*第63回*  (2021.4.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は兵庫医科大学での取り組みについてご紹介します。

兵庫医科大学の研究医コース―学生にもっと時間を!―
文責:  兵庫医科大学 鈴木 敬一郎 副学長(学部教育・内部質保証担当)、生化学教授 

特色
 第3学年次、第4学年次で大半の授業科目の出席・試験を義務付けません。日中から選んだ研究室でじっくり研究できます。5年に進級した段階で、すべての科目に成績がついて単位が認められます。全国屈指の大胆で魅力的なコースです。


はじめに
 本学は建学の精神に則り、社会の福祉に貢献する医師を養成してきました。その一方、大学病院として不治の病を克服する研究も重大な使命と考え、IL-18の発見など大きな成果を挙げてきました。また学生も才能に恵まれ研究者として十分な資質を有する学生も少なくありません。しかしながら情報量が年々増加する医学教育の過密さに流され、研究を縁遠く感じる学生が多いのが現状です。そこで基礎講座配属、英語論文講読、医療におけるデータサイエンスなど研究の手ほどきを全学生に対して実施することに加えて、試験や講義出席の負担を減らし学生に十分な時間を与える大胆な研究医コースを定員増によって設置し、学生のモチベーションを挙げて基礎医学、社会医学をはじめとする医学研究者を増やしたいと考えています。


背景

 近年、研究を志す医師が減少しており、本学のみならず全国の医学部、そして日本のサイエンス全体にとって大きな問題となっています。特に初期臨床研修の必修化以降その傾向は顕著で、若手医師は専門医など資格取得や技術志向が強く研究離れが加速しています。今後新専門医制度の開始によってさらに状況は悪化すると思われます。そこで本学では第3学年次以降に独自の研究医コースを設置し、在学中から研究の面白さを実感してもらいたいと考えています。

 一方、在学中の学生は大変忙しいのが現状です。全国共用試験の導入、臨床実習の期間延長などでカリキュラムは過密化し、講義の出欠管理も日常的です。これまでの研究医コースではごく一部の学生が放課後に頑張っているだけでした。これではクラブ活動もアルバイトもデートもできません。そこで学生に十分な時間を与える制度を考えました。具体的には基礎医学の教育は免除しませんが、臨床医学の系統講義(特に各論)は自主学修とし、その代わり全講義を録画してネット配信をおこないます。また医学教育センターでの学修支援を行います。在学中から短期留学も可能です。一方、臨床実習は通常通りで卒業も一緒としています。奨学金も用意し、将来の身分保障も実施します。


概略

* 定員増は平成26年度より2名→平成28年度3年生から研究医コース開始。
* 研究医コースは3年生より10名(奨学金枠4名)、途中で離脱可能

* 3、4学年はほとんどの科目で出席と試験を免除し研究室に配属

* 免除した科目も単位付与

* 出席したい授業は自由に出席可能

* 医療者としての資質を涵養する教育、チーム基盤型学習、医学英語は受講
* 全ての講義はビデオ録画し、自宅・研究室で視聴可能

* 医学教育センターで学習進捗度チェック(「反転授業」)

* 進級判定は総合試験中心

* 基本的な臨床実習はそのまま。希望者は学外・選択実習も研究室配属

* 短期留学も可能

* 3~6学年で奨学金150万円/年→大学院学位取得、5年間研究従事で免除

* 奨学金非貸与は卒後の義務なし。

* 希望者は兵庫医大での初期研修も配慮


内容

 3年生を対象とした研究医「プレコース」と4年生から6年生を対象とする研究医「専門コース」から成ります。プレコースでは多数の教室・施設をローテーションして、研究医としての研究の土台固めを身につけます。一方専門コースでは、特定の教室・施設を選択し、専門とするテーマをもって本格的な研究者生活を送ります(図1)。

