*第50回*  (H31.2.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は日本医科大学での取り組みについてご紹介します。

日本医科大学における研究医養成の取り組み
文責 :  日本医科大学 清水 章 研究配属実行委員長
            大学院医学研究科解析人体病理学教授 

はじめに
 本学は「済生救民」を建学の精神とし、「克己殉公」を学是として、豊かな人間性を併せ持つ医療人の育成を図っています。また、教育理念として「愛と研究心を有する質の高い医師と医学者の育成」を掲げ、医師として医学者として医学という学問への研究心を養うことも重要な課題として捉えています。本学は教育理念に従い、1. 克己殉公の精神を受け継ぐプロフェッショナリズム、2. コミュニケーション能力、3. 統合された医学知識、4. 実践的診療能力、5. 科学的研究心と思考能力、6. 人々の健康の維持、増進を通じた社会貢献、7. 次世代の育成、教育能力、8. 豊かな人間性と国際性のコンピテンスを掲げています。それらの全てに科学的探究心・研究心や豊かな人間性の熟成が大切で、学部教育での実際の研究活動でのコミュニケーション力、理論的な思考や解析、それに基づく実施、問題解決能力、後進への指導やリサーチマインドの育成が大きく関わると考えており、それを達成するよう誠意取り組んでいます。研究を支える基盤として、2001年には私立大学医学部、医科大学においては初めて大学院重点化を宣言し、大学全体として研究を重要視しており、学部学生にも強く関わっています。また、学生には、2年次から4年次を対象に研究を積極的に行う時間を整えるために、学部講義の出席免除のシステムを導入し、研究を展開するための環境を整備しています。

本学での学部学生への研究への導入
 本学は6年一貫アウトカム基盤型カリキュラムを取り入れています (図1)。第1年次、大学院医学研究科長により行われる研究倫理に関する授業に始まり、医学教育カリキュラム総論や医学概論において科学的方法および医学研究方法論を学習します。セミナー選択や2年次の特別プログラムでは分析的および批判的思考を涵養するテーマを設定しています。3年次に臨床医学への基礎医学的アプローチや臨床医学総論において、科学的方法を臨床に活用するために、科学的な臨床推論法を学習する機会を設けています。また、研究配属として、基礎科学、基礎医学、先端医学研究所、臨床医学を問わず各教室に配属され研究者としての1 歩を歩みだすようカリキュラムが組まれています。研究配属は2016年度までは「基礎配属」の名の下に基礎医学のみを対象としていましたが、多様な学生の希望に添えるよう基礎・臨床系を含む全学をあげた「研究配属」へと発展させています。研究課題は連携施設の研究室からも提出され、学内ばかりではなく、学外の専門施設への配属も行われています。3年次のカリキュラム終了後には希望者には研究配属が継続され、4年次以降の後期研究配属に続くシステムが構築されています。研究配属の課題がマッチしなかった学生には、3年次の研究配属カリキュラム終了後に他の課題への移行や、4年次から新たに異なる課題の後期研究配属を選択することも可能です。4年次以降希望された学生は卒業時まで研究活動を続け、学会発表や論文発表などの成果を挙げています。熱心な学生は、夏期休暇を利用して海外の協定校やアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)などの海外の研究施設での研究活動を行っています。1年次のNMS(Novel Medical Science)、医学概論、医学入門、特別プログラム、セミナー、2年次の特別プログラム、3年次の臨床医学への基礎医学的アプローチ、臨床医学総論、研究配属、4年次から卒業まで継続する後期研究配属や海外研究活動のように、1年次から6年次まで継続して研究を行うことができる6 年一貫アウトカム基盤型カリキュラムが構築されています。

 


3年次の研究配属と4年次以降の後期研究配属
 3年次の研究配属と4年次以降の後期研究配属では、学生が実際の研究室に入り、教員に実際に研究指導を受けながら、研究に取り組みます。3年次の研究配属では、夏期休暇の直前の3週間にかけて全日の研究を行なっています。学内からは、基礎系として基礎科学と基礎医学、臨床系として臨床医学、先端医学研究所から学生の受け入れが可能な研究課題が提出さます。2017年からは東京理科大学と連携し、研究課題が提出され、学生の配属が行なわれています。研究課題の提出には、研究配属の意義である学生が自らの知的好奇心を喚起して能動的に積極的に研究を行うカリキュラムであることを意識した課題が提出されています。研究指導教員から直接指導を受けることを大切に、一課題についての受け入れ人数は1人から2人に制限しています。2018年には基礎系40課題、臨床系21課題、先端医学研究所9課題、東京理科大学から9課題が集まり、学生の希望を優先し、学生同士で希望に沿う配属先を決定しています。事前に実験動物管理室からは実験動物講習会を、組換えDNA実験安全委員会からは組換えDNA実験安全講習会を、また個人情報の取り扱いについての教育がなされます。研究によっては時間が不規則になることもあり、指導教員と学生の話し合いのもと、研究に使用する時間は変動が可能です。課題の決定の際には予め指導教員と課題について相談し、どうしても興味ある課題が見出せない場合は、興味ある分野の教授あるいは教員と相談の上、独自の課題を設定して登録することも可能で、学生の希望を優先に興味ある課題での能動的研究になるように工夫しています。カリキュラムでの研究配属は夏期休暇前の3週間ですが、指導教員との相談により期間外や夏期休暇での活動も推奨しており、20名ほどの学生が研究配属の継続を行っています。3週間の研究配属終了後は、成果報告書を大学のポータルサイト上の学習支援システム(Learning Management System)にアップし、研究配属実行委員、指導教員や研究に関わる教員や学生同士が参加した総合的なディスカッションを積極的に展開しています。これらのディスカッションを通して、他の研究室や他の学生の研究状況、研究への具体的な質問や実際の研究のデータについての解析や解釈に対する確認、理論的考察に対する意見交換が活発に行われ、それぞれの学生の研究に対する姿勢や熱意、リサーチマインドの思考の育成が行われています。さらに、希望学生は研究配属の成果を研究配属成果発表会、日本医科大学医学会総会や東京理科大学との合同シンポジウムで発表し、ディスカッションを行い、自身の研究を成熟させています(図2)。これらの学生には医学部長から学生研究奨励賞が授与され表彰されています。

