*第30回*  (R6.4.2 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は鳥取大学での取り組みについてご紹介します。

鳥取大学における地域医療構想を踏まえた医学教育
文責 :

鳥取大学医学部長

景山 誠二

1. 鳥取大学医学部における地域医療教育の課題

 地域医療構想、医師の地域偏在、地域医療の人材育成としての地域枠、医師の働き方改革、医療再編、これらの課題を解決する策を探るための取組の一端をご紹介します。

 医学部の基本的な使命は、医療分野のガイドラインを理解し使用できる力を学部学生に付与し、これを原動力にして、医療人かつ研究者としての基盤を作ることです。他方で、教員と学生との共同研究を通じた社会貢献が期待されます。さらに、教員と大学院生との共同研究には、論文を通じた国際社会への貢献が期待されます。とりわけ、教員と学生・大学院生による「共同作品」は、医学部の個性であり、構成員の喜びの源泉でもあります。地域医療への貢献を目指した医学部教育も、この文脈の中にあります。

 鳥取大学医学部は、医学科、生命科学科、保健学科の3学科で構成され、大学院医学系研究科は、医学専攻、医科学専攻、臨床心理学専攻の3専攻で構成されています。多様な医療の進化に貢献するため、様々な専門性を持った教育・研究組織が配置されています。本稿では、医師を中心にした医学科・医学専攻の課題に焦点を当てます。用語を単純化するため、「医学部・大学院」標記を多用しますが、「医学科・医学専攻」と読み替え下さい。

 鳥取大学医学部として目指すべき到達点のひとつは、様々な面での余裕の確保です。医学部卒業生の地元残留数、大学院入学者数、(教員候補としての)附属病院医員数、(医員に支えられた)診療系教員の時間的余裕、(これらの環境が許容する)学生・大学院生と教職員の共同研究の実施、そして、共同研究を通じた社会貢献の質・量などが、その到達項目です。しかし、全てについて、十分に確保出来ているとは言えない状況です。

 こうした中、鳥取県域の地域医療の課題を解析し、解決に向けた選択肢を提示するために、鳥取県とのパイプ役として「鳥取県地域医療支援センター」が医学部内に設置されています。さらに、鳥取県を初めとした、様々な地域住民に有効な医療の在り方を模索する組織として、「地域医療学講座」が組織され、地域医療人材の育成と、近未来型の地域医療研究が始まっています。以下に、これら2つの組織運営とその成果を示し、「地域医療」をテーマにした、鳥取大学医学部における医学教育の課題と解決策の試みについて、ご紹介します。

2. 鳥取県地域医療支援センター

 図に、同センターの目的、体制、業務の概略を示しています。蓄積された課題解決の選択肢を作り、医学部・鳥取県・鳥取県医師会を含む総ての関係者による議論を可能にする構成となっています。

 同センターが関与する鳥取県の地域枠制度については、特別養成枠・臨時養成枠・地域枠・編入枠・一般貸付枠と入学生の意志・環境に応じた多様な枠組が用意されています。鳥取県で働く医師数の確保には、必要不可欠の制度となっています。この制度を欠いた場合、高齢医師の退職に伴い、鳥取県の医療を支える人材不足が懸念される深刻な状況にあります。アンケート結果(同センター調査)によれば、医師充足率(初期研修医を除く)は、鳥取県全体で85%、鳥取県の3圏域(東部、中部、西部)で81%、71%、86%と違いが見られています(図)。

 現在の不足を埋め将来に備えるため、地域枠入学生の卒後の役割が大きいことは無論です。その推測を裏付ける結果が以下の図に示されています。鳥取県内での臨床研修者数に占める地域枠OBの割合は、次第に増加し過去2年の集計では60%を越えています。勤務医師数に占める割合は50%弱であり、臨床研修者が勤務医となるころには、さらに増えると予想されます。このように、鳥取県内の医師の大半が地域枠OBとなりつつあります。

3. 地域医療学講座

 1年生には、基礎地域医療学講義に併せて「早期体験実習」を実施しており、遠隔地の特別講師による、オンデマンド配信の講義など、多様な講義の工夫をしています。

 3年生には、R2年度より新たに始めた「総合診療:症候学」講義全学生対象に実施し、「研究室配属」プログラムでは地域枠学生を対象にして研究教育を実施せいています。その他、大山町の高齢者の健康状況調査を行い、住民の方による大学病院の視察も受け入れました。自治医大訪問も適宜行っています。


3年生の研究室配属

 4年生に対して、「地域医療体験」プログラムを実施しており、鳥取県中西部および松江市の約30ヶ所の医療機関の訪問体験の経験を積ませています。

 5年生・6年生には、それぞれ、臨床実習Iと臨床実習IIの2サイクルのカリキュラムを用意し、鳥取大学地域医療総合教育研修センター(日野病院内)や鳥取大学家庭医療教育ステーション(大山診療所)でのそれぞれ異なったレベルの実習体験の機会を与えています。平成26年設立の鳥取大学地域医療総合教育研修センター(日野病院内)では、地域医療学スタッフによる、総合診療外来や病棟業務、在宅医療、地域の健康教育などの地域医療教育が続いています。

 課程表以外のカリキュラムとして、医学科・保健学科・YMCAの合同実習(くろさか春夏秋冬セミナー)も実施しています。地区視診・公民館祭りなどが、その内容です。

 医学生対象の全てのカリキュラムを通じて、地域枠学生(医学科1-4年)に、①地域枠制度の正しい理解 ②地域医療への接触機会を増やすことを目標とさせています。年度初めの地域枠総会で企画プロジェクトを紹介し、年1回は企画に参加してレポートを義務付けています。地域枠制度の理解のため、機会あるごとに制度説明をおこなっています。また、特別養成枠1年生/2年生は、チューターを決めてオンラインで定期的にグループ面談をしています。「地域医療学ハンドブック:君たちは地域医療をどう学ぶか」(ペーパー版、電子書籍)を作成し、地域医療の概念を学生に学びやすくする努力をしています。

 新専門医制度においては、鳥取県統一総合診療専門医プログラム「鳥取の総合診療専門医を育てるプログラム」が稼働しています。現在までに6名の専攻医が研修中です。指導体制の充実のため、月1回のレジデントデイでポートフォリオ作成の支援をしています。また、すでに教室員4名がプライマリ・ケア連合学会の認定医・指導医を取得、4名が家庭医療専門医を取得済です。また、総合診療医の次のステップ(専門領域)である「新家庭医療専門医プログラム」(日本プライマリ・ケア連合学会)「鳥取の家庭医療専門医を育てるプログラム」についても、R3年度から稼働しており、総合診療専門医2名、総合診療PG研修中2名の計4名が本プログラムに登録済みです。

4. おわりに

 地域医療は、地域住民の日常生活を支える基本的な要素です。その一方で、高齢化社会を迎えた日本の現代社会においては、様変わりすべきなのかも知れません。以前に比べて少ない人数で、さらには高齢の医療関係者が、高齢者を対象に医療をすべき時代を迎えようとしています。教員と医学生が共に模索する地域医療の調査や研究を通じて、地域医療という大きな社会貢献に、新たな手段で臨みたいと考えています。