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今回は埼玉医科大学での取り組みについてご紹介します。

埼玉医科大学における研究医養成の取り組みについて
文責 :  埼玉医科大学研究医養成プログラム運営委員会 佐々木 惇 委員長(病理学教授)

 現在、医学部において研究医の養成、基礎医学を担う研究者の育成に関してはあらゆる試みを行うことが急務と考えられている。医療の観点からは、法医学者と病理医も深刻な人員不足に直面している。平成30年8月時点で、全国の病理専門医は2,483人あまりであり、65歳以上が21.9%、平均年齢53.9歳と高齢化傾向にある。埼玉県の病理専門医はわずか104名、人口10万人当たり病理専門医1.42(全国で6番目に少ない)で、この少人数で埼玉県の病理診断を支えているのが実情である。基礎医学を担う研究医と地域医療や地域行政を背面から支える法医学者、病理医の育成は医学部、医科大学に課せられた責務であり、埼玉医科大学においてもこれらの人材の養成を図ることが求められている。しかしながら、この10年間、本学医学部の卒業生で基礎医学にすすんだ医師は社会医学を専攻した医師のみであるのが現状である。

1. 基礎医学研究への関心と意欲を高めるためのカリキュラム

 埼玉医科大学医学部では、卒業時の到達目標(アウトカム)の一つとして研究マインドの育成を掲げている(表1)。具体的な卒前教育としては、必修講義として「キャリアパスの紹介」を、選択講義として「基礎医学研究室紹介」を実施している。後者においては、本学の全ての基礎医学教室とゲノム医学研究センターの各分野の研究者がその研究内容を紹介している。ゲノム医学は現在最もactivityの高い分野であり、センターは本学が世界に誇る最先端施設である。さらに、平成11年から毎年「夏期休暇中の学生受入プログラム」を開催し、現在は「課外学習プログラム」を行っている。平成29年度は学内の基本学科から併せて156件(夏期休暇中のみ:33件、夏期&春期休暇中:16件、春期休暇中のみ:1件、通年:107件)のプログラムが提供され、女子栄養大学からも1件提供された。在学中での海外大学研究室の見学も、5年時の海外交換留学制度を利用して可能となっている。さらに、学部教育から大学院への接続を促進するため、大学院入学試験のうち語学試験については、学部在籍時における受験も可能とした。

   
  【表1】

 大学院教育においては、平成18年から実質化を目指した改革を開始し、平成19年度から社会人大学院生・外国人大学院生を受け入れ、また、2つの大学間連携プログラムによる高度医療人の養成、がんプロ(1期、2期)によるリサ-チマインドをもったがん専門医の養成に取り組んでいる。さらに平成25年度より初期臨床研修プログラムを履修しながら、社会人大学院生として学位取得、その後の研究医を目指すことも可能としたキャリアパスプログラム「研究マインド育成自由選択プログラム」の運用を決定し継続している。

2. 研究医養成プログラム

 埼玉医科大学は、本学医学部卒業生からの研究医と基礎医学を担う研究者の養成を目的として研究医養成プログラムを平成28年度から開始した。本プログラムは3年生時に募集、選考し、4年生より開始する(表2)。

 
  【表2】

 初期臨床研修における「研究マインド育成自由選択プログラム」と密にリンクすることにより、学位のみならず専門医の資格取得も考慮している。基本型は「本学医学部卒業直後の本学大学院入学」と「大学院卒業後の基礎系助教としての採用」だが、本学では臨床との兼担も考慮するなど、フレキシブルな運用を行っている。学部学生に対しては大学院で履修すべき授業科目(共通科目)の単位の前倒し取得、課外学習プログラム(以下、課外プロ)や他大学との連携を利用した研究活動など、いろいろなメリットが用意されている。
 プログラムには奨学金も準備されている。具体的には、各年度3名までを対象に、対象者には、『埼玉医科大学研究医奨学生』として医学部4年次以降から大学院修了時まで奨学金として月額10万円を貸与する。学位取得後は、本学医学部基礎医学部門で助教として採用し、奨学金貸与年数と同年以上の年限を研究医として従事した者は奨学金の返済を免除する。学位取得後に初期臨床研修を受ける場合は、その間返済猶予期間となる。また、出産、育児休職等によって研究を中断する場合も返済は猶予される。平成29年度は医学教育振興財団の基礎研究医奨学金に1名の学生を推薦したところ、支給決定となり、1年間120万円の奨学金が支給された。

 本プログラムの1期生(平成28年度)は5名で、2期生(平成29年度)と3期生(平成30年度)にはそれぞれ3名と1名が加わった。医学研究は多様で、基礎科学、応用医学、疫学、社会医学など多様な領域があるので、自分の興味や将来の目標などを考慮して研究室を選択してもらっている。現在は、病理学、薬理学、生化学、微生物学、ゲノム医学で学習、研究に励んでいる。具体的には課外授業として、以下のようなことが実施されている:1)所属した研究室で指導教官のもと研究の指導をうける(図1)、2)抄読会(ジャーナルクラブ)に参加する、3)大学院講義を受講し単位を獲得する、4)大学院語学試験を受ける(受験料無料)、5)慶応大学医学部学生研究発表会と研究室の見学。上記4)の大学院語学試験は年間に2回あり、本プログラム学生の多くが受験し見事合格している。研究の成果は、本学の学生研究発表会(図2、3)で発表することが目標とされ、各分野の全国学会での学生ポスター発表や筆頭著者として英文論文出版を成し遂げた学生もでている。毎年、学生研究会発表会での優秀者には表彰状と楯が授与されている。

   
  【図1】
   
   【図2】
   
  【図3】

 その他、研究意欲の向上のために、様々な取り組みが実施されている。平成29年度には、)内閣府主催の日本医療研究開発記念講演会に、本プログラム履修の3名の学生が参加し、ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥教授による講演を聴講した。平成30年2月20日には、丸木記念特別賞招聘事業共催学術集会としてノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生による特別講演会が行われた。企画頂いたゲノム医学研究センターの片桐教授のご配慮により、大村先生は講演終了後に本プログラム履修者5名と10分程度の懇談に応じてくださった。
 平成28年度4年生として研究医養成プログラムを開始した学生3名は平成31年3月に医学部卒業予定である。その3名中2名が、本学の初期研修プログラムをとり大学院入学願書を提出している。今後の彼らの活躍が大いに期待される。また、残りの1名の学生も将来は研究を行いたい希望を持っており、後期研修以降の臨床医に対する研究者へのリクルートも重要な課題と考えている。今後の課題としては、新カリキュラムでは、4年生CBTを12月に行うことになり、学生は4年生の夏休みに、CBT対策を行うことが予想され、そうなると、研究医の学生が集中して研究する期間が短くなる虞がある。したがって、本プログラムの開始を3年生からとすることが適切と考えられ、現在、検討中である。

 医学生時代の到達目標としては、研究医になる上で必要な能力を身につけてほしいと思っている。事実に基づいてものを考える能力、よく考え、よく読み(英文も含めて)、よく討論する力を養ってもらいたい。まずは大学院生になる前の土台作りである。ある意味で実験をするのは簡単であり、何がどこまでわかっていて何を解析する必要があるのか、研究の立案・計画が重要であることを学び、大学院で充分な知識と正しい判断をもって研究を完遂することを目指して、医学部生期間ではあせらずじっくりと学んでもらいたい。そして、将来、大学院生、研究医として大いに活躍できることを願っている。医学生諸君は研究医の将来に不安を持つ者も多いと思われる。我々、指導者は、彼らのキャリアパスをともに良く考え、研究医のhappinessを学生諸君に伝える義務があると考える。