*第53回*  (2019.8.23 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は昭和大学での取り組みについてご紹介します。

昭和大学医学部における研究医養成の取り組み
文責 :   昭和大学 小川 良雄 医学部長

昭和大学医学部の沿革と大学院
 昭和大学は1928(昭和3)年に上條秀介博士らにより、本学医学部の前身となる昭和医学専門学校として創立しました。東大病院内科医として関東大震災を経験した上條博士は、学問・研究に偏重し、実際の医療と乖離していた当時の医学教育に疑問を抱き、「国民の求めに本当に役立つ、人間性豊かで優れた臨床医を養成すること」を使命とした医学専門学校を創立したのです。建学の精神は「至誠一貫」であり、常に相手の立場にたって真心を尽くすという精神は、創立以来現在に至るまで相手に寄り添う心を持った臨床医・医療人を育成するという方針として受け継がれています。その後、1946(昭和21)年に昭和医科大学に昇格し、1964(昭和39)年に薬学部、1977(昭和52)年に歯学部、2002(平成14)年に保健医療学部(1997(平成9)年に開学した昭和大学医療短期大学を改組)を併設して医系総合大学として発展してきました。臨床医を育てることを学是としていましたが、1959(昭和34)年に大学院の設置を認可され、他大学に依存せずに医学博士を授与できるようになりました。
 優れた臨床医となるためには、幅広い知識とより深い人間性の涵養が必要です。基礎医学系講座の充実のもとに、臨床医学系講座との相互連携を密にすることで優れた人材を育成することができることは言を俟ちません。本学においても昨今の卒後臨床研修の必修化や新専門医制度の導入により基礎系講座における医学部卒の教育職員の減少による基礎研究医の減少、臨床系講座においても基礎医学・臨床医学研究を継続する医師が減少しており、多様性のある医師の育成の観点からも医学研究を促進することが喫緊の課題となっております。そこで、大学院へより多くの医師を入学させるべく制度を策定し、大学院修了後も研究を継続する医師を養成するための本学の取り組みをご紹介いたします。

大学院Multi Doctor(MD) プログラム医学研究科コース(科目等履修生制度)
 本学では大学院Multi Doctor医学研究科プログラムを2011(平成23)年からスタートさせました。対象は医学部の4・5・6学年生です。将来本学の大学院で修学を希望する学生は、志望する医学研究科基礎系講座の主任教授が選考試験(口頭試問)を行い、合格した場合には医学研究科基礎系の専攻科目(講座・部門)に所属します。MDプログラムでは医学生が毎週土曜日に志望の基礎系講座で講義あるいは実習を行うことで、大学院としての共通科目6単位、専門単位4単位が認められます。大学院修了には30単位が必要ですので、そのうちの1/3を学生時代に取得することが可能となり、残り20単位を卒後臨床研修中あるいは専門医研修中に修得すれば大学院修了要件を満たすことができます。大学院医学研究科の4年間で博士号を取得するには、臨床研修や専門診療等、様々な要因により困難な面も少なくなく、単位の取得が必ずしも容易ではありませんでしたので、学部在学中にMDプログラムで単位を修得すれば、大学院入学早期から課題の研究を開始し、論文完成に向けて研究に集中することができます。また、早期修了制度として大学院3学年までに必要30単位以上を修得し、研究科教授会で定めた基準を満たした主論文・参考論文を提出して論文審査に合格した者は、最短で3学年で大学院を修了することも可能としており、ここ数年は、毎年1名の早期修了大学院生が誕生しており、後輩の励みにもなっています。このMDプログラムは、早期に博士号の取得を支援するばかりでなく、学部生から医学研究の本質を理解し、研究マインドを涵養する上でも有用であり、将来基礎医学あるいは臨床医学の研究者として、社会に貢献できる人材育成を推進する1つの方策と考えています。現在22名(2019年5月1日現在)が在籍しており、すでに54名がこの制度を利用し32名が卒業して17名が大学院に進学し、1名が医学博士号を取得しています。

