*第26回*  (R5.11.13 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は山形大学での取り組みについてご紹介します。

地域医療構想を踏まえたこれからの医学教育
文責 :

山形大学医学部医療政策学講座

村上 正泰 教授

はじめに

 山形大学医学部は、一県一医科大学構想に基づき、「人間性豊かな、考える医師の養成」を建学の精神に掲げ、1973年に設置された。2023年に創立50周年を迎えた。山形県内唯一の医育機関であり、これまで多くの医師を輩出し、その結果、県内の多くの医療機関で本学出身の医師が中心的な役割を占めるようになっている。
 しかし、2020年7月に策定された『山形県医師確保計画』では、山形県は医師偏在指標の全国順位が40位で「医師少数県」に設定されており、医師不足の状況にある。4つの二次医療圏別に見ると、村山地域は71位で「医師多数区域」だが、241位の庄内地域、334位の最上地域は「医師少数区域」であり、より一層の医師確保が喫緊の課題となっている。
 他方で、少子高齢化・人口減少に伴って医療ニーズも変化している。2016年9月に策定された『山形県地域医療構想』では、他県と同様に、病床数の適正化、急性期から回復期への機能の転換、在宅医療等の拡充が求められている。地域医療構想の回復期には、(文字通りのpost-acuteの回復期だけではなく)在宅・介護施設等で療養中の患者の急性増悪の受け入れ(いわゆるsub-acuteの亜急性期)も含むものと理解されている。今後は、慢性疾患を抱えて療養生活を継続する高齢者などが症状の悪化や変化を繰り返しながら、最期の看取りへと至るプロセスを支える診療機能に対するニーズが増大する。地域医療構想における急性期から回復期への転換とはこうした方向性を反映したものであり、在宅医療等の拡充と合わせて考えると、「地域包括ケアシステム」の時代にあって、入院・外来・在宅医療を通じて、虚弱・要介護高齢者の複合的で全人的な医療ニーズに継続的に関わっていく機能の必要性が増えるのである。特に山形県は高齢化率が34.8%で全国6位の高さであり、その傾向がより顕著である。
 こうした状況に医学教育でどのように対応していくのかという観点から、本稿では、本学における医学教育について、「地域医療学」の内容と臨床実習での学外病院との「広域連携臨床実習」などの取り組み、さらには山形県内への医師定着促進のための地域枠の現状について説明する。

「総合医学演習:地域医療学」について

 地域医療については、さまざまな臨床系の講義の中でも、それぞれの領域の視点から触れられてはいるが、地域医療の在り方を全体的に俯瞰して捉える機会として、医学科4年次に「総合医学演習:地域医療学」を開講している。この授業は、医療計画や地域医療構想など、地域医療を取り巻く制度的な枠組みについて学んだ上で、「地域包括ケアシステム」を中心に、地域における多職種連携や在宅医療の推進など、地域医療の現状と今後の課題についての理解を深め、地域医療に貢献するための基礎的知識を身に付けることを目的とするものである。
 上記の内容を解説する2コマの座学による授業に加えて、半日をかけて3つのグループに分けて地域病院見学実習に赴いている。訪問先としては、最上町立最上病院、小国町立病院、朝日町立病院にご協力いただいている。これらの町の人口と高齢化率は、最上町が約7,600人で49%、小国町が約6,800人で47%、朝日町が約6,000人で51%であり、いずれの病院とも高齢化が著しく、過疎化の深刻な地域の中小病院である。最上町立最上病院と小国町立病院は、病院に老人保健施設等の施設を併設し、朝日町立病院は併設をしていないものの、近隣にある特別養護老人ホーム等とも連携しており、それぞれに体制に異なる面はあるが、いずれも地域の特性に応じながら「地域包括ケアシステム」の構築に取り組んできている。したがって、病院だけではなく、関連施設も併せて訪問している。そして、それぞれの施設で多職種の方々からご説明いただくとともに、病院長からも講義を受け、超高齢化の進む地域における多職種連携の取り組みや在宅療養と入院、施設入所との関係などを具体的に説明していただいている。
 今後の課題としては、将来的な医療ニーズの変化を考えると、臨床系の講義を含めて、地域医療に関する教育を整理し、より体系的に構築する必要があると考えられる。

