*第27回*  (2020.6.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は鹿児島大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携
文責:  鹿児島大学大学院医歯学総合研究科医歯学教育開発センター
鹿児島大学医学部 
田川 まさみ 教授
河野 嘉文  医学部長・教授

 鹿児島大学医学部では、地域に貢献する大学として地域医療を担う人材育成を目指すとともに、地域を学ぶこと、地域で学ぶことがすべての医師育成に重要であると位置付け、地域医療機関と連携した教育、研修を推進している。
 卒前教育では、2年次の科目「チーム医療1」で、地域の医療機関、保健、介護施設の見学実習、臨床実習前の3-4年次の科目「シャドウイング」では、医療機関(診療所、病院)、検診施設、保健所等での実習を行っている。4年から6年までの72週にわたる診療参加型臨床実習では鹿児島県内の地域医療機関も学生を受け入れ、さらに学生全員が離島地域医療実習で学んでいる。

 大学病院の臨床研修プログラムの協力病院は21(うち公立病院7)であり、地域医療研修を行う協力病院・施設は県内21、宮崎県1、さらに9か所の北海道大学との協力施設と連携している。大学病院内に組織されている地域医療支援センターは、地域枠医師の支援と鹿児島県内の専門研修プログラムの情報提供等を行っている。鹿児島県の修学資金貸与を受ける「地域枠」学生の臨床研修後の勤務先としては、74の医療機関が登録されている。

 このように、大学病院を含む鹿児島県全域の医療圏が教育・研修における多数の地域医療機関との連携の基盤となり、プライマリ・ケアから高度先進医療、終末期医療の学びの場となっている。

   
  図 「シャドウイング」の実習と大学、地域医療機関の連携


 本学の地域と大学との連携を推進する組織として離島へき地医療人育成センターが果たす役割は大きい。平成13年度に医学部に離島医療の担い手を育成する目的で、世界でも初めての離島医療学講座を設置し、平成19年度からは医学生必修の離島医療実習を開始した。これらの実績をもとに、平成25年には離島へき地医療人育成センターが、全国の医学部学生、大学院生、および離島医療を志す医師に対して教育プログラムを作成し、実習・研修を行うために設置され、現在に至っている。

 教育学とカリキュラムの運営の視点から見た本学の「地域との連携」には以下の特徴がある。


1)患者、地域、地域医療の経験

 離島地域医療実習では、地域で実感する鹿児島の歴史と文化、気候や地理的条件、医療資源に応じて提供される医療・保健活動を学んでいる。学生にとって、多様性を受け入れる医療者の姿勢を学び、地域からの期待と自身の責務を考える貴重な機会となっている。2014年の6年生を対象とした調査研究では、学部教育で地域貢献に関する優れたロールモデルを認識したと回答した学生は89%に上った。そして、大学病院の患者からも「地域医療を支える医師になってほしい」という言葉が学生・研修医には投げかけられることも少なくない。学びの機会は地域医療機関内にとどまらず、教育・研修のあらゆる場に存在している。


2)大学と地域との連携によるカリキュラム

 地域での経験をより深い学びとするカリキュラムも本学の特徴である。例えば「シャドウイング」では、大学でのオリエンテーションで、学生は地域医療機関等で何を学ぶのか、どのように振る舞うことが期待されているのかを議論する。実習中は、地域指導者が学生の事前学習状況や医療現場での振る舞いを評価し、医療の実践方法の理解が進むよう指導する。さらに、実習後には学生の振り返りに基づいて今後の課題を明らかにする指導を大学教員が行う。個人と地域社会の予防医療、健康増進も、大学教員と実習機関が協力してカリキュラムを構築している。離島地域医療実習も準備からまとめに至るカリキュラムにより、確実な学習を目指している。


3)地域指導者と大学教員との連携

 担当教員は、学習内容や指導方法、評価方法、さらには実習機関への学生の移動等について、実習受け入れ機関と細かな打ち合わせが欠かせない。鹿児島市内であっても公共交通機関で行けない実習先が多く、離島地域医療実習ではなおさらである。地域の教育担当者が大学に集まってFDを行うことが容易ではない本学では、大学の担当者が離島を含む医療機関を訪問し、教育・研修の目的をご理解いただきながら協力をお願いし、大学教育の目標を達成するために連携を図ってきた。


4)学習の成果

 離島地域医療実習後には、地域の魅力とともに地域医療に携わることの現実的な問題を認識する学生が増える傾向が示されている。卒業する学生を対象としたアンケート調査では、本学の良い教育として低学年からの学外実習や離島地域医療実習での体験を指摘する学生は多い。鹿児島の特色を生かした医療体制と人との関わりが生み出す教育・研修において、学生、研修医は医師として働く社会を理解するための経験をしている。


 「地域で学ぶ」成果を、卒業後に地域医療に関わっている医師数等だけで表すことはできない。学生、研修医の時に患者、地域から温かく見守られ、指導医に叱咤激励された経験が、医師としての患者や社会への姿勢となりプロフェッショナルな医師育成となっていることを期待し、今後も地域との連携を推進していくものである。新型コロナウイルス感染拡大に伴い中断している地域での学生実習が再開できることを強く願っている。


離島へき地医療人育成センター http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/ecdr/greetings.html
医歯学教育開発センター    http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~mediedu
               http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~profedu/
地域医療支援センター     https://renkei.kufm.kagoshima-u.ac.jp/