学生が自主的に選択した研究室において、担当指導教員と協議して、与えられたテーマについて文献収集、実験技術の修得、データの整理・解析などを行い、リサーチマインドを深めるカリキュラムとなっています。研究室研修の成果を学生からレポートとして提出してもらい、毎年、研究室研修報告書として取りまとめており、学生相互に研修内容を知ることができます。
研究室研修では講座ごとに研究テーマが異なりますが、少人数の学生に対して指導を行いますので、研究の成果だけでなく、研究への姿勢や研究倫理などをマンツーマンで伝えることができます。医学研究法について学ぶ絶好の機会となっており、この研究室研修の活動をきっかけとして研究を継続し、学会発表や論文発表を行う学生もいますので、研究医の養成の面から、重要なカリキュラムであると位置づけています。
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3.課外研究室研修
研究室研修は3年生全員が研究に触れる機会であるものの、4週間と研修期間が限定されています。未解決の医学・医療上の課題に立ち向かおうとするリサーチマインド(探究心)や研究に対するモチベーションは短期間の実習で涵養することは容易ではありません。一方で、臨床実習の期間が長くなったことなどから医学教育のカリキュラムが過密しており、研究室研修の実習期間を延長することも困難となっています。1年次から医学専門科目が導入されていることから、早期に医学研究に興味を持った学生の受け皿も必要です。
医学科在学生の医学へのモチベーションを高め、リサーチマインドを涵養するため、通常カリキュラムの枠外、すなわち課外活動として、長期継続的な研究室研修を実施できる公的なプログラムとして、全学年を対象に、長期的に研究に関する指導を行う「課外研究室研修」を平成27年度から実施しています。各臨床・基礎講座が課外時間(放課後,週末,長期休暇等)で提供可能な研修プログラムの内容と受け入れ可能学生数等を提出し、教務委員会から学務課を通じて公表されたものを学生が見て判断し、希望講座を選ぶシステムになっています。課外研究室研修そのものは長期的な研修を想定したプログラムですが、研修開始の前段階としての一時的な研究室の見学等の希望にも積極的に対応しています。実際に課外研究室研修をするかどうかわからない場合であっても、興味がある講座の担当者と面談することにより研究に対するハードルが低くなる効果も期待できると考えています。
各講座は学生と面談したあとに受け入れの可否を判断しますが、平成30年4月現在、14の講座に37名の学生が在籍しています。課外研究室研修は、研究室研修のあとに継続して研究をおこなう3年生が最も多く在籍していますが、1年次から本課外研究室研修に参加する学生もおり、医学に対する高いモチベーションを持つ1年生の受け皿として機能しているといえます。卒業判定の際に課外研究室研修活動の評価を希望する学生は、研修内容の概略と成果、研修を通じて得たことを記載した研修内容のサマリーや研修日誌・実験ノートを提出してもらい卒業判定の際に参考にしていますが、極めて優れた成果がある場合は、山形大学医学会総会等での表彰の対象としています。
4.課外研究室研修の課題
1年次学生の医学研究に対するモチベーションの向上や3年次研究室研修の継続性の維持に一定の効果があることは実感していますが、4年次後半からの臨床実習期間中に課外研究室研修を継続している学生は少なく、卒業までの研究継続が課題としてあげられます。現在、卒業判定の際の課外研究室研修活動の評価は希望者のみに行っていますが、課外研究室研修活動に対して医学部としてインセンティブを付与する、あるいは表彰する制度を設けることにより、研究に対するモチベーションを高めることにつながる可能性があります。
現行の卒後臨床研修制度を考えた場合、研究に対するモチベーションの高い学生であっても卒後臨床研修を行わずに研究者の道に進む卒業生は、今後も増加はしないと個人的には考えます。卒後臨床研修は2年間で終了要件が満たされる制度ですが、研究者を志す学生が学生時代からの研究との両立が可能なコース、例えば、3~4年間で卒後臨床研修の終了要件を満たすことができるコースを設けるなどの柔軟な制度変更が今後の研究医の養成には必要と思われます。山形大学医学部としては、課外研究室研修のプログラムを選択した卒業生について講座横断的に情報を共有し、卒業生が医学研究に取り組みやすい体制を医学部全体で構築していくことが将来的な研究医の増加につながると思います。
5.おわりに
MDの研究医の減少が言われている一方で、地方にとっては、地域医療を担う人材の確保も重要です。私は臨床系の講座に所属していますのでそのバランスを常に考えていく必要はありますが、若い教室員には大学院への進学を前提に人生設計するように話しています。学位を取得したあとも、少なくとも大学に在籍している間は研究を継続できる職場環境を提供することが重要であり、臨床の教室においてもチームとして研究を遂行することで、その下の世代が研究の魅力に触れるきっかけになると思っています。
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