*第5回*  (H30.8.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は名古屋大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における名古屋大学と地域医療機関との連携
文責 :  名古屋大学医学部総合医学教育センター
 名古屋大学医学部
藤原 道隆 准教授
門松 健治 医学部長

はじめに
 名古屋大学においては、1969~1970年頃のいわゆる大学闘争時代に、医局非入局、自主的な診療科選択によるスーパーローテート研修、いわゆる「名大方式」と呼ばれる卒後臨床研修が始まったが、これは大学病院ではなく市中の関連病院においてであった。新臨床研修制度導入後の現在も、当時の基本的な精神が引き継がれている。この歴史の上に多くの関連病院との間で臨床研修のネットワークが構築され、卒業生が大学病院に一極集中することなく、関連病院と研修を分担しながらプライマリケアを実践できる医師を育成してきた。さらに、初期研修修了後も関連病院において専門医資格を取得する者が多い。その後、卒前の臨床実習の一部も関連病院で行うようになり、地域医療機関との緊密な連携が本学の教育の特色の一つである。


1.卒前教育

(1) 臨床実習の一部の関連病院における実施
 臨床実習のうち、5年生と6年生のそれぞれ4週間を関連病院において実施しており、5年生はおおむね複数科をローテートし、6年生は診療参加型実習を期待した1診療科固定のスケジュールでお願いしている。本学においても、医学教育分野別認証評価に備えたカリキュラムの改革を進めているが、現時点では、関連病院での実習はすべて6年生とし、診療参加型の実習を1診療科固定4週間×2施設で行う構想である。
(2) 地域枠入学制度と地域枠学生に対するカリキュラム
 愛知県の医師数、特に病院勤務医師数は全国平均より少なく、全ての医療圏において医師不足による診療制限が行われており、都市部の名古屋医療圏も例外でなく、17%の病院で診療制限を行っている。こうした病院勤務医の不足に対し、本学でも平成21年度からいわゆる「地域枠」入学を設定している。「地域枠」学生は、卒前教育において独自カリキュラムが組まれており、3年生で設定されている基礎社会医学セミナー(基礎および社会医学系講座で約半年間研究体験を行う)では、地域医療教育学講座(愛知県、名古屋市等の寄附講座)に配属し、地域医療に関する調査や研究を行っている。本講座で、本学保健学科のほか、他大学の薬学部、看護学部、社会福祉学部などと連携して多職種連携教育(IPE)を行っていることも本学教育の特色のひとつである。
(3) 地域の研究機関における基礎医学セミナー
 既述の3年生の基礎社会医学セミナーは、従来は、本学の基礎社会医学系講座で研究体験を行うものであったが、愛知県がんセンター研究所や生理学研究所など、本地域の研究機関への学生の配属も開始した。

2.卒後教育
(1) 初期臨床研修
 歴史的にも地域の関連病院の存在感が大きい。平成16年度から始まった新医師臨床研修制度は、それまでの「名大方式」研修と共通点が多かったため、新制度導入後も卒業生の進路に大きな変化はない。今年度の本学卒業生の進路は、3名が名大病院で、101名が関連病院において初期研修を開始している。一方、名大病院で今年度初期研修を開始した12名のうち、本学以外の9名の出身大学が8大学という多様な背景が良い効果を生んでいる。「名大方式」のオリジナルコンセプトは自主ローテートで、かつては学生の自主性にすべて任せていたが、当地域の医師不足状況を背景として、名大病院と関連病院、あるいは関連病院間の連携、研修内容の平準化といった調整機能が全国からの研修医の獲得に関して喫緊かつ重要となり、新制度発足に先立って名大病院・関連病院卒後臨床研修ネットワーク(以下、ネットワーク)という組織を立ち上げた。事務局は名大病院の卒後臨床研修・キャリア形成支援センターが担っている。ネットワーク構成病院は当地域の他大学の関連施設にもなっていることも多く、開かれたネットワークであり、関連病院を縛るような存在ではない。ネットワークの69病院全体の今年度の研修医採用状況は、本学の卒業生104名を含めて全国の大学から500名の卒業生を採用した。
 名大病院では、研修医2年次に研修医の形成評価を行う研修医OSCEを行っているが、地域医療に力を入れている関連病院のひとつである大同病院と合同で行っている。研修医どうしの交流がはかられるとともに、1年にわたって準備を行うなかで研修医教育に関与するスタッフの日常的かつ密接な交流が生まれている。
(2) 後期研修
 内科、外科では、従来から初期研修に引き続き、基本的な(1階部分の)専門医取得まで関連病院で修練することが多かった。新専門医制度でも、内科、外科では拠点的な関連病院が基幹施設となっているプログラムが多数ある一方で、他科では名大病院が唯一の基幹施設となっているプログラムもあり、診療科によって大きな違いがある。内科、外科においてもすべてのプログラムで名大病院が連携施設として加わっており、これまで本学の各医局が担っていた初期研修修了後の人材配置の調整機能を今後もできるだけ維持することをめざしている。名大病院は本年4月に新専門医制度による専修医を33名採用したが、彼らの病院内の種々の庶務も卒後臨床研修・キャリア形成支援センターが担当しており、今後予想される専修医増加に対する機能強化が急務となっている。
(3) 研修指導医の養成
 ネットワークとして年1回の指導医養成講習会を行っており、実際の運営は卒後臨床研修・キャリア形成支援センターが行っている。この講習会を機会に、各関連病院の教育担当者がお互い顔見知りの関係となり交流を深めることにも大きな意義があると考えられる。
(4) 医学部学生と関連病院の交流行事
 全国から公募した医学部学生と、関連病院の医師達の交流の場として、シミュレーション・ワークショップを開始した。本学のクリニカルシミュレーションセンターで、各関連病院の医師が各種のシミュレータを用いて実技指導を行う会で[写真]、ここにおいても学生と医師のみならず、関連病院の教育を担う医師同士の知識や技術の交流の場としても意義があり、今後継続していく予定である。

 名大ネットワーク・シミュレーション・ワークショップ
関連病院の指導医と名古屋大学(および他大学)の学生の交流の場