昭和大学医学部特別奨学金制度
 特別奨学金制度は、卒業後、昭和大学の一員として教育・研究・診療の分野で本学の発展に貢献する意思のある者に奨学金を給付する制度です。経済的支援を行うことで、卒前学修と研究に専念できる環境を整える目的で2014(平成26)年度から開始しました。奨学金給付の対象者は、5年次への進級が確定し、給付を希望する学生です。応募の必要条件は(1)成績が特別優秀な者、(2)卒業後直ちに、本学大学院(社会人枠)へ進学する者、 (3)本学附属病院または本学以外の病院において臨床研修を行い、臨床研修修了後、引き続き本学大学院研究科に在籍する者 、(4)本学大学院修了後、引き続き本学において4年以上専任教育職員として教育・研究・診療に従事する者、としました。定員は各年15名以内です。応募者に対して書類選考と面接があり、書類審査の後に希望動機と研究医に対する将来展望について、医学部長と医学研究科長が面談を行い、学長を含めた選考委員会で最終決定を行います。奨学金は、5年次、6年次の授業料相当額とします。さらに、大学院4年間の授業料相当額も給付します。学生の経済的負担を軽減して、大学院への進学を推進し、将来の研究医のマインドを高めるようにしています。この制度により優秀な学生を確保して、将来の研究医さらに指導教員として若手の教育に関与し、本学を牽引できる人材の育成を図っています。

昭和大学大学院医学研究科の取組み
 研究医のスタートは大学院から始まります。大学院医学研究科では春季と秋季の年2回募集を行い、大学院入学の門戸を広げています。一般選抜30名と社会人特別選抜30名の定員で、4年間の定員は240名です。専攻科目での科目変更(基礎系講座から臨床系講座、逆に臨床系講座から基礎系講座への変更)も比較的容易に行えるシステムにしており、(初期)臨床研修開始時から基礎系(社会人枠)大学院生として基礎研究と臨床研修を同時に行うことができます。2019(令和元)年5月1日現在、239名が在籍しております。2019(平成31)年3月までの55年間に、甲号2,328名、乙号(論文博士)2,477名に医学博士の学位を授与しています。
 また、新専門医制度のために大学院での学位取得が遅れる大学が多い中で、本学においては医学研究と専門研修を並行して履修できる専門研修プログラムを設定している専攻科もあり、制度の上からも研究マインドを失わせないような工夫をしています。

指導教員制度による研究医のリクルート
 昭和大学では指導担任制度を設けており、基礎医学の教育職員(教授と准教授)は学部2年次と3年次の2年間同じ学生の指導教員となります。この2年間で学生を密な関係に構築することでその研究室に出入りし、基礎医学研究に興味を持つ学生も少なくありません。また、高学年あるいは臨床研修医になってもその交流が継続している教育職員-学生もあり、医師としてのキャリアパスの良き相談相手あるいはロールモデルとなっているケースもあります。そして、臨床研修・専門研修を経験していく中で、再度医学の基本を学びたいという気持ちをもつ医師も出てきています。基礎医学の教育職員がメンターとして日々の細やかな指導のなかで、当該医師のキャリアパスも相談し、その気持を将来の基礎研究医へ誘導する取り組みとなっています。

医系総合大学を活用した研究の推進
 本学は歯学部、薬学部、保健医療学部を併設した総合大学であり、学部連携教育ばかりでなく、医学研究においても相互乗り入れを行っています。大学院生は学部の枠を超えて、学部連携での研究を推進しています。例えば、薬剤に関する研究では薬学部に設置されている最新の高度な研究装置を使用したり、薬学部教育職員の深く広範な知識を活用することで、医学研究の効率的な実施が可能となっています。学部間の研究を推進する上で、従来は学部ごとに設置されていた医学会・歯学会・薬学会を昭和大学士会と改編・統合し、年に1回の合同学会を開催して、学部連携研究の推進を図っています。
 また、薬理研究所、発達障害医療研究所、先端がん治療研究所、スポーツ運動科学研究所を併設しており、これら領域の研究に興味がある医師には広く門戸が開かれており、自由闊達な研究が可能となっています。また、これら研究所には学生時代にも出入りすることは可能であり、1年次の早期体験実習では薬理研究所を訪問することで医学研究の面白み、深みを経験させています。

最後に
 研究医の育成の必要性は全ての教員は強く認識しています。その達成にむけての必要なその要点は(1)研究についてのモチベーションをあげること、(2)生涯にわたる特に基礎医学系研究医の経済的基盤を確保すること、(3)将来のキャリアパスに明るい展望が広がっていること、が最低限必要と考えています。昭和大学医学部も他の私立医科大学と同様に開学以来臨床医の育成に主眼をおいておりましたが、研究医の育成は大学の発展には必須の課題であります。研究マインドの涵養、研究心の向上など種々の医学研究に対する取り組みの緒に就いたばかりで、実績は十分とは言えません。今後も、多様性が期待される医師の重要な領域である研究医の育成について医学部だけでなく大学として取り組んでいきたいと考えています。