*第27回*  (R5.12.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は鹿児島大学での取り組みについてご紹介します。

鹿児島大学における地域医療構想を踏まえた医学教育
文責 :

医学部長

大脇 哲洋 教授

はじめに

 鹿児島大学医学部の目的は、全人的医療を実践しうる医療人の育成と、独創的研究を行える研究者、及び優れた医学教育者の養成にあります。私どもは「病める人、″いたみ"をもつ人」を対象とし、これらの人々の苦痛を克服し、人間らしい生活を提供する為に、病気に対処し、予防するとともに社会全体の健康管理に積極的に貢献することによって、人間性の向上や日本を含む国際社会の発展に役立つことを使命としています。
 明治2年に、前進である通称赤倉病院から近代医学教育施設として始まった医学教育、特にイギリスの実証医学を基本として、bed side teaching を行ってきました。鹿児島県内の1000人を超える派遣医師の約90%は、鹿児島大学病院からの派遣医師であり、長きにわたり、南九州の医学・医療を護る責務の下、地域医療構想にも関わってきています。
 こうした中、鹿児島大学憲章に、「地域とともに社会の発展に貢献する総合大学」と示す様に、グローバルかつローカルな視点に立つ、グローカルな人材育成を目指す大学として、2023年日本経済新聞社の調査では、大学の地域貢献度総合5位(学生・住民ランキング2位、SDGs・グローバルランキング1位)。更に2023年日本経済新聞社と日経HR企業人事担当の大学イメージ調査にて就職力ランキング2位、大学の取り組みランキング1位。THE Impact Rakings 2023では、総合ランキング国内17位、SDG17「パートナーシップで目的を達成しよう」では国内3位、と社会からの高い評価を受けています。

鹿児島県地域医療構想調整会議

 令和5年8月で20回を重ねる調整会議を開催しています。この会議は、医療法に基づく保健医療計画、高度急性期、急性期、回復期、慢性期、在宅医療と、医療・介護・福祉等とも関係し、地域包括ケアの視点、医療政策、医療経済、疾患統計、少子高齢化社会、医師の働き方改革、地域医療の問題点などの知識を必要とし、更に包括的で俯瞰的な視点での問題解決能力を必要としています。できるだけ、こうした考え、考え方、自己学習能力を学ぶ機会を多く与え、この会議で必要とされる多様な視点・考え方を身につけられるよう、学部教育を行っております。

地域医療教育

 鹿児島大学では、地域医療を、「地方の土地や、大病院以外の場所の事では無く、一つのシステムとして住民を取り巻いている、生活する領域、基本的社会で行われる医療」として捉え、本学の医学生は、講義・演習・実習(見学型、参加型)で学んでいます。
【講義・演習】
 4年次前期、臨床実習開始前に、「地域・総合診療・症候」の中で、総合診療、地域医療、在宅医療、医療行政、医事関連法規、地域包括ケア、地域医療構想、地域での心身医療、地域包括ケア演習(英文論文抄読によるbio-psycho-social model/micro-macro systemを学び、それを模擬患者に導入し、地域包括ケアを考える)、チュートリアルを34コマ(1コマ90分)行っています。
【臨床実習】
 鹿児島県は、南北600 kmの県土を有し、日本列島3000 kmの1/5を占めます。孤立した島々も多く抱えており、恵まれない部分もありますが、
(1)小さなコミュニティー
   関わる人が限定
   自治体が近い(役場職員、保健師)
   医師が地域の多くを熟知(環境、人間関係等)
(2)都市部から遠い
   地域完結型医療が求められる 
   学生を大切にしてくれる
(3)第一線の診療が行われる (1st touch)
   common disease が学べる
といった、地域医療教育としては、優れたフォールドでもあります。その特徴を活かして、
1年次:患者の意見を聞き、医師としての在り方を考える。「初期地域医療実習1」(選択科目)として、離島やへき地に5日間滞在する。
2年次:「初期地域医療実習2」(選択科目)として、離島やへき地に5日間滞在する。
3年次:「地域医療研究」(選択科目)として、地域の問題点を考え調査・研究の形に仕上げる。
4年次:必修科目「シャドウイング」では見学型で、地域の行政、保健所、保健センター、診療所、様々な介護老人保健施設を訪問する。
5~6年次:必修科目「離島・地域医療実習」では、2週間の診療所を中心とした滞在型の診療参加型臨床実習、2日間の在宅医療専門医療機関での実習、住民向け健康教室への参加(保健センターが実施している住民健康教室への参加)、癌患者との直接対話(NPO法人 がんサポート鹿児島 の協力)を行っている。
以上のような、らせん型に近い地域医療教育を行っています。

 

さいごに

 鹿児島大学では、広い県土、多くの離島、全国1位の離島人口を有する鹿児島県全体を医学教育フィールドとして捉え、地域住民の生活を含めた地域包括ケア、実践される地域医療を学んでいます。鹿児島県の産業別有業者数の19.1%は「医療・福祉」であり。女性に限っては、29%を占めています。地域医療構想の場で、効率化のみを認めれば、大きな職場を失い、ルーラル地域から都市部へと若者を誘導する事になってしまいます。医事や医療経済だけからではなく、地域経済、地域活性化、都市部から地方への人の移動を進めるためにも、実態を踏まえた幅広い視点からの地域医療教育が必要であり、これからも実施していこうと考えています。