*第31回*  (2020.10.23 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は筑波大学での取り組みについてご紹介します。

「卒前卒後の医学教育における筑波大学と地域医療機関との連携」
文責 :   筑波大学医学医療系臨床医学域地域医療教育学
 
前野 哲博 教授

 <背景>
 筑波大学では、2004年から①知識伝達型講義の大幅削減と問題基盤型テュートリアルの全面的導入 ②本格的な参加型臨床実習 ③信頼される医療人として必要な知識・技能・態度を継続して学習する医療概論 を3つの柱とするカリキュラムを導入し、2016年からは臨床実習の枠組みを見直し、さらに本格的な参加型臨床実習が実践できる体制を整えてきた。
 地域医療教育は、医療概論の大きな一つの柱として位置づけられており、教育カリキュラム、教育フィールド、指導体制ともに大幅な強化が図られてきた。さらに、地域で活躍する人材を養成するべく、平成21年より茨城県地域枠入試を導入し、定員枠は初年度の5名から順次増員を図り、現在は茨城県内枠26名、全国枠10名の計36名の地域枠定員を設けている。茨城県地域医療支援センターと連携を図りつつキャリア支援を充実させて、地域医療で活躍できる人材の養成に努めている。

<教育フィールドと指導体制の確保>
 効果的な地域医療教育には、充実した指導体制の下で、実際の地域医療の現場で学ぶことが必要不可欠である。そこで本学では、大学の持つ教育機能を、地域医療教育に最適のフィールドに展開することをコンセプトとして、地域医療教育センター(教員5名以上)・ステーション(教員5名未満)制度を導入している。これは地方自治体・企業・団体等が教員の人件費、校費、教育費等を負担し、大学がその経費で教員を採用して県内の医療機関に配置するシステムであり、その拠点に学生・研修医・専攻医等を重点的に派遣して地域医療教育の充実を図っている。
 この仕組みが最初に導入されたのは、「いばらき地域医療研修ステーション事業」(2006年)である。この事業は、茨城県が指導医の人件費を大学に委託し、大学が指導医を雇用して地域診療所・小病院に派遣することで、在宅ケアを含む地域医療の理想的なフィールドと充実した指導体制の両立を実現した。
 2009 年には、茨城県地域医療教育学寄附講座の開設に伴い、神栖地域医療教育ステーション(のちにセンター)に2 名の教員が配置された。この講座を活用して、県内有数の医師不足地域である神栖市に学生が1 週間滞在して、訪問看護、住民体験実習、地域健康教育、乳児検診等を幅広く経験する地域滞在型実習を実施している。
 同じ年には、水戸協同病院に筑波大学附属病院水戸地域医療教育センターが設置された。同院では、総合診療科を中心とする診療教育体制を大幅に強化し、市中病院でありながら大学病院の教育機能を持つ先進的なモデルとして注目を集めている。
 その後、同様の試みが県内各地の医療機関と連携して導入され、現在では県内のすべての二次医療圏に、地域医療教育センター・ステーションが設置され、80名を超える教員が配置されている(図)。
 本システムの導入により、大学と地域医療機関が緊密に連携できるため、卒前教育、臨床研修、専門研修ともに、一貫性のある大学―地域循環型プログラムのもとでシームレスな教育を実践することが可能となる。このことは、教育の充実はもちろんのこと、当該医療機関にとっても、大学との連携や教育の充実といった特長を前面に出すことで、医師を安定して確保できるという大きなメリットになっている。
 この地域医療教育センター・ステーション制度は、大学と地域住民、自治体、地域医療機関等が一体となって「地域で働く医師は地域で育てる」システムを実現したもので、地域医療教育の先進的なモデルとして大きな成果を上げている。