*第56回*  (2020.2.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は東海大学での取り組みについてご紹介します。

東海大学医学部における研究医養成の取り組み
文責 : 東海大学大学院医学研究科 研究科長
東海大学医学部 副学部長
小林 広幸 教授

1.はじめに
 東海大学医学部医学科では「”科学とヒューマニズムの融和”の精神に則り、社会的役割を認識し、人に対する尊厳を忘れない人間性豊かな『良医』を育成する」という教育目標のもと、我が国初のクリニカルクラークシップの導入をはじめ、基礎医学と臨床医学を横断的に学ぶ統合型カリキュラム、充実した海外留学制度、模擬患者の活用による問題解決型学習、スキル・クリニックの運営など、時代を先行した発想で様々な試みに取り組んできました。
 さらに、他の医学系大学では類をみない、本学の斬新的な取り組みのひとつとして、大幅な編入学枠を設けていることがあげられ、入学後にさまざまな背景・文化を有する学生同士が互いに刺激し合いながら、社会性や人間性を磨ける環境を実現しています。
 研究面では、医学部設立当初から「自らが新しい研究成果や概念を発信する」という理念を掲げ、高い専門性と強い研究志向を持ち、社会の指導的立場を果たすための倫理観を持った専門医、あるいは医学者を輩出してきました。その研究を支える基盤として、2009年より「臨床研修/大学院コース」を開設し、卒後臨床研修と大学院の両立を図ってきました。コースについては学部学生にも周知して、研究マインドを持った専門医を目指すことの重要性を卒前卒後でシームレスに強調しています。

2.医学科カリキュラムの中での研究医養成の取り組み
 卒業時のコンピテンスとして、(1)豊かな人間性、(2)社会的役割の認識、(3)論理的・創造的思考力、(4)応用可能な医学的知識、(5)総合的医療実践技能、(6)グローバルな視点、を掲げています。1年次では個別体験学習、2-3年次では「医学専門選択科目」を実施しています。そこでは、「研究マインドの高揚」を含めて、「研究課題となるような未解決の医学的問題を認識し、その解決に向けてのアプローチを学び、将来のキャリアの上で医学研究の重要性に気づく」ことを目指しています。1年次の個別体験学習では、基礎系・臨床系の各教室へ少人数で配属され、基礎研究・臨床研究を含む医学研究を体験します。2-3年次の「医学専門選択科目」では、選択により基礎系・臨床系の各教室へ配属された学生は、基礎医学実験や臨床研究に携わることが可能になっています。それらを契機に「自主的研究活動」を継続する学生も現れ、学会発表や論文掲載等で顕著な実績をあげたメンバーには「学生表彰」を行い「研究マインドの高揚」を図っています(『プロフェッサーのヒヨコ達』第56回を参照)。

3.研究ユニット制(従来の枠にとらわれない自由な研究環境)
 医学部医学科は学びの場であると同時に、最先端医療を支える研究の場でもあります。こうした研究の分野においても東海大学の独自性が活きています。東海大学医学部医学科、大学院医学研究科、付属病院では、学系や診療科という枠にとらわれずに研究ができる体制として「研究ユニット制」を採用しています。現在のユニット数は150にも及びます。個々の研究ユニットは相互に並列の関係にある自由な存在で、学生でも自らの興味と意思があれば、医学部医学科教員らとともにユニットへ参加し、研究に挑戦できます。
 こうした研究体制は、旧来の講座医局制の廃止によってもたらされた成果であり、学際領域研究や国際協力などにおいても、その自由度が活かされています。

4.2009年度より「臨床研修/大学院コース」開設(卒後臨床研修と大学院の両立)
 研究医としての本格的なトレーニングは大学院から始まります。大学院医学研究科では春季と秋季の年2回募集を行い、大学院入学の門戸を広げています。4年間の定員は140名です。新専門医制度のために大学院での学位取得が遅れる大学が多い中で、医学研究と専門研修を並行して履修できる専門研修プログラムを設定しており、制度の上からも研究マインドを高揚する工夫をしています。
 「臨床研修/大学院」コースについては、医学部入学時のオリエンや臨床研修ガイダンス等でも繰り返し周知するようにしています。コースは本学付属病院に専攻医(本学では臨床助手)として勤務しながら、大学院での修学を可能とするプログラムで次のような特徴があります。
(1)臨床助手給与の70%が支給されます。

(例:1年次の年額 約360万円〈そのほか各種手当あり〉)
(2)臨床助手として様々な福利厚生が適用されます。

(例:各種保険、院内保育所の利用…)

(3)昼夜開講等の実施により病院勤務と大学院の両立が可能となります。

(4)期間内の開講授業、学位取得へのサポート等の条件は、他の大学院生と変わりません。
2019年11月時点で、37名が「臨床研修/大学院」コースに在籍し、各専門領域における臨床能力の向上、専門医としてのスキル獲得、そして臨床医学を支える基礎研究の3つに取り組んでいます。
 また、早期修了制度を設けています。大学院3学年までに必要30単位以上を修得し、研究科教授会で定めた基準を満たした主論文・参考論文を提出して論文審査に合格した者は、最短で3学年で大学院を修了することを可能としており、ここ数年は毎年1名の早期修了者が誕生しており、後輩の励みにもなっています。

 臨床的なセンスを持つ基礎系研究者・指導者を数多く擁していることも、医学系大学院に求められる要素です。東海大学医学部ならびに大学院医学研究科には、臨床への還元を十分に意図した研究を継続している基礎医学研究者が多数おり、医局講座制を廃止し、3.で述べた研究ユニット体制など横断的な研究体制をいち早く確立している点も本学が誇るべき特徴です。さらに、グローバルな交流を深め、世界規模の研究成果を発信していくために、医学部での留学制度はもちろんのこと、医学研究科においても積極的な海外交流を推進しています。さらに、複数の研究ユニットが有機的に融合するような形で発展・拡充したセンターが、大学院医学研究科内に現時点で10領域設置されています。これら領域の研究に興味がある医師には広く門戸が開かれており、自由闊達な研究が可能となっています。もちろん、これらセンターには医学生も出入りすることが可能であり、1年次の早期体験実習ではセンターを訪問可能とすることで医学研究の面白み、深みを経験させています。

5.おわりに
 時代とともに、医療は目覚ましい進化を遂げていますが、常に最新の医学の専門知識・技術を備え、患者さんや医療スタッフとコミュニケーションを図りながら最良の医療を提供して社会貢献を果たすのが、「良医」の務めです。「良医」を育成する上で、「研究マインド」を涵養することの重要性は全ての教員が肝に銘じています。研究医養成の取り組みを強化するために、(1)さらなる研究マインドの高揚、(2)研究医のキャリアを歩む上での経済的基盤の確保、(3)国内外での研究医としての将来性のあるキャリアパスを提示できること、などが重要と考えています。研究医養成は”科学とヒューマニズムの融和”を目指す東海大学の発展には必須の課題です。奨学金制度の拡充や大学院授業料の減額、学部生の時からの大学院科目の履修を正式な単位として認める早期履修制度を整備するなど、医学部だけでなく大学全体として取り組んでいきたいと考えています。

(資料)
東海大学大学院医学研究科「臨床研修/大学院」コース

http://www.med.u-tokai.ac.jp/daigakuin/index.html