*第30回*  (2020.9.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は鳥取大学での取り組みについてご紹介します。

「卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携」
文責 :   鳥取大学 黒沢 洋一 医学部長
 鳥取大学医学部は、昭和20年(1945年)設立の米子医学専門学校を前身として、米子医科大学を経て、昭和24 年(1949 年)に設置されました。平成2年(1990年) には、生命現象の基本的な真理の探究や疾患の原因を解明し、最先端の医療法を開発する研究者の育成する学科として生命科学科が、医学部に創設されました。平成11 年(1999年) には、看護師と臨床検査技師を育成していた鳥取大学医療技術短期大学部が保健学科となり、医学部は3学科体制となっています。鳥取大学医学部は、2020年に設立75周年を迎え、この間、山陰の医学教育・研究・診療、そして人材育成の中核としての社会的使命を果たしてきました。

1)人間性涵養教育による、全人的医療人養成
 
ヒューマン・コミュニケーション 
 医学教育では、鳥取大学の特色である、「ヒューマン・コミュニケーション」、「基礎手話」の授業等、人間性涵養教育による全人的医療人養成を行っており、医学教育分野別評価(平成30年7月受審)の際にも高い評価を受けました。他者とのコミュニケーション能力を有し、患者への理解やいたわりの心を持ち、臨床的実践力を有し、他職種連携によるチーム医療のなかで中心的役割を果たすことができる医療従事者の養成を重要なミッションと考えています。鳥取大学医学部は、高度専門医療と同時に、「地域医療」教育にも力を入れ、高度専門医療と地域医療が対立するのではなく、お互いに補完し合いながらやっていく必要があると考えています。
 1年次の早期から本医学部の特徴であるコミュニケーション教育を1~3年次まで段階的に学習して、臨床実習へ継続できる体系化されたプログラムとなっています(下図)。1年次に保育所での乳幼児、老健施設での高齢者と接する「ヒューマン・コミュニケーションⅠ」、大学附属病院や地域の診療所・病院、福祉施設を訪問する「早期体験・ボランティア」、聴覚障がい者と交流し手話を習得する「基礎手話」、2年次には、「ヒューマン・コミュニケーションⅡ」、3年次には「メディカルコミュニケーション」などがあり、この間、基礎医学の講義実習、その後臨床講義が引き続き行われ、各臨床系分野が水平統合形式に横断的な臓器別系統講義を担当しています。4年次より臨床実習前準備として、地域医療体験と臨床実習入門があり、その後の臨床実習につなげています。5年次の臨床実習Ⅰは必修で42週間、26 診療科を1グループ4~5名で実施しています(来年度からは、新カリキュラムの進行により4年次後期後半から臨床実習が開始される予定です)。6年次の臨床実習Ⅱでは海外施設(フィリピン)を含む学外11施設と学内27診療科を学生の希望に応じて選択式で各々2~4週間、計12週間を実習します。総合診療、地域医療に関しては学外関連施設との連携で実習を行っています。6年次では地域の医療機関での臨床実習経験を推奨しています。このように鳥取大学医学部は、医学教育において地域の医療機関と密に連携しており、連携の調整やさらに医学教育を発展させる協議の場として、「医学教育関連病院協議会」を設けています。
 

2)地域医療学講座と地域医療教育
 
地域医療総合教育研修センターでの実習風景 
 地域医療教育の充実のため、鳥取大学医学部と鳥取県は協同して2010年に寄附講座として地域医療学講座(各3名の教員を供出し、教員6名体制)を設立しました。地域医療学講座は、地域医療教育による地域医療人財の育成、医療過疎地への人材サポート、地域枠学生のキャリア支援を行っています。地域医療教育カリキュラムを充実されるため、4年次の地域医療体験実習、および臨床実習Ⅰ,Ⅱでのプライマリ・ケア体験の機会を増やすため、2014年に鳥取県日野町の灯の病院に地域医療総合教育研修センターを設置しました。
 
大山町鳥取大学家庭医療教育ステーションの
創立(2019)
 