図1 研究医カリキュラム概要図 
 

 「研究医コース」の学生は、研究に必要な専門教育、倫理教育、技術指導などを受け、テーマを持って研究を実施します。研究成果で毎年評価され、3年、4年では中間報告会や年度末に研究成果報告会が開催されます(図2)。学会発表と卒業論文提出を医学部卒業要件としています。研究教育体制では、研究医専門コースの指導教員をメンターとするメンター制度を作っています。学生は、本学での研究教育期間だけではなく、終了後もメンターの研究助言を受けることができ、将来自立した研究者に成長するように全面的に支援します。既存の共同研究施設と動物実験施設は、学生の研究手技の習得を支援するとともに、研究の場を提供します。また、海外留学については、国際交流センターが支援します。

図2 研究成果報告会 
 


 医学教育では3、4学年はほとんどの科目で出席と試験を免除します。2020年度の第3学年次を例にとって考えた場合、履修が必要な科目は、「医学英語」「症候病態TBL(I)」「在宅ケア(訪問看護)実習」「医の倫理・研究倫理とプロフェッショナリズム」「チーム医療演習」「内科系まとめ試験」のみです(図3)。講義のビデオ録画視聴に加えて並行して双方向の医学教育も受け、必要に応じて医学教育センターの個別指導を受けて学力を担保します。学生は日中から研究室に行って実験などができます。基本的な研究時間は通常の講義時間に準じますが、実際は指導教員と学生で自由に設定できます。また夏休みなどの休暇も通常通りですが、これも相談して変更可能です。この期間に短期留学なども可能です。また研究医学生の専用自修室も設けています。

図3 ある年度の3年カリキュラム:赤字のところのみ出席義務 

 本コースの最も独創的な点は、3年次以降通常カリキュラムの削減を大胆に行って研究時間を確保しながら、医学教育センター(専任教員4名)のサポートにより教育レベルを落とさないところにあります。すなわち研究医を目指す医師・研究者を育てる上でさらに重要なことは、親身な指導を行い、不安感を除去することであると考えています。配属した研究室の教員が研究指導を行うだけでなく、学生研究支援グループの先生方が将来の不安や進路についてもアドバイスします。医学教育センターでも様々なサポートを行います。言い換えるなら、このコースは研究を志す学生の「シャペロン」でありたいと考えています。「シャペロン」とは基礎医学ではタンパク質の正しい折りたたみ(フォールディング)などを助けるものですが、本来の意味は初めて社交界にデビューする若い女性をサポートする介添え役を意味します。すなわち、研究を志す学生さんに実験手技と研究の楽しさを教え、無事研究者として学会デビューを果たすまで親身に支えることを目指しています。

奨学金

 第3学年次以降、年間150万円(4年間最大600万円まで)を貸与します。貸与奨学金については大学院修了後5年間本学で研究スタッフとして研究業務に従事すればその返済を免除します。


連携とコンソーシアム

 本学以外に関西で研究医コースを有する関西医科大学、大阪医科大学、神戸大学医学部、奈良県立医科大学と共同してコンソーシアム合宿を行い、研究成果の発表や学生の交流を行っています(図4)。また兵庫医療大学、関西学院大学とも連携しています。

図4 コンソーシアム合宿でのポスター発表風景 
 


現状と将来

 これまで各学年2名から6名在籍してきました。2020年度は6年生:2名、5年生:2名、4年生:4名、3年生:3名です。昨年の卒業生1名は卒業後初期研修1年目から基礎医学講座大学院に夜間大学院生として進学しました。徐々に定着し、リサーチマインドの種は根付いていると感じています。ただし全国屈指の大胆で魅力的なコースと思いますので応募者がもっと多数であることを期待していましたが、最近の学生は他の学生と違うことをするのが怖い/淋しい、試験を免除されると自分で勉強する自信がないなどの理由で、躊躇するようです。今後低学年からこのコースを学生と保護者にアピールし、安心して多数の学生に参加してもらえるようにしたいと考えています。その中から世界の第一線で活躍する人材が輩出することを期待しています。


ホームページ

https://www.hyo-med.ac.jp/research_course.html