東京女子医科大学のカリキュラム概要
今回は東京女子医科大学における研究医育成の取り組みをご紹介します。現在のカリキュラムに育成の取り組みも組み込まれていますので、まずカリキュラム概要を説明します。本学では1990年から講座ごとによる講義・実習を廃止し、「統合カリキュラム」、「テュートリアル教育」、「人間関係教育」(2018年度より「至誠と愛」の実践学修に改称)を導入しました。2011年にカリキュラムの改訂(MDプログラム2011)を行い、1〜4年の半年を1つのセグメントとする制度を導入しました。
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1年前半のセグメント1では細胞生物学を中心とした医学教育の基礎となる知識の導入を行い、1年後半のセグメント2と2年時前半のセグメント3において基礎医学(組織、解剖、生理、代謝、分子生物、細胞情報伝達、微生物、免疫)を中心とした講義・実習を行います。2年時後半のセグメント4から4年時前半のセグメント7にかけて、臨床医学の知識を本格的に含んだ臓器・器官系、あるいは神経系などの機能系について、それらの正常と異常を統合的に学びます。そして4年後半セグメント8に公衆衛生など社会医学と、臨床入門となる診断・治療の進め方や基本的診察技能、検査・画像・病理判断などを学修します。その後に共用試験(CBT,
OSCE)を行い、臨床実習のための基本的知識・技能・態度を修得したことを確認します。5年~6年前半のセグメント9は診療参加型臨床実習、そして第6学年後半のセグメント10が総まとめと卒業認定試験期間になります。
これらの中で学部生が研究に接する機会は2つあります。1つは3年次後半セグメント6を中心に実施される研究プロジェクトであり、もう1つはセグメント9の実習期間に基礎・臨床いずれかの講座を選択し実施される研究実習になります。
次にテュートリアル教育は少人数学修を通して、学生自身が問題意識を持ち自らの力で知識と技能を発展させてゆくことを目指しています。学部生が6〜7名の小グループをつくりそれぞれにテューターが1名ついて、Problem-based learning (PBL)の形式で学修します。1年前期セグメント1では身近な生活問題を取り上げ、セグメント2からは徐々に医学内容へと発展させています。
さて、東京女子医科大学は「至誠と愛」を大学の理念としています。その言葉は「高い知識・技能と病者を癒やす心を持った医師の育成を通じて、精神的、経済的に自立し社会に貢献する女性を輩出すること」を表しています。この精神を涵養するために、横割りのセグメントによる講義・実習に加えて、縦割りの「至誠と愛」の実践学修を行っています。ここでは従来、大学入学前に身につけておくべきこととされてきた、人・社会人としてふさわしい態度や人間関係を始めとして、将来医師としてあるべき態度、倫理、対人コミュニケーション、チーム医療などを学修していきます。またその実践学修として、外来患者付き添い実習(第1学年)、病棟看護体験(第2学年)、病棟地域医療に携わる卒業生医師のもとでの研修(第3学年)なども行っています。この実践学修の中で、基礎医学研究、公衆衛生行政、国際交流など様々な分野で活躍する卒業生を講師として招き、女性医師としての様々なキャリアを学部生に紹介するといった機会も設けています。
縦断科目にはこの他、文字・文書によるコミュニケーション能力を養う基本的・医学的表現技術開発、英語による医学コミュニケーション能力開発を目指す国際コミュニケーション、そして情報処理・統計が設定されています。
研究プロジェクト
学生全員が、科学的プロセス・思考力を修得するため、また医学における持続的な研究の必要性を体験し、医学研究への興味を引きおこすために2013年度から研究プロジェクトを導入しました。第3学年の学生が全員、臨床基礎いずれかの教室に所属して、研究プロジェクトを実施しています。そのため第3学年の始めに各講座が研究テーマと受け入れ人数を示して学生と面談の上、配属先を決定しています。プロジェクトの実施は、セグメント6期間内の3週間ですが、研究や実験の進行度合いは通常の講義・実習よりはるかに時間がかかることから、希望する学生には早期に研究プロジェクトを開始し、期間終了後の継続もできるようにしています。研究プロジェクトは学生の興味や意思が主体となることから、基礎、臨床を問わず学生が希望する講座での実施を原則にできるようにしています。またプロジェクト終了時には学内のポスター発表による成果報告を推奨しています。
2018年秋の調査では、実際に学生が配属された講座は過去6年間(2013〜2018年度)において、基礎医学系及び社会医学系が18.8%、臨床医学系が81.2%となり、臨床系講座で進行している研究に興味を持つ学生が多数であることが明らかとなりました。また2013〜2017年度の研究プロジェクトについて、11.7%の学生が学会発表を行い、6.8%の学生が論文発表若しくは準備中であることがわかりました。これらのことから研究プロジェクトでは学生に研究の動機を与える一定の効果が得られたと考えられます。
基礎研究医養成プログラム
近年、医学部出身の基礎医学系研究者・大学院生が減少していますが、将来的にも医学部卒業の基礎医学系研究者・教育者が必要とされることから、東京女子医科大学では2013年から基礎研究医養成プログラムを開始しました。これは医学部後半の3年間と大学院4年間を連続させるものになります。基礎医学研究を志望する4〜6年次医学部生が、基礎医学系講座若しくは先端生命医科学研究所(TWIns)に所属し、研究及び大学院講義・実習を受講して仮単位を取得します。卒業後、東京女子医科大学内病院における初期臨床研修2年間を基礎医学系大学院の1〜2年次と兼ね、その後の2年で学位取得を目指すプログラムです。さらに大学院修了後に研究を継続する場合、所属分野でのスタッフ採用や留学援助などのサポートを少なくとも数年間は行う制度も設けられています。
2018年度までに13名(既卒10名)が基礎研究医養成プログラムを選択しましたが、卒業後に基礎系大学院に進学した学生は1名といった状況です。初期臨床研修のスケジュールが密なことと、その後の大学院3、4年次の短い期間で論文発表と学位取得まで到達することに困難を感じるのかも知れません。
初期研修医や後期研修医制度が導入される以前から、最初から基礎研究を志望する医学部生は極めて少数派でした。また臨床経験を通じて基礎研究の必要性を感じて基礎に転じた先生方も多いのではないでしょうか。基礎研究医を育成するうえでは柔軟なキャリアパスを認める体制が望ましいように思います。将来的に不足すると考えられる基礎系講座の教員については、他学部の人材を積極的に取り入れる必要があるでしょう。この時にnon
MDとMDの差を問わないレベルまで幅広い医学知識を身につけた人材を育てることも基礎系講座の役割と感じています。
謝辞 研究プロジェクトの調査結果を提供頂いた医学教育学講座の大久保由美子教授に感謝申し上げます。
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