*第32回*  (2020.11.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は福井大学での取り組みについてご紹介します。

「卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携」
文責 :   福井大学医学部地域医療推進講座
 
寺澤 秀一 特命教授
1.進化する総合医ロールモデルによる卒前・卒後教育
 平成25年にスタートした地域医療の指導者養成に特化した大学院(地域総合医療学)コースを弾みにして、本学総合診療部の医師達は以下の三領域に進化しつつある。特に③の地域社会総合診療医は本学独自の進化といえよう。
  病院総合診療医 
    県内の中規模総合病院(公立丹南病院、あわら病院、福井厚生病院など)において総合内科医として外来と入院診療を行う医師達である。中には外科系病棟の副主治医として内科的な診療支援を担い他科との新しい協力体制を構築しつつある医師もいる。 
  診療所総合診療医 
    県内の診療所(和田診療所、今庄診療所、池田町診療所、永平寺町立在宅訪問診療所など)において外来診療や訪問診療を行う医師達である。この中には福井市内で24時間体制の訪問診療に特化した診療所を運営する医師団も出現している。 
    地域社会総合診療医 
    平成21年から始まった高浜町からの寄附講座の地域プライマリケア講座は、井階友貴教授のもと、高浜町とその住民達との連携により健康づくりとソーシャルキャピタル熟成事業が展開されている。 

 上記の三領域の総合医達は県内の診療所や中小病院で診療や活動をしながら、以下のように卒前卒後教育に参画している。

 ・大学での医学生への地域医療の講義

 ・関係施設での医学生、研修医の地域医療実習の受け入れ

 ・ワンデイバック ; 週一日、大学病院の総合診療部外来で医学生、研修医、専攻医の指導

 ・福井県健康推進枠の医学生達に特化した地域医療の実習の受け入れ

 ・総合医を目指す専攻医の修練施設として専攻医の受け入れ


2.大学病院を基盤とした地域医療教育への体制構築

① 大学病院サテライトクリニックのスタート

 診療所と中小病院が修練施設となる総合医養成プログラムでは、どうしても医学生や研修医に前述の総合医のロールモデルが見えにくい傾向が否めなかった。それを払拭するべく大学病院を基盤とする総合医養成プログラムを構築するために、大学から歩いて数分の場所に福井大学と永平寺町との連携(図1)により、令和元年8月から永平寺町立在宅訪問診療所を開設した(図2)。運営は永平寺町で診療は本学総合診療部の医師達(常勤2名:所長医師と専攻医、非常勤医師:5名)が担当する。

 これにより医学生や看護学生の診療所診療・訪問診療の実習(卒前教育)が可能となり、研修医や専攻医が遠距離移動や引っ越しをせずに診療所研修(卒後研修)が可能になった。大学病院での病院総合診療研修と、永平寺町立在宅訪問診療所における診療所総合診療研修
が卒前卒後の両方で可能となったことは、今後、この教育ユニットの全県への拡大に弾みがつくと期待している。

図1 本学と永平寺町との締結式 図2 永平寺町立訪問診療所

② 総合診療医センターの開設が内定
 厚生労働省の支援を受けて、福井大学医学部総合診療医センター(仮称)の開設が内定した。図3に示すようにこの総合診療医センターがコーデネーターとなって県内の診療所と中小規模病院施設を総合医養成の教育の場に進化させる役割を担うことになるであろう。これにより、医師不足で苦戦している施設のマンパワー確保も可能となるはずである。

図3 総合診療医センター構想
   

3.今後の課題
 課題① ; 得意分野をもった総合医養成の体制構築

 今後はプライマリケア連合学会の専攻医研修プログラムに加えて、何らかの得意分野を持った総合医の養成が可能となる教育体制の構築が総合医を目指す専攻医の意欲を向上させるために重要と考えている。総合診療医センターは、県内のあらゆる施設と連携してその教育体制の構築も担える組織になると期待している。

 課題② ; 各科専門医の総合医への進化を支援する体制構築

 人口減少とAIの普及、専門医配置の適正化の政策などにより、各科専門医の数は次第に制限され、今後は各科専門医の資格を取得しても、その後に資格を更新することに苦戦する医師が増えると思われる。彼らの中には総合医へ進化する道を選ぶ医師も出現するはずである。彼らが総合医に順調に進化できるように再研修体制の構築が重要となる。総合診療医センターはそれにも県内の各施設と連携して大きな貢献をすると期待している。