 

 4年次にはStudent Doctorの取得後に後期研究配属が始まります。このため臨床研究への制約も少なくなり、指導教官の指導の下、より自由に研究活動を行うことが可能になります。基礎科学、基礎医学、臨床医学などの各教室から研究課題が提出され、指導教官のもと後期研究配属が行われますが、研究期間は学生と指導教員との話し合いで決定されます。3年次の研究配属で希望の研究を選択することができなかった学生も、後期研究配属では希望の研究に配属される可能性が高く、より自由に研究活動を行うことが可能です。このため学生が大学院生に負けずとも劣らないほどの研究成果を上げることもあり、これまでに国内や海外の学会発表や論文作成に至ったものも多数あります。この貴重な研究に携わる機会を通じて、学生が医学・医療の道を見据え、将来医師・医学者としての知識習得や今後の研究活動に繋がることを期待しています。年々、後期研究配属で研究を継続する学生は増加しつつあります。
 2年次以降の希望する学生に関しては、人数に制限はあるものの、教務部委員会および国際交流センターでの一定の審査を経て、夏期休暇を利用して 6-8週間、アメリカ国立衛生研究所(NIH)やコロンビア大学などの海外の研究施設で研究留学活動を行っています。南カリフォルニア大学には臨床研究留学も行われました。研究留学も毎年希望者がおり、また卒業まで引き続き研究活動を続ける学生もいます。
 研究配属、後期研究配属や海外研究留学など、研究で成果を上げた学生に対しては、大学から桜賞を授与し、表彰されます。学生や全教員が注目し、認識することで、学生の研究成果も年々、質の向上が実感できます。

本学での研究活動の工夫と今後の展望
 希望者は1年次や2年次から研究室に出入りして興味のある研究を始める学生もいますが、多くの学生は3年次の研究配属で初めて研究室内で実際の研究活動を始めます。3週間の全日制の研究配属では期間が短いとの意見も多く聞かれますが、以前の基礎配属では、週に2日を6ヶ月ほど継続する研究活動を行っていました。どちらも一長一短があります。今後は研究活動の期間や質を評価して研究活動の充実化を図る最適なシステムに発展させる必要があると考えています。
 大学間連携を積極的に行い、東京理科大学、早稲田大学、中央大学など、学生時代から異分野での研究ができるカリキュラムを構築しています。3年次の研究配属では、連携大学において、テクノロジーを駆使した先端的な研究も実践することが可能になっています。大学間連携をより強固にし、多くの大学間で自由に多分野での研究を行えるシステムを強固に構築する必要があると考えています。
 また、海外研究制度・研究留学制度は、主にアメリカ国立衛生研究所(NIH)での研究活動を行っていますが、人数に制限があります。海外との研究施設との連携を強固にして、より多数の学生が参加することが可能なシステムを構築する必要があると考えています。
 研究活動を行う時間の確保のために、GPA(grade point average)上位者の次年度出席免除制度を実施しています。学修支援システム(LMS)や e-learningの充実で効率的な教育を充実させ、一定以上の成績を満たす優秀な学生の研究マインドや国際性を涵養し、将来我が国の医学・医療を牽引する人材へと育成するため、授業の出席をある程度緩和する制度を設けています。2018年度は第2学年から第4学年の計16人が認定され、それぞれが CBT に向けた自己学習や海外留学、病院実習、研究活動などの時間に活用しています。研究活動の時間を確保するシステムの充実をより進める必要があると考えています。

おわりに
 本学は1876年に済生学舎として創設され、以来140年以上経た我が国最古の私立医科大学です。建学の精神および学是は、「済生救民」と「克己殉公」であり、医師としてあるべき姿をこの学び舎から巣立つ者に求めています。長い歴史を歩んで辿り着いた「アカデミズムの自由」の環境の中で、「愛と研究心を有する質の高い医師と医学者の育成」を教育理念として掲げ、確かな医療知識と技術、そして豊かな人間性を併せ持つ医療人の育成を図っています。その伝統を受け継ぎ、知識、学力、技量のみならず、社会に尽くす「心」を有する人材を育成するために、学部教育での実際の研究活動を大切に発展させる必要があると考えています。