*第31回*  (R6.4.5 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は筑波大学での取り組みについてご紹介します。

筑波大学における地域医療構想を踏まえた医学教育
文責 :

筑波大学医学医療系地域医療教育学

前野 哲博 教授

茨城県における地域医療の現状と課題

 茨城県は、人口当たりの医師数が全国ワースト2位、医師偏在指標でも全国ワースト5位の医師少数県である。県内9つの二次医療圏のうち6圏域が医師少数地域で、そのうち3つ(鹿行、筑西・下妻)は全国(335圏域)の下位10%に入っている。
 このように、医師数・医師偏在ともに問題を抱える茨城県では、全国的に見ても大規模な人数である71名の地域枠定員が設定されている。このうち、筑波大学は36名が設置されている。

筑波大学における地域医療教育プログラム

筑波大学における地域医療教育プログラムの概要を表1に示す。
 本プログラムは、1年次から6年次まで、縦断的に設置されている科目である医療概論の枠組みを活用して、地域医療に関する体系的な学修ができるよう計画されている。低学年において学習進度にあわせて十分な準備学習を行い、地域医療の特性や課題に関する理解と認識を高めたうえで、高学年の臨床実習において現場の体験を通して学びを深める実習を取り入れることで、より深い理解と実践力を修得できるのが特長である。また、地域医療を担う医療者の役割として、病気を発症した患者に適切に対応するだけではなく、健康の社会的決定要因やヘルスプロモーションの教育も取り入れていることが特徴である。
 これらのプログラムを通して、学生は地域医療の抱える問題点や、将来の課題について、目の前の患者の疾患というミクロな視点から、社会の動向や医療政策を踏まえてコミュニティ全体を俯瞰できるマクロな視点まで、シームレスにとらえ、対応できることを目標としている。合わせて、設備の整った大病院とは全く異なる地域医療の特性を認識し、その中で地域医療に貢献するキャリアの魅力や重要性を理解することも目標としており、地域医療構想を踏まえて大きな変革が予想される将来の地域医療で活躍できる人材の養成を目指している。


表1 筑波大学における地域医療教育プログラム
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地域における教育環境の充実

 本学の地域医療教育プログラムは、少数の希望者のみ実施するものではなく、そのほとんどが必修のプログラムとして実施されているのが大きな特徴である。そのため、本学の学生は全員、在宅ケアを含む地域の診療所も、地域医療の中核を担う病院も、必ず両方とも卒業する前に体験することができる。毎年約140名が実習するなかでこの教育環境を実現するためには、地域での受け入れ体制の充実が欠かせない。
 そのための仕組みとして、本学では地域医療教育センター・ステーション制度を活用していることも大きな特色である。これは、地域医療教育の拠点となる医療機関を指定し、寄附講座等の取り組みを利用して、地域医療教育センター(教員5名以上)またはステーション(教員5名未満)を設置して筑波大学から教員を派遣する仕組みであり、現在、茨城県内すべての二次医療圏に80名を超える教員が配置されており、全国的にも地域医療教育の先進的なモデルとして評価されている。
 その内訳は、大規模病院(500床以上)が3施設、中規模病院(100床~300床)が9施設、小規模病院(100床未満)が1施設、診療所が6施設であり、うち13施設は医師偏在指標における医師少数地域に所在している。指導は、大学から派遣されている教員と施設に勤務する指導医が協力して行っており、学生は、地域医療を学ぶ上で最適のフィールドにおいて、充実した指導体制の下で教育を受けることが可能となっている。


図1 筑波大学地域医療教育センター・ステーション
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文部科学省「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」

 本学と東京医科歯科大学との連携事業である「地域医療の多様なニーズにシームレスに対応できるオールラウンダー」は、文部科学省「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」に採択された。(事業概要ホームページ:https://postcorona-gp.tsukuba-tdmu.jp/
 本事業は、茨城県に地域枠を設置する2大学が緊密に連携し、地域医療においてニーズの高い横断的な領域として①地域医療、②総合診療、③緩和医療、④感染症、⑤難病・慢性診療、⑥救急医療の6領域を設定して、低学年から段階的に、現場での経験を通して学びを深める体系的な教育プログラムを導入する取り組みである。(図2)
 本学では、本事業を通して、地域医療のニーズに十分対応できる高い能力を備え、使命感を持って地域で働く医師を数多く養成することを目指した教育に取り組んでいる。


図2 地域医療の多様なニーズにシームレスに対応できるオールラウンダーの養成 概要図
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今後に向けて

 地域医療構想に示されているように、医療をめぐる環境は急激に変わりつつある。それに伴って、これからの医療者には、疾患の治療だけではなく、地域での暮らしを支え、健康を守ることに貢献できる能力を備えていることが求められる。本学においては、今後も地域医療教育プログラムの充実に努め、もって将来地域で活躍できる人材を数多く輩出していきたいと考えている。