広域連携臨床実習

 本学における地域医療を通じた教育の取り組みとしては、「山形県広域連携臨床実習」を挙げることができる。これは、2012年から大学病院だけでなく市中病院も加わり、クリニカルクラークシップを実施しているものであり、医学部と市中病院が医学教育に関して連携し、卒前・卒後教育の一体化を図るとともに、県内医療機関への関心を高めさせ、地域に根差した医療人の育成と地域医療の発展に資することを目的としている。10年以上の実績を積み重ねている。当初は3病院からスタートした連携先は、現在では15病院に拡大している。連携先の内訳としても、急性期の基幹病院だけではなく、ケアミックス型の中小病院も含まれており、地域医療の多様性を経験することが可能となっている。4週間を1フェーズとして実習のプログラムが組まれているが、どの学生も大学病院以外に3つの市中病院で実習を行っている。広域連携臨床実習の実施に必要となる費用は、山形県健康福祉部から支援を受けており、行政も含めて地域が一体となった人材育成の取り組みとなっている。
 全ての病院が同じ学生評価基準を用いたり、運営会議を経て患者の同意の取り方等、細かな点までフォローするといった臨床実習の質を担保する点も高い評価を得ている。医学生への教育効果は高く、医学部卒業生の県内定着増加にも貢献している。なお、「山形県広域連携臨床実習」の枠組み以外でも、ベッドサイドラーニング、クリニカルクラークシップにおいて、それぞれの診療科ごとに地域の病院や診療所での実習を実施しており、より幅広い実習の機会が提供されている。
 今後ともこうした取り組みを通じて、本学の医学生が地域の中で医療に対する知識と見識を深め、将来的に山形県の地域医療の量的確保と質的向上につながるように努めていきたい。

地域枠の現状

 最後に本学における地域枠の現状について述べておきたい。本学では地域枠を2015年度から導入しており、当初は入学定員125名のうち、地域枠が8名であったが、その後、入学定員、地域枠ともに随時の見直しを行っており、2024年度には入学定員が113名、そのうち地域枠は13名となる。すなわち、全体の入学定員を削減している一方で、地域枠の学生は増加させている。地域枠については、「地域医療構想」と(さらには「働き方改革」とともに)「三位一体の改革」として取り組むことになっている「医師確保計画」で、「必要な地域枠数を地域医療対策協議会の協議を経た上で要請できる」こととされている。今後とも医師数の需給状況を見極めながら、地域枠数の調整を検討する必要がある。
 本学の地域枠は、山形県内の高等学校の卒業生を対象として、「山形県医師修学資金」の貸与を受けることを条件としている。「山形県医師修学資金」では、医師免許取得後、同修学資金に基づくキャリア形成プログラムに従って、県内の指定する医療機関で必要な期間の勤務をする義務が課されているが、その期間は、貸与期間の1.5倍、すなわち通常は9年間とされており、そのうち4年以上は医師少数区域等の医療機関等に勤務することになっている。2015年度に入学した地域枠の卒業医師が昨年度で初期研修を終え、今年度からは後期研修等に入っており、県とも十分な調整を重ねながら、地域枠卒業生のキャリアパスが本人の希望にも沿いながら、充実したものとなるように運用していく必要がある。
 また、県内への医師定着の増加のためには、地域枠だけではなく、それ以外の学生の定着も不可欠であり、そのためには、地道な取り組みにはなるけれども、山形大学医学部と関連病院、山形県医師会、山形県や県内各市町村などが一丸となって、山形県の地域医療とそこでの暮らしの魅力をより一層高めていく努力を積み重ねることも重要である。