*第65回*  (2021.8.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は久留米大学での取り組みについてご紹介します。

久留米大学医学部研究室配属Research Mind Cultivation Program(RMCP)
文責:  久留米大学医学部内科学講座腎臓内科部門 教授 深水 圭 RMCP部会長 

はじめに
 久留米大学医学部は創立100周年に向け学生教育をさらにより良いものにするため、教育カリキュラムの改革を行ってきました。学生自らが研究を行うことにより、医学における研究の大切さを自覚しうるカリキュラム、実習がこれまで存在しなかったこと、さらに大学人として将来研究医を目指す人材を養成すること、大学の今後の発展に寄与する人材を育成することなどを目的として、2016年からRMCP委員会を立ち上げ、1年間準備を行いました。そして2017年度久留米大学医学部第3学年教育カリキュラムに研究室配属プログラムであるResearch Mind Cultivation Program(RMCP)が策定され、現在まで計4回行われました。グローバルスタンダードに沿った教育を実施するために必要であるJACME受審も視野に入れ検討されたプログラムでもありましたが、現在では医学生のモチベーションを高める教育プログラムとして重要視されています。

これまでの研究室配属
 研究室配属プログラムは学内講座プログラム、学生企画プログラム、国内留学プログラム、海外留学プログラムの4つの研究コースから構成されており、講座が提示した研究内容を学生自らが希望・専攻し、研究に没頭するというカリキュラムです。第1回から第3回までは6週間(夏休みを利用すると8週間以上)で研究を行ってきましたが、初年度には国内留学として順天堂大学、慶應義塾大学にご協力頂き、海外留学としてシアトル科学財団、ボストンハーバード大学ブリガムウィメンズ病院、リューベック大学にそれぞれ留学し、素晴らしい成果を残してくれました。大学講座配属となった学生も多彩な研究を経験し、最終的には全員ポスターを作成し、その成果を久留米大学医学部の学祭“あのく祭”に掲示しました。外部の一般の方にも研究内容を見て頂くことで、久留米大学の医学教育の一端を一般の方々にアピールできたのではないかと思います。さらには医学生自身のモチベーション向上に寄与し、学生のポスターは業績集として冊子に製本し、全講座に配布、さらには全てのデータを学生に還元することで、自分以外の同級生がどのような研究を行ってきたかを確認することができるようにしました(下記参照)。さらに、教員による学生評価も重要と考え、医学生の講座での振る舞い、すなわち態度評価を担当教官が行い評価します(下記参照)。このプログラムは研究のみならず全人的な教育、コミュニケーション能力の向上を目指しています。多くの大学も学生のマッチングは煩雑で苦労すると思いますが、当大学ではまず学生に第10希望まで調査し、第1希望講座が重複した場合には、各々の講座が丁寧に面接を行い、研究生を決定する方法をとっていますので、学生も面接に向けてしっかりと準備を整えます。

RMCP業績集の実際 
 

RMCP教員による学生評価表 
  学籍番号 
   氏名 
この評価表はチェックリストとして各講座の担当者で活用してください。
評価者は、特にすぐれている5、特に劣っている1としてチェックして下さい。
 

(1)基礎知識の量と理解度
□ 5 知識の量や理解度は、特に優れ、教員とも質の高い討論が可能であった。
□ 4 知識の量や理解度は、十分なレベルと判断される。
□ 3 知識の量や理解度は、それなりに実習応用できていた。
□ 2 知識の量や理解度は、やや低かった。
□ 1 知識の量や理解度は、医学科三年生として乏しく支障あると考えられえる。 

(2)実習遂行のための情報の収集
□ 5 関連情報の収集とその理解は、特に優れており、一歩、進んだ情報提供を行った。
□ 4 関連情報の収集とその理解は、充分に行われていた。
□ 3 関連情報の収集とその理解は、おおむね満足のいくレベルであった。
□ 2 関連情報の収集とその理解は、断片的であり、必要情報が欠けている事があった。
□ 1 関連情報の収集とその理解は、かなり不十分であった。
(3)実習手技の習得
□ 5 実習手技の習得は、特に優れていた。
□ 4 実習手技の習得は、おおむね優れていた。
□ 3 実習手技の習得は、ほぼ満足のいくレベルであった。
□ 2 実習手技の習得は、劣っていた。
□ 1 実習手技の習得には至らなかった。
(4)実験ノートへの結果の記載
□ 5 結果の記載は、きわめて詳細、正確で模範的であった。
□ 4 結果の記載は、おおむね優れていた。
□ 3 結果の記載は、おおむね充分な内容であった。
□ 2 結果の記載は、大雑把で断片的な面が目立った。
□ 1 結果の記載は、大半が意味不明であった。
 
(5)実習結果の解釈
□ 5 結果の解釈は、特に優れており、一歩、進んだ解析を行った。
□ 4 結果の解釈は、優れていた。
□ 3 結果の解釈は、核心には到達していた。
□ 2 結果の解釈は、劣っており、理解に到達していない。
□ 1 結果の解釈は、ほとんど出来ない状態であった。
 