 その後、2019年には鳥取県大山町の大山診療所に家庭医療教育ステーションを設置しました。地域の臨床現場での臨床参加型実習に取り組んでいます。これは、医療過疎地に医師派遣を行いつつ人材育成をおこなうという2つのねらいをもった活動でもあります。
 鳥取大学医学部には現在19名の鳥取県地域枠の制度(他に島根県地域枠、兵庫県地域枠もあり、それぞれの県と連携し教育、研修を行っています。)があります。その地域枠学生のキャリア支援のため、低学年から地域医療を担う県内医療機関の見学や研修会・学習会などを企画し、高学年では鳥取県地域医療支援センター(鳥取県、鳥取大学、県内医療機関、自治体と連携し、地域における医療ニーズおよび医療提供体制の実態を把握・分析し、医師のキャリア形成支援や医師不足病院の支援等を行うことを目的として2013年1月に開設)と協働して卒後のキャリア支援面談を実施しています。2019年からは「鳥取の総合診療専門医を育てるプログラム」を稼働し、総合診療医を育成する取り組みも開始しています。将来の地域医療を担う人材育成のための卒前、卒後の教育システムが徐々に整ってきたと考えています。

3)臨床研修と地域医療機関との連携
 鳥取大学医学部附属病院では、2002年1月に卒後臨床研修センターを設置し、臨床研修体制の整備を行ってきました。研修医の多様な研修ニーズに応えられるよう、8つのプログラムを実施しており、地域とともに歩み社会の求める医療を提供できる医師の養成を行っています。プログラムの運用にあたっては、本院と関係性の高い県内外の関連病院の中から36機関を「協力型臨床研修病院」に、また、へき地および離島にある医療機関の中から34施設を「研修協力施設」とする合計70の医療機関を臨床研修病院群に登録しています。さらにその中で、県内外の22施設で地域医療研修を受け入れていただいております(2020年度に開始される研修では16施設)。2020年度の臨床研修制度 到達目標、方略、評価の見直しに際し、大学病院内の総合診療外来のみでは不十分な一般外来研修を補完・強化するため、一般外来研修の実施が可能な県内の2施設に新たに臨床研修病院群に加わっていただきました。また、鳥取県には、県内の基幹型臨床研修病院8機関で運営する「鳥取県臨床研修指定病院協議会」があり、研修医育成と地域医療の推進を目的として連携・協力して臨床研修セミナーや臨床研修指導医講習会を開催するほか、研修医の救急講習会受講費補助やマッチングのための合同説明会出店、学生による病院見学の旅費支給を行っています。県外医療機関との研修の連携例では、「関西たすきがけプログラム」があり、1年目に関西の協力型病院で優先的に研修し、2年目を鳥取大学で研修を行い、後期研修を視野にいれた研修が可能としています。
 専門医制度は2018年度から始まり、鳥取県内では、鳥取県地域枠の専攻医が4割近くを占めています。鳥取県「特別養成枠」以外は従事要件に診療科の制限がないため、多くは医学部附属病院の専門研修プログラムによって、県内の医療機関に派遣され専門研修をしつつ地域貢献をしています。鳥取県の中山間地には、5つの公的病院がありますが、その内科・総合診療に関する医療については、毎年約15名の医師が派遣されています。専攻医のさまざまな希望に対して県と地域医療支援センターが附属病院の各診療科や地域医療機関と連携し、キャリア形成支援を行っています。
 上記のように、当医学部の全人的医療人養成の医学教育・研修は、地域の医療機関、行政、住民の皆さんの多大な協力がありはじめて可能となっています。多忙な診療活動のなかで医学教育・研修にご協力いただいている地域の医療機関の皆様には心より感謝申し上げます。現在の新型コロナウイルス感染症流行の困難な状況下にもかかわらず、地域の医療機関の皆様には、感染予防対策に細心の注意を払っていただきながら臨床実習にご協力いただき、実習に参加した学生も深く感謝しております。
  最後になりましたが、新型コロナウイルス感染症の早期の終息と、ご協力いただいた医療機関、また、全国の医学部の益々のご発展を祈念し、この稿を終えたいと思います。