*第28回*  (2020.7.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は宮崎大学での取り組みについてご紹介します。

「卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携」
― 宮崎大学医学部の取り組み ―
文責 :   宮崎大学 片岡 寛章 医学部長

はじめに
 宮崎大学医学部の前身である宮崎医科大学は、宮崎の地に地域に根ざした高度な医学教育機関を作りたいという宮崎県民の熱い期待を背負い、国の一県一医大構想のもと、昭和49年(1974年)に創設された。開学にあたっての理念は「仁、術、知」の調和した人材の育成であり、さらに「地域における医学・医療のセンターとしての役割を果たすために、地域に開かれた大学である」と位置づけられていた。爾来、46年が経過し、これまでに4007名の医学科卒業生を輩出し、卒業生が宮崎県の医療を支えるようになってきた。しかし、いまだ宮崎県は九州内で唯一の所謂「医師少数県」であり、加えて宮崎県内における地域偏在と診療科偏在の問題も抱えており、宮崎県で唯一の医師養成機関である宮崎大学医学部の責任は大きく重い。国立大学に対する持続的な運営交付金削減圧力、高齢化と人口減少、働き方改革、さらには新型コロナウイルス感染症などにより社会がおおきく変容するなかで、地方国立大学は教育機関としての本質を見失うことなく優れた医療人を輩出し、また地域の医療を守らなければならない。
 本稿では、宮崎大学医学部における地域医療に関する臨床実習・研修の現況と、宮崎県都農(つの)町の「ふるさと納税制度」を活用して新たに設置された寄附講座「地域包括ケア・総合診療医学講座」による、地域長期滞在型の臨床実習構想について紹介したい。


医学部・自治体・県医師会の連携を核にした地域医療教育

 地域に立脚する国立大学法人宮崎大学の医学部として、我々はこれまで、地方自治体および県医師会との密接な協力体制構築を目指してきた。卒前・卒後の医学教育においても常にオール宮崎を意識した実習・研修体制を組み立てており、この要となる医療人育成支援センターの設置と役割については前医学部長による前回(平成29年)の寄稿に詳しい(既成の価値観にとらわれない地域医療と医療人育成のスキーム変革:http://www.chnmsj.jp/chiikiiryou_torikumi54.html)。医療人育成支援センターの医学教育担当専任教授は附属病院の卒後臨床研修センターも管理・運営しており、県内全域と密着した多彩な実習・研修フィールドを確保し、大学病院を中心に協力型臨床研修病院(38病院)及び研修協力施設(17施設)から科目別に自己目標に応じた研修先を選択できる、自己創作型の卒後研修ローテーションを実現している。さらに、地域枠入学生が卒業後に選択することになるキャリア形成プログラムの制度設計についても、宮崎県および県医師会と医学部が密接に連携し、在学生も加えた徹底的な討論と制度設計を行ってきた。これらの成果を踏まえ、これからの地域医療を守るための地域枠入学制度および卒前・卒後教育に関する連携協定を宮崎大学医学部、宮崎県、宮崎県医師会にさらに県教育委員会も含めた四者で近く締結し公表することとなっている。

宮崎大学医学部における地域医療臨床実習
 宮崎大学医学部医学科では、地域医療・総合診療医学講座が中心となり、平成26年度より全員必修の地域医療臨床実習を開始した。最初は県南部での3日間のみの実習であったが、平成28年度からは宮崎大学が指定管理者となった宮崎市立田野病院と併設介護老人保健施設さざんか苑が加わり、平成29年度に実習場所は県内全域へと広がった。平成30年度からは臨床実習期間が72週に延長したことを受け、6週間の体制となった。その内訳は4-5年次に行われるクリニカル・クラークシップ
の間に2週間、5-6年次に行われるクリニカル・クラークシップの間に4週間の地域医療実習を全学生必修で行うものである。クリニカル・クラークシップは主として宮崎市立田野病院を活用して行われるが、クリニカル・クラークシップは宮崎県内7医療圏すべてにわたる82医療機関(病院43、診療所39)が実習受け入れに協力することになった。各医療圏での実習説明会や指導者講習会などを経て実現したものであるが、中心となって奮闘した地域医療・総合診療医学講座は言うまでもなく、県医師会・地元医師会と自治体関係者等の協力の賜物と考えている。クリニカル・クラークシップでの地域医療臨床実習は「地域包括ケア実習」と名付けており、地域包括医療・ケアの現場を網羅的に経験してもらうこと、学生1人ずつ異なる実習内容となること、チーム医療の一員として診療参加型実習が実践できることを重視している。四週間の実習期間中、実習先に任せきりにならないよう、地域医療・総合診療医学講座ではGoogle Classroomを利用した学生へのきめ細かいフィードバックとWeb会議システムを利用した週間振り返りを行っており、実習先指導者とはインターネット上のグループウェアを利用して情報共有を行うと共に、最終日には大学に全員が集まって実習内容の共有と全体での振り返りを行っている。