(6)結果のまとめ(ポスター)について
□ 5 きわめて良く重要な情報が網羅されていた。
□ 4 重要な情報がおおむね網羅されていた。

□ 3 呈示内容は整理されており、おおむね適切であった。
□ 2 整理は不十分、かつやや不正確であった。
□ 1 全く整理されていず、断片的であった。
 
(7)医学生(研究生)としての態度
□ 5 研究チームの一員としての意義をよく理解し、実習にきわめて積極的であった。
□ 4 研究チームとしての自覚は充分で、その活動に積極的であった。
□ 3 研究チームの一員として、大体において、信頼がおけた。
□ 2 研究チームの一員としての自覚がやや希薄で、日々の業務に消極的であった。
□ 1 研究チームの一員として当てにならない。
 
(8)自己学習能力と柔軟性
□ 5 自己を評価し、率先して学習していた。
□ 4 建設的な意見や評価を受け入れ、学ぶ姿勢がみえた。
□ 3 建設的な意見や評価を理解することができた。
□ 2 自分の不適切な点の改善に抵抗があった。
□ 1 自己の不十分さに、全く気付いていなかった。
 
(9)他のメンバーとの関係
□ 5 他の学生、医師、技術職員など、すべてのメンバーの感情を尊重することに長けており、チームの一員として行動できていた。
□ 4 他の学生、医師、技術職員と良好な関係を保ち、チームの中でうまく協力して行動できた。
□ 3 他の学生、医師、技術職員と適切な関係を保ち、チームの中で業務に参加できていた。
□ 2 時々、他の学生、医師、技術職員との関係が難しかった。
□ 1 他の学生、医師、技術職員などに対して不快な思いをさせた。チームの中で協力して行動できなかった。
 
出席状況の確認
□  正当な理由のある欠席を除き、全日程に出席した。
□  無断欠席(早退・離脱)などがあった(回数   、備考                 )
 
評価表を用いた評価    点(    点満点)
 
             平成  年  月  日  所属

   評価者
RMCP 実習指導者                   
             平成  年  月  日  教授サイン 

コロナ禍におけるRMCP
 2020年度のRMCPはコロナ禍で大変困難な状況でした。特に海外留学を予定していた学生は中止を余儀なくされ、学内講座プログラムに変更しました。国内留学は1件のみでした。しかしながら、このような状況下においても学生に対し熱心に研究指導を行って頂きました全ての教官、スタッフの皆様には本当に感謝しています。研究のearly exposureは多様化する医学教育カリキュラムの中において、医学の探求に対するモチベーションを養う重要なツールではないかと思います。RMCPを契機に、研究を通じて学生と教員が永続的に交流することにより、学生が医師を身近に感じ、さらに自身の将来の医師像を思い描きながら、今後の学生生活を充実したものにしてもらいたいと切に願います。そのためにも現在の状況が世界的に落ち着けば、海外留学も再開できるのではないかと考えています。現在我々腎臓内科医局にも3学年時にRMCPで回ってきた学生が6学年として実習にやってきます。成長した姿を見ると嬉しいものです。学生との機会を今後も大切にしていきたいと思います。

今後のRMCPへの期待と問題点
 2020年度は臨床実習の拡充などを含んだ新カリキュラムへの移行に伴い、RMCPの実習期間が6週間から4週間に短縮されました。さらにコロナ感染拡大のために、実習も十分に行えなかった講座もあったかと思います。しかしながら、ポスターを見ると、どれも内容は素晴らしく、教員の評価も高かったです。今回はコロナ禍による“あのく祭”の中止に伴い、全員のポスターを学生棟である教育1号館に展示しました。多くの学生がポスター前で色々と議論をしていました。研究は結果よりも過程が重要であり、結果が出ないことが真実である場合もあります。今回の研究を通して自身のデータを正直に、真摯に受け止め、解釈をすることが重要であることを学んでもらえたのではないかと思います。RMCPで得た医学生としてのモチベーションを学生生活に活かし、医学の道をさらに邁進してもらえれば嬉しく思います。
 RMCP後に行ったアンケートでは、9割の学生が研究前後でモチベーションに変化が生じ、半数近くが医師になっても研究継続希望と回答してくれています。しかしながら、学生の自由記載を確認すると、RMCPの課題がみえてきます(下記図)。特に実習時間に関して基礎と臨床講座の間に格差が存在し、帰宅時間や指導時間について学生が不満に感じることもあったようです。多忙な教員は不在のことも多く、指導が行き届かなかったことも課題です。さらに、第3学年ということもあり、臨床・研究を経験していない状況で研究課題を選定せねばならないなど、講座選択の問題も浮き彫りになりました。今後は講座内のサポート体制の構築や指導時間の統一化、学生の講座選択をサポートするために、各講座の研究紹介を動画にて配信するなどの工夫が必要と考えます(下記図)。さらに、教官・教員へアンケートを行う予定であり、さらに充実したRMCPとなるよう検討を重ねていく所存です。

図:学生へのアンケートから得られた課題と対策

最後に
 我々の研究室配属プログラムであるRMCPは歴史が浅く、始まって間もない状況です。多くの大学では、以前から医学生としてのモチベーション向上、研究マインドの育成を目的に研究室配属プログラムを行ってきているのではないかと思います。我々もさらにより良いRMCPとなるよう、他大学の研究室配属プログラムを参考に積極的に改革を行い、医学生が研究医を目指すきっかけになるよう医学教育に邁進していきたいと思います。