寄附講座を活用した、長期滞在型地域医療実習の実現

 年々緊迫する財政状況のもと、全国の国立大学医学部においても、教育・研究・診療における人材と水準を維持するためには、寄附講座などの設置などによる第三者機関との連携と資金導入は必須となっている。宮崎大学医学部においても自治体との連携による寄附講座の設置や企業ないし地域医療機関との連携による共同研究講座の設置を進めている。前述した地域医療・総合診療医学講座は、その前身が平成22年に宮崎県からの寄附講座「地域医療学講座」として発足したものである。令和元年には、キャリア形成プログラムの運営が自治体と制度が適用される医師の双方にとって有益なものとなるよう、宮崎大学医学部と宮崎県福祉保健部が密接に連携して、医療人育成支援センター内に宮崎県地域医療対策協議会の下部組織である宮崎県地域医療支援機構の大学分室を設置した。ここでは宮崎大学医学部地域枠出身の若手医師男女二名を助教として雇用し、キャリア形成プログラムに同意予定の学生達にとって良き相談相手となってもらっている。これらに加え、今年には地域医療教育と総合診療医育成のための新たな寄附講座が宮崎県都農町との連携で設置
された。

 

 都農町は南北に長い宮崎県の中央やや北寄りの日向灘沿いにある町で、広大な農地に恵まれているが、例にもれず人口減少と高齢化、地域医療体制の維持に頭を悩ませている。同町は2年前に宮崎大学と連携協定を締結し、「ふるさと納税」の寄附を原資に「一般財団法人つの未来まちづくり推進機構」を昨年設立した。この構想の一環として、本年には宮崎大学医学部に同機構からの寄附講座「地域包括ケア・総合診療医学講座」が設置された。医学部に設置された寄附講座ではあるが、現場はあくまで地域である。この設置にあたっては、都農町長が本学の地域医療・総合診療医学講座教授と共に視察した米国オレゴン州立大学医学部の地域医療実習教育におおいに触発されたと聞いている。
 本寄附講座は都農の町立病院に設置された「宮崎大学医学部都農キャンパス」であると我々は捉えている。既に二名の総合診療医が教員として現地に配置され、診療と学生実習指導にあたっている。この都農寄附講座における今後の卒前臨床実習では、地域における一か所滞在型長期実習の実現を目標としており、来年からは希望者による応募と厳正な選考のうえで、クリニカル・クラークシップでの3カ月(12週間)にわたる一か所滞在型長期臨床実習(Longitudinal Integrated Clerkship)をスタートさせることが決定している。これは、ともすれば細切れで短期間になりがちな地域医療現場におけるさまざまな実習を、一か所で包括的に行おうとするもので、医学教育界の世界的な流れであり、包括的かつ継続的に患者のケアに関わり、患者と関わるすべての医療関係者とも交わり、学ぶことが可能となる。また同時に複数専門分野(総合診療、小児科、外科)を統合した診療参加型実習を経験することで、基本的診療能力もしっかりと身につくと考えている。加えて、元気な学生たちが長期滞在することで、地域のコミュニティーにさらなる活気を与えてくれることを期待したい。